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2020年06月19日18:45

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Blank Reparation

No.0648

-α 『Falsely Angel』
Written by : MARL

 もし、自分だけの天使が存在したとして、果たしてそいつは味方をしてくれるのか。
 高校・大学を卒業してから長年、私はたまに見る夢の中でそういった疑念に駆られる。心の奥底でどこかそういった思いが頭の中を過る事がある。

     ◇

 いつも通り仕事を終えた帰り道、いつも夕食を買って帰るコンビニの前で70代ぐらいの女性が何やら困った様子で何かを探している。私は困っている人は基本的に放っておけない性質なので、
「あの、どうかされたのですか?」
「いえね、私ったら碌に確認もせずに財布から小銭を何枚かばら撒いてしまったの。ある程度は拾って財布に戻したんだけど、どうしても後1枚が見つからないの。もしかしたら、私の思い違いかもしれないわね」
 私も過去に駅前の改札で似た経験がある。その時はもう誰かに拾われたのか、それとも自分の思い過ごしなのか分からなかったが、たかが10〜50円ぐらい(本当は悔しいけど)の小銭だし、運が悪いと思って諦めて終わったんだ。でも、その女性はどこか諦めが付かない様子だったので、
「良ければ一緒に探しますよ」
「いえいえ、別にそこまでして下さらなくても大丈夫ですので」
 それでも私は女性の落とした1枚の小銭を探していると、
「あっ! 靴の裏よく見て下さい」
 女性の靴の裏に10円玉がくっ付いていたのだ。少し恥ずかしそうな表情の女性だったが、
「私ったら! すいません、おかげで助かりました」
「いえいえ、見つかって良かったです」
 女性は「もう70も過ぎれば、ボケて来たと思ったわ」なんて言うけど、今の70代ってかなり若いよね。私はごく当たり前の事をしてから夕食を買って帰宅した。

 別の日、私は久々の連休に気を休める為に日帰り温泉へと出かけた。車で小一時間走らせ、近辺の県にある某有名温泉地へと辿り着いた。温泉へ入る前に近辺の観光地を散策していると、旅先ならではの出会いがあったりする。たまたま立ち寄った老舗の土産物店の店主と少し話し込み、温泉地名物の饅頭の試食をさせて貰える事に。饅頭の欠片を一口入れようとした時、すぐ近くに居た子供が試食用の饅頭を落っことした。子供はどうやら5歳ぐらいの男の子らしく、店主が泣き止まない子供に新しいのを用意しかけた時、
「これ、食うか?」
 無意識に私は自分の饅頭の欠片を男の子に手渡した。男の子はすぐに泣き止み、嬉しそうな表情で饅頭を一瞬で平らげた。その子の母親が私に軽く礼を言っていたが、何だか目の前で泣かれると調子が狂ってしまうからな。
 その後、温泉でほっこりしてから連休の初日を大いに楽しんだ。

 私の日常なんてこんなものだ。学生時代の頃のような刺激も無いし、何よりも淡々と人生を過ごしているような気がして、本当にこのまま年老いていいのだろうか、と思うようになる。
 ある夜見た夢の中では、あの頃の楽しい想い出が蘇る。しかし、目覚めてみると所詮はただの夢の出来事。虚しくなるだけだ。喉が渇いたので、夜中に用を足しに起きた後、白湯を飲もうとウォーターサーバーに手を伸ばす。そして、そのまま寝床に入ってから夢の続きを見た。
 夢の中の想い出は終わりに近付き、学校を卒業した時点でいつも目が覚めるが、今晩はどうした事か夢が更に続いた。夢の世界でのある日、私は仕事に就きたてでまだ四苦八苦していた頃、部屋の窓から見えるライトアップされた街並みに映える夜桜から覗くのは、真っ白いワンピース姿の女の子みたいな天使だった。
 天使は器用に夜桜の枝を伝って私の居る部屋に上がり込んだ。
「ふふっ。私の姿が見えるみたいだねっ」
「え? って事は、天使様?」
「(無い胸を張って)いかにもっ! 私はちょ〜〜〜〜〜う特急天使ちゃんなんだよっ! えっへんっ! 凄いでしょ?」
 いちいち仕草が可愛らしいが、どうやらこの子は私に何かしたいらしい?
「で、天使様が私に何か用なのか?」
「貴方の日頃のプチ善行は、とっ〜〜〜〜〜ても素晴らしいのだっ! なので、私が貴方に良い事をしてあげようっ! ってわけ」
「別にあんなん誰でも出来る事だろ。私よりももっと適任者が居るんじゃないのか?」
「そういうところっ! そこが貴方の良いところなんだよっ! さりげなく出来る事ではないし、私が貴方に願いを叶えてあげたいのっ!」
「……い、いや何か申し訳無いし」
「いっつも夜寝る時に、どこか寂しそうな顔しているよねっ? 学生時代の方が良かったとか、そういうところっ?」
 何だか私の心の中を見透かされているような気がするが、正直なところドンピシャなので、素直に従っておくか。
「そうです。なので、心が寂しくならないように、生活に良い刺激を下さい。お願いします!」
「うむっ! ではではお任せして欲しいのだっ!」
 そう言い終えると、天使は飛び去ってしまった。

