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2020年06月20日21:45

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Blank Reparation

No.0649

-β 『Deceived Devil』
Written by : MARL

Review : 06/19 Diary

 もし、自分だけに潜む悪魔が存在したとして、果たしてそいつは敵となるのか。
 高校・大学を卒業してから長年、私はたまに見る夢の中でそういった疑念に駆られる。心の奥底でどこかそういった思いが頭の中を過る事がある。

     ◇

 いつも通り仕事を終えた帰り道、いつも夕食を買って帰るコンビニの前で70代ぐらいの女性が何やら困った様子で何かを探している。何か取って付けたかのように無性に腹が立ったので無視を決め込もうと通り過ぎる。すると、
「あの、どうかされたのですか?」
 別の誰かがその人に声をかけている。盗み聞きする気は無かったが会話が聞こえたので、
「いえね、私ったら碌に確認もせずに財布から小銭を何枚かばら撒いてしまったの。ある程度は拾って財布に戻したんだけど、どうしても後1枚が見つからないの。もしかしたら、私の思い違いかもしれないわね」
 私も過去に駅前の改札で似た経験がある。その時はもう誰かに拾われたのか、それとも自分の思い過ごしなのか分からなかったが、たかが10〜50円ぐらい(本当は悔しいけど)の小銭だし、運が悪いと思って諦めて終わったんだ。でも、その女性はどこか諦めが付かない様子だったので、声をかけた奴は面倒くさいと内心思い始めたんだろうなぁ。けど、
「良ければ一緒に探しますよ」
「いえいえ、別にそこまでして下さらなくても大丈夫ですので」
 それでもそいつは女性の落とした1枚の小銭を探していると、
「あっ! 靴の裏よく見て下さい」
 女性の靴の裏に10円玉がくっ付いていたのだ。少し恥ずかしそうな表情の女性だったが、
「私ったら! すいません、おかげで助かりました」
「いえいえ、見つかって良かったです」
 女性は「もう70も過ぎれば、ボケて来たと思ったわ」なんて言うけど、ボケる前に人様に迷惑かけんなよアホか。私はすぐに夕食を買って帰宅した。

 別の日、私は久々の連休に気を休める為に日帰り温泉へと出かけた。車で小一時間走らせ、近辺の県にある某有名温泉地へと辿り着いた。温泉へ入る前に近辺の観光地を散策していると、旅先ならではの出会いがあったりする……が、面倒なのであまり関わらないようにする。たまたま立ち寄った老舗の土産物店でさっさと買い物を済ませ(温泉地名物の饅頭の試食はした。)、すると饅頭の欠片を一口入れようとした時、すぐ近くに居た子供が試食用の饅頭を落っことした。子供はどうやら5歳ぐらいの男の子らしく、店主が泣き止まない子供に新しいのを用意しかけ(私は店を出た。)
 その後、温泉でほっこりしてから連休の初日を大いに楽しんだ。

 私の日常なんてこんなものだ。学生時代の頃のような刺激も無いし、何よりも淡々と人生を過ごしているような気がして、本当にこのまま年老いていいのだろうか、と思うようになる(本音を言えば、もっと刺激的に生きたいのだがな。)。
 ある夜見た夢の中では、あの頃の楽しい想い出が蘇る。しかし、目覚めてみると所詮はただの夢の出来事。虚しくなるだけだ。クソ! 喉が渇いたので、夜中に用を足しに起きた後、白湯を飲もうとウォーターサーバーに手を伸ばす。そして、そのまま寝床に入ってから夢の続きを見た。
 夢の中の想い出は終わりに近付き、学校を卒業した時点でいつも目が覚めるが、今晩はどうした事か夢が更に続いた。夢の世界でのある日、私は仕事に就きたてでまだ四苦八苦していた頃、部屋の窓から見えるライトアップされた街並みに不気味に映える夜桜から覗くのは、漆黒のドレス姿の女の子みたいな悪魔だった。
 悪魔は器用に夜桜の枝を伝って私の居る部屋に上がり込みやがった。
「どうやら、私の姿が見えるみたいだねっ」
「え? って事は、お前は悪魔なのか?」
「(大人びた仕草で)そうだ、私は地獄を統べる上級悪魔であるぞ! 頭が高い! 誰に向かって口を利いておる?」
 いちいち仕草が鬱陶しいが、どうやらこいつは私に何かしたいらしいのか?
「で、悪魔が私に何か用なのか?」
「お前の日頃の行いは、見ていてむず痒くなる! 周りを放置する等生温い! どうせならもっと悪行を働いてみないか?」
「別にいいや、私よりももっと適任者が居るんじゃないのか?」
「そういうところも含めて、お前を敢えて指名する! 私がお前を悪魔に変えてやろうぞ!」
「……」
「学生時代の方が良かったとか、そういうところを悔やんでいるようにも見えるが、いっその事そいつ等を皆殺しにしたいと思わないか?」
 何だか私の心の中を見透かされているような気がするが、正直なところドンピシャなので、敢えて無視するか。
「帰れこのクソが」
「では、これよりお前は我が下僕となる! 宇宙の果てまで逃げても無駄だ!」
 そう言い終えると、悪魔は高笑いをしながら飛び去ってしまった。

