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2020年08月15日11:26

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岡本喜八 血と砂 (ラピュタ阿佐ヶ谷)

 ラピュタ阿佐ヶ谷 GO!GO!GO! 愚連隊大作戦4本目。ラスト1本。

 Moviewalker https://movie.walkerplus.com/mv21547/

 戦争映画でありながら、涙あり、笑いあり、恋あり、音楽あり、青春あり、
謎解きあり。チラシの表現を借りれば「岡本喜八監督の撮りたい全ての要素を
ぶち込んだ、熱く泣ける、これぞ岡本愚連隊集大成!見逃したら全員、
飯抜きだ!」「飯抜き」は、登場人物の一人、犬山一等兵(出刃)=佐藤允、
が、炊事当番の七年兵であることから、兵隊同士の喧嘩の際に言う口癖。

 そして、不思議なほど「悪人」がいない。とてもほのぼのした人間模様
が繰り広げられる。そして、その「いい人」たちが、バタバタと次々に
死んでいく、それも、8月15日、終戦のはずだった日に。
 ここに喜八監督が愚連隊シリーズに込めたと言う、「戦争の愚劣さ」
がいかんなく現れている。

 軍楽隊の、まだ少年と言っていい年齢の分隊が、楽器を鳴らしながら
北支の荒野を行く。音楽学校を出たばかりの彼らができるのは楽器だけ。
それなのに最前線に送り込まれたのだ。
 その無茶な転属に反対したのが小杉曹長(三船敏郎)一人馬を駆り、
「ボーイスカウト」たちに追いついてくる。この登場がめちゃめちゃかっこ
いい。

 到着した佐久間大隊では敵前逃亡で、一人の見習士官が銃殺されたところ
だった。その銃殺で、容赦無く頭に銃弾を打ち込んだのが、犬山一等兵
(出刃)=佐藤允。なぜか、小杉曹長はこの銃殺刑にこだわる。その理由が
明らかになるのは映画の終わりである。

 果たして本当に敵前逃亡があったのか。小杉は佐久間隊長に詰め寄り、
殴り飛ばして営倉入り。しかし、佐久間隊長(仲代達矢)は、密かに小杉と
その能力を買っており、八路軍に奪われた通称ヤキバ砦という重要拠点の
奪回命令を下して営倉から出す。しかも、軍楽隊の少年兵を鍛えて、出撃せよ
というのだ。曰く、お前なら少年たちに生き残る技術を教えて一人前にできる
だろう、と。第2次攻撃の準備も怠りないが、佐久間の密かな温情も感じ
とれる。何より、この隊長さん、慰安婦のおハルさんに攻められて、オタオタ
する「童貞」さん、なのである。小杉曹長曰く「職業軍人としては出来の
悪いほうだ」この隠れたユーモアの持ち主の佐久間と三船の競演が前半の
見所。

 少年兵たちを鍛え上げ、営倉で拾った、持田一等兵(葬儀屋)=伊藤雄之助
犬山一等兵:(出刃)佐藤允、志賀一等兵(営倉):天本英世を加えた
一団はヤキバ砦を目指す。
 副官となるのが佐藤允。たたき上げのサブリーダーである佐藤と三船の
コンビがまたいい味を出している。

 少年兵たちの奮闘で、犠牲を出しながらもヤキバ砦の奪回に成功。
そこに、小杉を慕う、慰安婦のおハルさんが追いかけてくる。次々と、
おハルさんに「筆下ろし」してもらう少年たち。戦場とは思えないほのぼの
とした交流が描かれるが、生き残った兵たちはそれにつけても、童貞のまま
死んだ仲間のことが思われる。

 通信兵だった志賀=天本英世。とにかく戦うことが嫌いな彼は、戦いを
拒否して営倉暮らしを長年続けていたのだ。通信兵だった彼の活躍で、
本隊と連絡が取れたが、八路軍の反攻が始まる。

 戦いを拒否していた天本も、八路軍兵士と刺し違え、とうとう小杉も…

 激しい攻撃に、次々と仲間たちが倒れていく。律儀に穴を掘って埋めて
やる葬儀屋。彼は、捕虜となった中国人少年と心を通わせていたが、
「終戦が決まった」というビラを持って、やってきた彼を、襲ってきたと誤解
して撃ってしまい、仲間の後を追うように砲弾に倒れる。

 小杉の弔いを一人で進めるおハルさん。敵は激しい迫撃を加えてくる。
その砲弾の中で、出刃は、なぜ小杉が見習士官の死にこだわるのかを
尋ねる。実は、見習士官は、小杉の弟だったのだ。弟を殺した出刃の気持ち
を慮って、彼は真実を述べずに逝った。そして、出刃も、寝返った前の
守備兵に殺されてしまう。見習士官が、守備隊の裏切りを隠し、自分一人が
罪を被ったにも関わらず。

 軍楽隊の死とともに、楽器の音が一つづつ消えていく。最後まで残った、
トランペットの音も途絶え、後には爆煙と、小杉の墓に取りすがって
死を目前にしたおハルさんが残るのみである。

 後半のヤキバ砦の攻防は大迫力の活劇で、三船の破天荒な部分とよく
あっている。少し、「七人の侍」の菊千代を思い出した。あとは、
佐藤允、伊藤雄之助、天本英世、団玲子の「大人たち」の個性豊かな
好演であろう。三船敏郎の脇をしっかり固めて、絶妙なバランスである。
触れる余裕がなかったが、佐久間隊のちょっと胡散臭い憲兵曹長の名古屋章
も憎めない。

 どんなことがあっても、戦争だけはしてはいけないのだ。どんないい人も、
どんな美しい人の情愛も、全てを根こそぎ奪っていくのだから。
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