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2020年06月04日15:09

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MAY(作成中)

※深く考えないこと
※やりたいようにやる
※浸らないこと!

彼女は声をかけてこない。名前も呼ばない。
ツンツンと肩をつついて、「ついて来てよ」と小さな声で言う。
おお、もうそんな時間か。
振り向くと隣のクラスの転校生が立っている。

小学校の時の同級生、春名メイカ。3ヶ月前に引っ越してきた。来た時すぐに見つけられて「うわあ〜ヨッチンだあ〜」とかけよってきた。「背伸びたねえ、小1の時より」当たり前だ。
その日に「こいつ俺の小学校の時の同級生、前に住んでいたところの、」と仲間に紹介してまわった。クラスの女子には「よろしく仲良くしてやってな」と声を掛けた。

それから3ヶ月。まだ自分のクラスには馴染めていないらしい。休み時間ごとにうちのクラスを覗きに来る。

というか、あの初日以来誰とも喋っていないらしい。自分に対しても、教室ではほとんど口を利かない。ただ、偉そうに「ついて来い」と言いに来る。

ついていく先は購買のパン売り場だ。
「パンくらい一人で買いに行けや」「別にいいじゃん」
「俺も忙しいんじゃ」「悪かったな、用事済んだら行っていいから」
「クラスの女子と行けばいいのに」「行く人おらんもん」「まだ友達できんの?」「うるせえ」
パンを買ったら本当にすぐに「じゃあな〜」と手を振って戻って行く。

放課後になるとまたやってくる。最近はクラスメイトも「おい、カノジョが迎えにきたで〜」と言われるようになった。カノジョじゃねえ。
「行くよ、」行くよじゃねえよ、と思いながらカバンを持つ。帰宅部なので断る理由が無い。

「今日学活の時間がレクリエーションになったんよな」
歩きながら滑らかに話し始めた。「体育館でな、バドミントンかバスケットボールすることになってな、あたしどっちにも入らんかったわ」「何やってたん」「壁に向ってな、ドッジボールの壁打ちずーっとやっとった」「ああ、…」「面白かった」へ、へえ…。「そしたらなんか途中でバスケに呼ばれてな」はいはい、「なんかようわからんけど真ん中からシュートしたったわ。入ったわ」「えっ。」「超ロングシュート!ゆうて盛り上がっとったわ」「すごいな」「それだけじゃけどな。その後また壁打ち何回かして帰ったわ」あ、そう。「楽しかった」

「なんで友達作らんの」「どうやって作るの?」「え、教室で話したりして自然に仲良くなって、一緒に帰ったり遊びに行ったり」「ふーん、自然に?」「まあ、自然に」「あたし自然にしてたらできてないけど?」「話ししたりしてないでしょ」「何話せばいいの?」「う、うーん、女の子の話すようなこと?よう知らんけど」
「あんたは女の子じゃないんだ?小さいのに」「小さい関係ないし」「カチューシャとか似合うよ、貸してあげようか?」「いらん」

「女めんどくせえよな?」「そうなの?」「うん、いちいち群がってトイレ行かんといけんし、休み時間中出られんし」へえ。「男のほうがいいとか?」「男もめんどくせえ」「え?」「あーそっか、ヨッチン男の子だったね。あーでもあんたは女の子みたいなもんだから」「なんで」「背あたしとあまり変わらんでしょ。何センチくらい?」「いいじゃん、可愛いんだから」「どういう意味」
「あっ、じゃあ、あたしここで行くね。バイバイ」自転車に飛び乗ってサーッと行ってしまった。

お昼休み。2時間目と3時間目の間の業間休み。
校舎の中をぐるぐる歩いているのを結構見かける。明らかに用事が無いであろう保健室の横の廊下から出てくる。「あ」と目をそらして曲がって通り過ぎる。いやいやいや、今絶対こっち見ただろ、気が付いて無視したやろ。
あとで聞くと「え?そうなの?気が付かなかった」と言う。「業間の時、図書館閉まってるじゃない。昼休みも開いて無いときあるじゃん、そしたら行くとこないのよ」「長い休憩時間て外に出ろって言うじゃん?でも出てもやることないし、めんどいし」「だから3時間目まで来ない」「それで最近朝会わないのか」「会いたかった?ふふ」「は?…そうだ、昼はどうしてるの?」「あーそうそう、昨日かなちゃんのグループに入って食べたよ」「かなちゃん?」「すっごいおとなしい子いるじゃん?ほとんど喋らない」「…自分もな」「ははっ、そういう子でも大概ベタベタ群れてるのは不思議よね、、えーとなんかね、一人でカワイソウだから一緒に食べてあげる。だってさ」「親切じゃない」「そうね。だから一緒に食べてやったわ。」「そういうとこな、」「だから明日午後から出てこようかな。めんどい」「あー…」
「いや、明日はがんばるよー。多分。無理だったら休むかも」「休むなや」「会いたい?」「そっちから来てるんだろうが」

次の日、2時間目が始まる時に窓から見下すと、校庭を横切ってくる自転車が見えた。おいおい、そこから入ったらあかんよ、裏口から直接自転車置き場に行かんと。わざわざ遠回りしてどうする。
下に下りると調理室の外でメイが立っていた。上を見て、横を見て、ソワソワと、じっと固まっていた。この状態は何度も見たことがある。どうしようもない。

