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2020年02月12日15:42

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本多猪四郎 恋化粧 (1955) (シネマヴェーラ)

 特集「没後十年記念、映画俳優 池部良」(シネマヴェーラ)
特別上映に「足にさわった女」「刺青」ほか、とても魅力的なラインナップ
の本特集だったが、特撮ファンの私としては「潜水艦イ−57降伏せず」が
観たかった。
 いや、特集作品の顔ぶれから見て、流石に「妖星ゴラス」とか
「宇宙大戦争」は期待できないだろうが(^_^;、「潜水艦イ−57降伏せず」は
あっても良かったと思うのだが。戦記・戦争ものは一つも入っていないので、
そういう方針だったのかしら。

 さて、観たい作品はいろいろあったが、結局、本多猪四郎監督の「恋化粧」
、中川信夫監督の「私刑」2本しか観にいけなかった。

 さて、本多猪四郎監督の「恋化粧」から。

 Movie Walker https://movie.walkerplus.com/mv24179/

 まだ戦争の影が残る、大川(隅田川)沿いの下町を舞台に、幼馴染の男女が
描く恋模様が、本多監督らしいとても優しい演出で細やかに描かれる。

 主人公の力彌を演じるのが池部良。彼は、大川のポンポン船の船長をして
いたが、戦争中に生き別れになった恋人、園子のことが10年来忘れられず、
いまだに独身だった。戦争の傷を抱えて、あえて恋人との思い出がある大川
端で暮らす誠実で純粋な男を池辺良が好演している。

 彼に思いを寄せているのが、幼馴染の柳橋の売れっ子芸者、初子(越路吹
雪)。力彌は初子の弟、孝助と同居しており、初子とは本当の家族のように
付き合っていた。姐御肌で、力彌を見守る役柄に越路吹雪がぴったり。自分
が惚れた男は、昔の恋人を見捨てるような男じゃない、と言いつつそっと涙
を拭うシーンが美しい。

 ある日、孝助が偶然、自動車泥棒の一味を見つけ、袋叩きにあう。そこに
駆けつけた力彌は、一味のリーダーらしい頰に傷のある男、石島(小泉博)
と出会う。(自動車泥棒の中に大村千吉さんがちゃっかり入っていて、活躍
しているのが特撮好きとしては嬉しいところである)

 石島たち自動車泥棒の一味は、力彌に逆に叩きのめされて逃げていくが、
翌日、何かと力彌に目をかけてくれている、ポンポン船会社の社長(藤原鎌足)
の車が自動車泥棒の被害にあい、一味を探す力彌は、とある酒場でついに、
恋人、園子(岡田茉莉子)と再会する。

 しかし、園子は、明日の夜に改めて会ってほしい、と力彌に頼むと、またして
もそのまま姿を消してしまう。

 実は、園子は戦時中の苦労の末に、新しい男と暮らし始めたばかりで、なんと
その男が、自動車泥棒の石島だったのだ。

 初子は、お得意の客と自動車に乗っているときに偶然、園子を見かけ、
あとを追って、女二人はしみじみと話し合う。力彌には自分のことを言わないで
ほしいと頼まれた初子だったが、力彌の幸せを何よりも願う初子は、力彌に
園子の住所を知らせる。力彌はそのアパートで石島と出会い、園子も石島の
悪事を知ってしまう。

 石島も、決して、根っからの悪ではなかった。自首して罪を償ってほしい。
自分は待っているから、と懇々と説得する園子。
 石島は性格が弱くて、ひとりぼっちに耐えられないから。自分は、あなたの
ご両親のところで、あなたを待ちます。そういう岡田茉莉子は純情そのもの。
とても成瀬の「浮雲」のおせいと同じ役者さんだとは思えない(^_^;
 小泉博の悪役ぶりが、まさに「ひとりぼっちに耐えられない」性格の弱い
寂しい悪役で、頰の傷といい、もしかしたら戦中にこの人も苦労があったのかも
と思わせる。

 力彌が園子と石島が暮らすアパートを訪ねた時、そこには置き手紙が。
石島は、自動車泥棒のブローカーに脅され、またしても仲間に引き摺り込まれ
たのだ。

 孝助が偶然、自動車泥棒のアジトになっている自動車工場を発見。またもや
孝助が一味に囚われてしまう。孝助に岡惚れの半玉芸者雛菊(青山京子)は、
力彌と、初子に憧れている関取、吉の里に急報。吉の里が雑魚を相手にして
いる間に、力彌は石島を説得するが、石島が心動かされ、110番しようと
したところでブローカー(小杉義男)が拳銃を構える。それに飛びつく力彌。

 間一髪、警察が駆けつけ、一味は一網打尽に。

 園子は、石島を待つために、彼の故郷へ向かう列車に乗る。力彌は見送りに
は行かなかった。そして、初子と一緒に暮らそうと言う。「自分は女にとこと
ん振られた男だぜ」と言う池部良がかっこいい。初子も芸者の鑑札を返すこと
を考え始める。

 映画の最後は吉の里の晴れ舞台を、力彌や初子達が賑やかに観戦する、
穏やかなシーンで終わる。

 とにかく、自動車泥棒のバックで糸をひく、闇ブローカーの星野(小杉
義男)とその手下を除くと「みんないい人」実に本多監督らしい細やかさを
感じる映画である。

 船会社の社長の藤原鎌足が、力彌と初子を案じて、一緒になるよう勧めたり、
泥棒一味のアジトの自動車会社社長が、何気に左卜全(当然、自分の会社が
利用されていることは知らない)だったり。雛菊が孝助の学校にまでついていき
幼い意地の張り合いがあったり、吉の里が捕り物に大活躍したり。

 見終わったあと、しみじみと人の「縁(えにし)」を感じる映画で、
「ゴジラ」の翌年、「獣人雪男」と同年にこの映画が撮られたことを考えると、
本多監督の優しさが印象的な映画である。

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