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2020年06月27日21:35

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日本昔話

No.0655

Vol.140 『めいしん秘密の法』

昔、武芸の道を究めるため諸国を巡り歩く橋本庄左衛門という侍がいた。

この庄左衛門、ある時宿屋で“めいしん秘密の法”という不思議な秘術の話を聞いた。
なんでも、災難に遭った時に一生に一度だけ使える秘法なのだという。
そこで庄左衛門は、早速この秘法を知っている山寺の和尚を訪ねることにした。

庄左衛門「お頼み申す。我は橋本庄左衛門という修行の者。
和尚にお願いがあって参じたのである!!」

小僧(侍が和尚さんに一体、何の用事なんだろう? もしかすると……)

庄左衛門は和尚に会うと、早速めいしん秘密の法を伝授してもらいたいと頼み込んだ。

小僧(やっぱり!!)

庄左衛門「この通り、お願い申す」

和尚「いやいや、困った噂が流れてしまったもんじゃのぅ」

庄左衛門「と、申されると? あれは嘘で?」

和尚「いや、嘘というわけではないのじゃが……」

庄左衛門「ならば、是非拙者にご伝授願いたい」

和尚「そう言われても……今すぐにというわけにもいかんでな」

庄左衛門「それは御最も。拙者とて、今すぐにというわけではござらん」

和尚「今日のところはお話を伺っておく事にしておくかのぅ」

和尚は、今すぐに伝授とはいかないと言い、
取り敢えず庄左衛門には引き取り願ったが、
伝授に満更でもなさそうだ。
ところが、このやり取りを聞いていた寺の小僧は黙っていられない。

小僧「和尚様、今日限りでこのお寺を辞めさせて頂く事を決心致しました。
和尚様には本当に長い間、色々とお世話になりました」

和尚「おいおい、突然何を訳の分からん事を言っておる?」

小僧「だってそうじゃないか!!
オイラ、いつだって和尚様の事を第一に考えているし、
もう何年もお寺の手伝いもしている!!
サボった事等、一度だって無いじゃないか!!
それなのに、和尚様はあまりにも冷たいよ!!」

和尚「何の話か、さっぱり分からん」

小僧「とぼけちゃって!! こういうところが冷たいって言っているのですよ!!」

和尚「分かった分かった、今度の正月にお休みをやろう」

小僧「待って下さい!! そんな話じゃありません!!」

和尚「そうか、じゃあ台所の水飴が欲しいのか?」

小僧「そんな話でもありません!!」

和尚「そうか、じゃあ仕方がない。山を下りても元気に暮らすのじゃぞ」

小僧「和尚様、そんな事を言わずにお願いです。
オイラにも“めいしん秘密の法”を教えて下さい」

和尚「何じゃ、そんな事じゃったのか」

小僧「オイラだって、秘法の事はとっくに知ってたんだ!!
それでもじっと待っていれば、
和尚様は弟子のオイラに秘法を教えてくれるに違いない、と思っていたのに、
それがいきなりやって来た侍に先に教えるなんて、そりゃないじゃないか!!」

和尚「誰も教えない、なんて言っとらん」

小僧「いいえ!! あの言い方はそうでした!!」

和尚「そうだったかのぅ」

小僧「ですから、先に教えるのならばこの一番弟子であるオイラに」

和尚「分かった分かった、今晩のお経を手を抜かずに読経したらな」

小僧「嬉しい、和尚さん本当に!?」

和尚「わしゃあ、嘘等つかん」

小僧(やった!! 言ってみるもんだな!!)

すると和尚は、今晩のお経を手を抜かずしっかり読経したら教えると言い、
意外にもあっさり伝授を許可してくれた。
さて、それからも庄左衛門は足繁く山寺に通い、和尚と旅の話などに花を咲かせた。

庄左衛門「で、和尚そろそろ秘法を」

和尚「まあまあ、そう急がんでも。ゆっくりゆっくり」

庄左衛門「そうでござるな、秘法でござるからな。ゆっくりと」

和尚「ゆっくりと」

そのやり取りを見ていた小僧はというと、

小僧(へっへっへ、和尚様侍をじらしておるな。オイラもう教わったもんね!!)

そんなある冬の日、この日は雪が降っていたので、
和尚は庄左衛門に寺に泊まっていくよう勧めた。
庄左衛門が寺に泊まるので、小僧は寒い本堂で寝る事になった。夜中になり、

小僧(侍が寺に泊まるなんて言うから、オイラ寒い本堂で寝る事になるなんて!!
今晩は一段と冷えるから、小便ばかりしたくて堪らん!!
厠まで面倒だから、もう境内でしちゃうよ!!)

と、小僧は小便をしに外に出た。

小僧(寒いわけだよ、雪が積もっているじゃないか。)

雪の夜に 小便出かく 花鳥かな by 小僧(なんちゃって☆)

小僧(今頃、和尚様達は温かい布団で、ちっくしょー!! ん? ……うわわ!!)

するとそこに、白い大入道が現れ、ゆらゆらと揺れながら小僧の方に向って来たのだ。

小僧「うわわわ!!!!! 化け物だあああぁぁぁ!!!!! 怖い怖い!!
一生に一度の災難だあああぁぁぁ!!!!!」

小僧はこの時とばかり、めいしん秘密の法を使った。

小僧「めいしん秘密の法!!」

すると、閃光とともに爆発が起き、爆風は辺りの木々をなぎ倒した。

和尚「な、何じゃ!!!???」

庄左衛門「和尚、何事でござるか?」

和尚「さぁ〜?」

何事が起きたかと、和尚と庄左衛門が境内に出ると、
そこには干してあった和尚の着物が真っ二つに裂けており、
小僧が爆発で出来た大穴の中で震えていた。

和尚「こりゃあ〜一体、何事じゃ!?」

小僧「お、おおお和尚様!! おおおおお大入道があああぁぁぁ!!!!!」

和尚「何、大入道〜? ……ありゃあああ!!!!! わしの着物が裂けておる!!」

小僧「へ? 和尚様の着物!?」

和尚「夕べ、入れ忘れたのじゃな。大入道はこれの事か」

庄左衛門「しかし、見事に真っ二つに切れておる」

小僧は、和尚がしまい忘れた着物が風にたなびいているのを化け物と見間違えたのだ。

和尚「これ!! お前、あの秘法を使ってしまったのじゃな!!」

小僧「だ、だってこれが一生に一度の災難だと……」

庄左衛門「和尚、これが秘法?」

和尚「いやいや、わしもこのような術だとは知らなくてなぁ」

庄左衛門「子坊主が使ってもこの威力、この秘法使い方を間違えれば……」

めいしん秘密の法の威力を目の当たりにした庄左衛門は、
なまじ自分などがこの法を伝授しない方が良いと考え、
秘法の伝授を受けずに再び修行の旅に出ることに決めた。

庄左衛門「坊主、今度化け物が出たら自分の力で倒すしかないな、はーははは!!」

小僧「べぇ〜(侍のアホ)」

そして、秘法の伝授を受けに山寺に戻ることは二度となかったと言う。

Vol.140 『めいしん秘密の法』完

秘法等、使っても碌な結果にならないし役に立つわけがない。
和尚の考えは上記の通り。
敢えて和尚の考えを本編には出さなかったが、
小僧にずっと教えなかった理由もそこにあったのかもしれない。

to be continued……
(何かありましたら、コメント欄にお書き下さい。)
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