 ある休日の昼下がり、街中へ買い物へ出かけると背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「よぉ! 久し振りだな、学校出てから一度も会って無かったし、どうしていると思ったんだ!」
「え、……あ、あぁ久し振り」
 声をかけてきたのは、学生時代によく遊んでいた友人の一人だ。卒業後はお互い仕事の都合上、なかなか会う機会が減っていたが、何だかこの単調な日々に久々の嬉しさよりも驚きの方がこみ上げて来て、
「少しだけなら時間が取れるけど、どうする?」
 私から誘ったが、その後友人と数分間だけ近況を伝えて別れた。
 帰宅後、あの悪魔がまた私の部屋へやって来ていた。
「表情が少し緩んでいるな、お前友人を殺さなかったのか?」
 流石に面倒になったので、私は悪魔に出て行けと言ったが、悪魔はそんな私に、
「我が力の壮大さがまだ分からんか? 逆の立場だったら、いつ襲われても分からないのだぞ!」
「まぁ、そうだけど……。でも、もう悪魔とも関わりたくはないから、即帰れよ!」
「いいや! まだまだ足りんわ! 普段のお前はそんなものじゃない!」

 その後も別の日に、別の友人とばったり再会したが、背後から襲うような事もしたくないし、やっぱあの悪魔はムカつくな。
 そんなある日、いつも通り帰宅すると悪魔が一言私に、
「ここからが本番だ! そろそろお前を……」
「……私をどうするつもりだ?」
「お前を人殺しの犯罪者に仕立て上げる! 足掻いても無駄だ!」

 その日を境に悪魔は私の前には姿を現さない。その代わり、先日会った友人達は皆不審死を遂げた。以前よりかは毎日が苦になった。気持ちに余裕が生まれず、以前よりも更に心が塞ぎ込み、いや単に私が以前よりも気付いていないだけかもしれないが、平凡な人生の中には妙な虚しさしか残らなかった。
 ふとした時にまたあの悪魔が現れないか恐怖を感じたが、やはり悪魔は現れない。夜に見る夢も学生時代の良い想い出の夢は無くなった。

     ◇

 数十年後、私は定年退職をする仕事最終日の夜に、学生時代の友人達の事を思い出しながら、一人泣き崩れた。幸いな事に悪魔が現れなかったおかげで、私は犯罪者にはならず、相変わらず冷たい印象のまま淡々と人生を過ごした。
 更に十数年後、私はすっかり年老いてしまい、まともに歩く事も出来ない。人生を思い返してみれば、結局はあの時の悪魔の脅しが頭から離れない。

 どうして、どうして私はこんなにも……
 何も無い日々が終わりを告げて来る
 こんなにも何も感じない思いなんて初めてだ

 気付くと私は一人寝床で考え事をしていた。
 時刻はまだ真夜中の2時を過ぎたばかり。淡々とした人生のツケが今になって押し寄せて来たように感じ、感情も同時に消えたかのように凍り付く。傍らにはあの時の悪魔の姿が――

「うわわわ!!!!!!」

 ……誰も居ない寝室、時計の秒針だけが響く。
 本当にあの幻覚は何だったのか。私は薄れゆく意識の中、そのまま眠るように――

 欺く悪魔
 悪魔の両手には身体よりも大きな死神が持つような鎌
 その鎌を振り下ろし、私の喉元ギリギリのところで止めた後、

「まだお前にはやるべき事が残っている」

     ◇

 私とよく似た人間が世界には3人存在する、という話をどこかで聞いた事がある。
 現在暮らしているこの街にも私のような境遇の奴が潜んでいるとあの悪魔から聞いたが、あそこで寂しげに寝ている奴がそうか。結局、人様にさりげなく優しくしたところで人生の終わりにあんな干乾びた思いをするぐらいなら、私のこの鎌で楽に止めを刺してやるよ。

「楽にあの世へ送ってやるよ」

 こうして、天使とやらに“運悪く出会った”この男は私の手によって、悪魔の鎌で地獄へと落ち、私はその行為が悪魔を喜ばせたのか、年老いても“死なずに”永遠の命を持った“新たな悪魔”として、嘘をつかない天使に陥れられた人間共の最期をどす黒く終わらせる事に従事する。

 私の心は無気力〜血のように赤く、それでいてどす黒く染まった悪魔として永遠に生きる事になる――


 -β 『Deceived Devil』完

2020/06/20 MARL
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コメント

  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年06月21日 07:00
    悪魔に、操られなくて、良かったですね。
    犯罪者にもならず、友とも、会えて、、、
    しかし、友の不審死は、やはり悪魔が・・・なのでしょうか?・・・

mixiユーザー

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