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2020年07月21日12:06

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谷口千吉 独立機関銃隊未だ射撃中(1963) (ラピュタ阿佐ヶ谷)

 ラピュタ阿佐ヶ谷 GO!GO!GO! 愚連隊大作戦3本目。

 Moviewalker https://movie.walkerplus.com/mv20949/
(「ストーリー」の「昭和二十五年八月」は明らかに「二十年八月」の
誤り。これからは「終戦が昭和二十年八月だ」ということを知らない世代
にこのような映画を受け渡していかねばならないのだから、こういう
大きな誤りはなくしてほしいものだ。Moviewalkerのストーリーが
実際の映画と違っているのは、いつものことなのだが)

 トーチカとは「点」の意。谷口千吉監督は、映画の題名を「点」
としたかったという。まさに、広大な戦場に穿たれた小さな点。
しかし、そこでは抜き差しならない生死のドラマがある。

 太平洋戦争最末期(峯岸連絡兵が、広島と長崎の原爆のことを、
トーチカ兵たちに話しているから、まさに終戦まであと数日だろう)
ソ満国境の日本軍トーチカ陣地。九二式重機関銃を擁して、国境を死守
するトーチカ「キー3」に立てこもる5人の守備兵のまさに死闘を描く。
 6人目の守備兵とも言える、九二式重機関銃は実物が使われた。

 「俺には弾は当たらない」と豪語し、部下たちをキビキビとまとめる
歴戦の山根班長に三橋達也。しかし、彼も、お守りを決して手放さない
人間くさい一面を持っている。お守りを壕内に落としたことに気づかぬ
まま、敵の戦車へ爆弾を持って突撃。直撃弾を受け戦死。

 小学校しか出ていない、いわゆる「どん百姓」で苦しい生活をして
いた、渡辺上等兵に佐藤允。家族への遺書には、カタカナで子供たちに
むけてお母さんを助けてくれるようにと認めた。第1回の戦車への突撃で、
生き残ったロシア兵のうめき声が一晩中聞こえる雨の夜、そのロシア兵に
とどめをさしに壕外まで出て行く。重機関銃の主射撃手で、班長のよき
右腕。班長とともに2回目の戦車突撃に出て、班長が戦死したあとは、
半壊したトーチカで、生き残った2人の部下をまとめる。問わず語りの
身の上話をする3人の中で、ただ1人の家族持ちとして「勝って帰ったら
妻を幸せにしてやりたい」と涙を流す。火炎放射を浴び、顔中火傷を
負って、最後にはトーチカへの直撃弾でガレキに埋もれて戦死。

 錯乱して、トーチカから逃げ出し、戦争からも逃げ出そうとする3年兵
の金子一等兵に堺左千夫。トーチカが実際に敵の攻撃にさらされるまで
は、古参兵らしい落ち着きと、諧謔を見せていたのに、一旦、激しい
攻撃にさらされるや、錯乱して脱走を図る。演技的には佐藤允と並んで
見所の多い役。脱走を防ぐため、仲間たちから手足を縛られて転がされ
ていたが、隙を見て、敵襲最中にトーチカを飛び出し、戦死。

 学徒動員の原一等兵に太刀川寛。双眼鏡で敵陣を偵察する際にも、真夏
の花が咲き乱れているのに、ふと目を止めてしまうナイーブさを未だ
持っている。
 戦闘では主に、主射撃手の補助をして弾を補充する役割をすることが
多かった。仲間の死体を目にして、嘔吐するなどまだまだ戦場慣れは
していない。学徒動員前の半年、本が素晴らしくたくさん読めた、と
学窓の日々を懐かしむ。ソ連軍の降伏勧告に従おうとするが、実際は、
攻撃が止むことはなく(トーチカ側が最後まで抗戦の意思を貫いたから
でもあるが)トーチカが完全に破壊されたあと1人生き残り、トーチカを
でて、放心状態で、戦場に1輪だけ咲き残った花に触れながら、直撃弾
で戦死。

 最年少、まだ17歳の白井二等兵に麦人。現地召集の志願兵で、
射撃大会で一等をとったことを無邪気に誇る幼さ。幼いながら、すでに
死を受け入れており、指揮所のトーチカへの伝令も立派にこなした。
しかし、目にしたのは指揮所も僚友のトーチカも全滅した姿で、さすが
に打ちひしがれて帰ってきたが、最後までトーチカを捨てなかった。
 戦闘ではやはり弾込めの補助をすることが多い。
 トーチカが全壊した際の砲弾で戦死したと思われる。原一等兵は、
白井の遺体は見つけられなかった(渡辺上等兵の遺体は見つけている)

 この5人が密室のトーチカで、緊迫したドラマを繰り広げる。
 時期が終戦直前であることが一層、戦いを虚しく見せる。
 驚きなのは、この映画が1963年(S38)に公開された、という
ことだ。まさに、私が生まれた年である。

 「帝国主義も共産主義もない。殺すか殺されるかだ」

 この山根班長の言葉にこの映画の本質は尽くされているだろう。
ソ連軍の降伏勧告の言葉は甘いが、実際は容赦無く、孤立無援となった
トーチカの内部に火炎放射を浴びせるのだ。

 いつまでも止む気配も見せない戦争。場所も武器も違えど、
世界の各地で人は今も「殺すか殺されるか」の瀬戸際で生きている。

 私たちの両親の世代が体験したあの戦争をどう伝えるのか。
今行われている戦争から脱却するすべはないのか。戦争映画を見るたび
に考えることだが、答えは容易には出ない。おそらく永遠に。
 
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