「早く来すぎちゃったのよ」メイは笑って言う。「家庭科の調理実習なんて忘れてたよ。分かってたら来ない。自転車置き場で終わるまで待っとく」

「ちょっとマキハラー!あの子どうなってんのよ!」
隣のクラスの女子、幼なじみのリキコが文句を言ってきた。「あんたによろしく言われたから気に掛けてやってんだけどさー、ぜんっぜん反応が無いんだけどー」「はんのう?」「そうよー、あんなに何にもしない、何にも喋らない子見たことない。」「あー…」「一人で心細いだろうと思うのよ、だからなるべく挨拶するようにしてる。でもこっちを見もせずに無視するのよ、何を話しかけても返事もしない」「緊張してるんじゃない?」「あれが?ボーッとして時々フフッとせせら笑うみたいな顔をするのに?何あれ馬鹿にしてるの?」「うーん多分違うと思う」「あの子本当に何もしない、班活動も協力してくれないし、掃除もしない」「体育のバスケの試合でボールをパスするじゃない、あの子ボール持ったまま渡さないから自分でもぎ取りに行ったわよ、わけわかんない。」「家庭科の調理実習にも来ないしね、まあ来ても突っ立ってるだけで役に立たないけど。何なのあの子バカなの?」
「まあまあ、よう頑張ったな、」となだめる。「最近他の友達とご飯食べてるんだって?これからはそいつらに任せりゃいい、ここまでありがとうな」「ああ、ああ、あの暗い人たちね。ああいう子達のほうが気が合うと思うわ。暗いもの同士でね!」

「リキコさんに挨拶?えー、してるよ」メイは言った。「声は出さないけどさー、軽く会釈っていうの?あれでじゅうぶんじゃない。」「声出せないの?」「声出す必要ある?」「通じてないみたいだからさ」「見りゃわかるじゃん。…バカなんじゃない?」「こらこら」
「バスケの試合の時に仲間同士でボールの取り合いとか!って相手チームの子が笑い話にしてたよ。何見てるんだろうね。取り合いなんかしてねーよ」「渡さないからもぎ取ったって言ってたよ」「はあああ?ちゃうよ、誰に渡すか迷ってたら、ちょうど味方が近くに来たからあたしが!渡したのよ。何でそんな話を作るのよ」「でも言ってたし」「やっぱりバカなんだよ」「おい」

時々自分はサンドバッグなんじゃないかと思う。あっちから叩かれ、こっちから文句を言われ…。はあ、自分勝手な人ばかりだな。なにやってんだろうな。

「おう、マキハラ!」自転車で帰宅していると、上り坂のところでリキコに追い付かれた。力持ちのリキコ、あだ名っぽいが本名だ。家が近所で小2からの腐れ縁だ。
「今日はあの子一緒じゃないんだ?なんかえらい懐かれてるじゃない」「最近はそうでもない」「あ、そう」
「前の学校で同級生だったんだよね、仲良かったんでしょ?」「うーん、どうかな。近所だったから登下校同じだったけど、1年の時だけだからな」「え、それだけ?それであんなに懐かれてるの」「懐く、て…まあたまたま知ってたから、くらいじゃろ」「へえええ…、あっ」
後ろからメイがたち漕ぎで追い越して行った。振り向きもしない。
「…いま行ったね」「そうだね」「追いかけなくていいの?」「なんで」「うーん、なんとなく」

「そうだ。あんた最近ギター練習してるんでしょ」「なんで知ってるの」「あんたの姉ちゃんから聞いたよ」「あー姉ちゃんが放置しとる楽器があったからちょっと触ってみただけ」「独学なん?」「言う程じゃないよ」
「ふーん、練習したら歌の伴奏とかできる?」「いやだから始めたばかりだから」「あ、そう、また秋くらいになんか頼むかもしれないから、考えといて」

「春名さーん」教室の外から呼びかけると、一回目は気付かない。「春名ー、メーイー」と続けるとようやくこちらに気付き、無言のまま歩いてくる。教室で話し掛けるといつもこんな感じ。あのマシンガントークが嘘のような無言と無表情。「なに?」教室の外に出ると、コソコソ声でたずねる。「リキコ達が一緒に遊びに行こうて言ってるけど、くる?」「え……、」「俺も行くから、あとユウジやキャラなんかも、全部で6人かな。カラオケ行ってゲーセン言ってる」「あ、どうしよう、、」「今すぐじゃなくていいからさー、」「あんたも行くんだよね」「カラオケ、ゲーセン、、」「ちょっと苦手?」「夕方には帰れる?」「お昼からだから遅くなるかも、、あの、途中で帰りたくなったら言ってくれたらいいから、なんとかするから」「そうか、どうしよう」「まあ考えといて」「うん」

「ええー、ヨッチンてギター弾くの?」久しぶりの帰り道。学校が遠ざかっていく。彼女が解けていく。
違うな。シャッターはずっと下りたまんまで、少しだけシャッターの中に入れてもらっているだけなんだな。
「1年生の時はピアノ習ってたよね。あれは?」「今でもやってる」「そうなんだー知らなかった」
「いいなあ楽器ができるって。あたしなんて何も持ってないよ」「あんたもやってみたら?なんか楽器」「えー今から?」「できるよ、俺だってギター始めたの先月だし」「そうなの?」「姉ちゃんがギター使っていいって言うから」「えっ、お姉さんいたの?」「弟もいるよ」「えーあたし何にも知らないね」
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