mixiユーザー(id:6645522)

2017年12月26日11:54

116 view

成瀬巳喜男 稲妻(1952) (神保町シアター)

Movie Walker https://movie.walkerplus.com/mv23338/

 自分で選ぶ事ができず、しかも、断ち切ろうとしてもきれないもの、
それが「家族」であり、「家族のしがらみ」であろう。
 人の最終的なよりどころ、人として生きていくうえでかけがえのない
最初の「絆」である、「家族」も、たまたまそれが「腐って」(主人公
清子の台詞)しまっていては、「しがらみ」にこそなれ、「絆」には
なり得ない。それでも血のつながりを否定できないのが、人の世の
ならわしだろうか。

 女主人公、清子(高峰秀子)はその名前のとおり、清らかで前向きな
戦後の女性。バスガイドをして自活している自立した女性でもある。
結婚適齢期である彼女は、結婚というものに憧れと抵抗を同時に感じていた。

 それもそのはず、彼女の家庭はかなり複雑で、お金にどん欲な長姉、
南方の戦地から帰ってからぶらぶらして定職につけない兄、小さな
洋服屋を営んでいたが、夫に急死され、しかも、その夫に愛人と子供
まであったという次姉、しかも清子を含め兄弟全員、父が違う、という
家庭だったのだ。

 清子の結婚話を機に、家に入り込んできた、金と力はけっこうあるが
胡散臭くて、下卑たパン屋の綱吉(小沢栄)は、執拗に清子をつけまわす
が、その一方で縫子(長姉)と光子(次姉)を手にいれてしまうという、
したたかさ。

 その綱吉によって家族はさらにばらばらになり、そこに、光子の亡き
夫が残したわずかな保険金をめぐって家族同士のみにくい争いが繰り広げ
られる。つくづくそれに嫌気がさした清子は、実家をでて、山の手に
部屋を借りる。

 その家主も、隣のピアノ好きの兄妹も、清子とは別世界の人間のように
澄んだ心の持ち主だった。はじめてほっとする清子。

 しかし、そこにも「家族」は迫ってくる。母のおせいが、「光代が行方
不明になった」と探しに来たのだ。光子は縫子と金と男をめぐって大げんか
になったらしい。怒りが爆発した清子は、母に向って「どうして産んだのだ」
と問いつめてしまう。泣き崩れるおせい。それをみて、やはり涙してしまう
清子。部屋の窓から、遠くに稲妻が光るのが見える。

 ひとしきりお互いに泣き合った母娘は、一緒に下宿をでて、夜道を歩いて
いく。やはり「家族」なのだ。清子の歩む道は平坦ではないだろう。しかし
清子はそれに向っていく…

 やはり、ヒロインの清子を演じる高峰秀子の美しさは格別。
 お客さんも多くて、神保町シアターは7分近い入り。隣り合った年長の
おじさまによると、高峰秀子のときはいつも混むそうだ。
 成瀬監督は、女性を撮らせると本当にうまい。それも、白黒映画の
陰影が見事で、清子が稲妻を見るシーンなどため息がでるようだ。

 ちなみに、なぜここに「稲妻」なのか、映画上映時にははっきりしなか
ったのだが、あらすじによると、光子が雷嫌いで、そのため、母、おせい
は「光子が家に帰ってくるかもしれない」と清子の下宿を出て家路につく
、という設定らしい。おせいの台詞があったかもしれないが、記憶して
いない(^_^;

 それを除いても、清子の心の中の嵐と、その嵐を切り裂く稲妻は、
とても美しく鮮烈であった。

 あとは、嫌なセクハラ男の代表のような綱吉を演じた小沢栄の芸達者
ぶり。ほんとにもう、清子からしたら近寄られたら鳥肌がたつくらい
脂ぎったいやな男なのだが、それでいて独特の生活力があり、縫子と
光代を両方手に入れてしまうあたり、小沢栄の面目躍如というところ。

 林芙美子の原作で、「女の生きづらさ」は常にひとつのテーマとなって
いるので、勢い、男性は情けない登場人物が多い。清子の兄も、縫子の
酒浸りの夫も。

 そこから脱出して、はじめて清子がであう、「清らかな存在」が、
隣家の根上淳・香川京子兄妹。若き根上淳がとてもハンサムで、清子に
とってはさぞ眩しかったろうと思わせる。

 清子の家族の中では、一番、男に翻弄される、美しい姉、光子を演じた
三浦光子の淋しげな美しさが光った。人生の浮き沈みを一挙に体験せざる
をえなかったのが光子で、夫の急死、その隠し子の出現、おそらく初めて
の就職、保険金をめぐる争い。結局、綱吉の手におちてしまう、というの
は、女性が自立して生きることが、今よりさらに困難だった世相を思わせる。

 あとは、母親、おせいを演じた浦辺粂子の確かな存在感。この映画が
作られた戦後はともかく、現代からすると、すべて父親が違う4人兄弟
というのはなかなか考えがたいのだが、苦労し続けながらその4人を
育て、面倒を見、転がり込んできた婿まで世話をしてやる、という、生来
愛情深く、懸命に生きる女性を見事に演じた。そもそも、時代の違いは
あれど、4人の父親違いの子供たちが、綱吉が入り込んでくるまでは、
まがりなりにも一家として仲良く暮らせていた、というのは、この母親
あってこそだろう。

 生活が苦しくても、売らずに取っておいたルビーの指輪(清子の父から
の贈り物)を清子に渡す姿は、やはり「母親」だからこそだろう。

 確かに、いまとこの映画が舞台にしている時代は違う。生活もまったく
違う。しかし、人はそれほど器用に変わりはしない。時代を経ても、
変わらぬもの、色あせぬものがあるから、古い白黒映画は本当に胸をうつ。

 

 

 
2 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを投稿する

<2017年12月>
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31