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2020年09月07日10:09

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事故。

下部二つの難しい滝は私がリードし、最後の大ナメ滝、これを超えれば、あとはなんということもなく稜線に出るはずだった。
この大滝は、斜度が緩く、草付きはあるが、ランニングを取れそうな灌木はない(この時は、落ち口は見えておらず、したがって、上部付近まで上がれば灌木があることは、見えていなかった)。また、滝がでかく30メートルロープでは上部まで届かないだろう。よって、ここはフリーで登るべし。私はそう判断したし、相方もそう判断した。だから特に打ち合わせることもなく、二人とも黙って滝に取りついた。
私が先行した。そして、滝の落ち口につき、抜けたぞ!と叫ぶために振り向いた、その時であった。
相方の足が、一瞬、変な方向に、青い空の方に伸びているのが視界に入り、そして、消えた。
それは本当に一瞬の、0.1秒以内のことで、私は、何か変な幻を見た。とおもった。
相方は、こんなところで落ちるひとではない。ここは、落ちるようなところでもない。
もう少しすれば、いつものようににこにこしながら、上がってくるだろう。と。
しかし、私が、抜けたぞ!と叫んでも返事はない。30秒まち、もう少し待っても返事がない。私は急に不安に駆られた。斜度は緩いが、落ちれば途中で止まれるような滝でもなく、万が一落ちれば、死ぬか、重症は間違いない。

私はもう一度、声を限りに相方を呼んだ。するとかなり下の方から、「落ちた!」という声がする。

落ちたのか。事故か。まさか下までか。しかし、声がするということは、相方は、生きていて、意識もある、ということだ。
私は大急ぎでセルフを取り、慎重に下降を始め、8mほど下ったろうか。滝の途中に立っている彼を発見した。「落ちた。ロープをくれ。」

事故が起きた、という衝撃と、ともかく相方は生きていて、意識もあり、立てる。という安堵に、私はよろめきそうになった。ともかくロープを出そう…としてビレイをとっているうちに、彼は、のこのこと私のいるところまで登ってきた。

どうしたのかと問うと、落ち口近く、灌木が出始めたあたりで、木をひょいとつかんだところ、それが折れて、20mほども落ちたが、一か所だけ斜度が緩いところがあり、そこで止まったという。全身を打ち、歯もかけて痛々しい姿だが、しかし、のこのこ登ってきたということは、骨折などはしていないらしい。

彼を連れて、まずは滝の落ち口まで。さて、どうするかを協議する。歩くことができ、ともかく登れている以上、ヘリなどを呼ぶ必要はない。ここまで来ている以上、同ルート下降は無理、他のエスケープもない、これはもう稜線まで抜けるのが一番、早い。幸いなことに、抜けたら下山は林道を歩けば足りるヤマであった。ただ、彼は手をひどく打ったようで、手が使えない。そこで以後、私が彼をロープで繋ぎ、なんとか、稜線まで彼を引きずり上げ、林道におろした。そして、私は車回収にダッシュし、40分走って車までたどり着き、車を走らせて彼をピックアップした。荒れた林道をぶっとばしたので、車の腹からなにかカバーのようなものが脱落した。

その後しみじみ傷の手当などをしたのだが、あの滝の途中で止まったのは奇跡で、さらに、あれだけ落ちて、骨の一つもおらず、意識もあり、自力下山できたのはもっと奇跡のようなものだった。

今思い返しても、あの滝の下部は、支店を取れない以上、ザイルをだしてもあまり意味はなかったと思う(記録もフリーで登っている)。だが、上部落ち口近くの10mまでたどり着けば、そこには灌木があったのだから、そこで支点は取れたのだ。だから、下部を登り切り、灌木がある、と判った段階で、ロープを出すべきであった。どんなに傾斜が緩くてもだ。どんなに相方がベテランのクライマーであってもだ。落ちたら死んで当然のところなのだから。それは心底反省する。

そして、全身を強打した状態で、相方はよく、稜線まで上がってくれたと思う。その気合いがなければ、マジで救助隊を呼ばなくてはならない状態であった。私には、とても彼を負ぶって稜線まで担ぎ上げることはできず、かと言って、同ルート下降することはさらに不可能だったからだ。痛みをこらえて登り続けてくれたことに、こころから、ありがとう。






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