 ある休日の昼下がり、街中へ買い物へ出かけると背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「よぉ! 久し振りだな、学校出てから一度も会って無かったし、どうしていると思ったんだ!」
「え、……あ、あぁ久し振り」
 声をかけてきたのは、学生時代によく遊んでいた友人の一人だ。卒業後はお互い仕事の都合上、なかなか会う機会が減っていたが、何だかこの単調な日々に久々の嬉しさがこみ上げて来て、
「折角だからどこか遊びに行かないか?」
 私から誘い、その後友人と数時間学生の頃の想い出に耽っていた。
 帰宅後、いつもと違う表情の私を見た天使は、
「(変に丁寧に)おこんばんはっ。ふふっ、私の願いは叶ったようだねっ。表情を見れば分かるよっ」
 流石ににやついた表情は隠せず、私は天使に大いに礼を言ったが、天使はそんな私に、
「私の力なんて微々たるものだよっ。逆の立場だったら、お礼言われるような事はしてないって言うよね、そうだよよねっ」
「まぁ、そうだけど……。これで願いも叶えて貰ったし、ありがとうございま」
「おっととっ! まだまだ願いは叶えるよっ。普段、頑張っている貴方がカッコイイからねっ!」

 その後も別の日に、別の友人とばったり再会。あの頃の想い出が蘇り、私は天使に感謝してもし切れなかった。天使はごく当たり前の事をしているだけだ、と言ってくれるが、私は毎日がより頑張れる事に人生に再び彩りが増した。
 そんなある日、いつも通り帰宅すると天使が一言私に、
「これで貴方のこれまでしてきたプチ善行分の願いは叶えたから、そろそろ帰るねっ」
「……天使様、帰ってしまうのですか」
「うんっ! 元々、天界の住人だからねっ! でもでも、貴方がまた人生に行き詰まった時には現れるから、それまで一旦バイバイだよっ」
 こればかりは仕方ない。子供じゃないのだから、天使を引き留めるわけにもいかないし、また現れると言ってくれているからいいか。

 しかし、その日を境に天使は私の前には姿を現さない。その代わり、先日会った友人達とはその後も連絡を取り合い、以前よりかは毎日が苦にならなかった。気持ちに余裕が生まれたのか、以前よりも少し困っている人に目がいかなくなり、いや単に私が以前よりも気付いていないだけかもしれないが、平凡な人生の中には寂しさはもう無かった。
 ふとした時にまたあの天使が現れないか期待もしたが、やはり天使は現れない。夜に見る夢も学生時代の良い想い出の夢は無くなった。

     ◇

 数十年後、私は定年退職をする仕事最終日の夜に、学生時代の友人達が退職祝いを決行してくれたようで、私は至福の時間を友人達と共に過ごし、別の日には身内からもサプライズ旅行もプレゼントされた。もうあの頃のような虚しさは無い。
 更に十数年後、私はすっかり年老いてしまい、まともに歩く事も出来ない。人生を思い返してみれば、結局はあの時の天使の願い事が私の人生を救った結果が今に至っているのだから、それで満足なのだから――

 どうして、どうして私はこんなにも哀しいのか
 幸せだった筈の日々が終わりを告げて来る
 こんなにも胸が苦しい思いなんて初めてだ

 気付くと私は一人寝床で泣いていた。
 時刻はまだ真夜中の2時を過ぎたばかり。幸せ過ぎた人生のツケが今になって押し寄せて来たように感じ、涙がどうしても止まらない。傍らにはあの時の天使の姿が――

「天使様!」

 ……誰も居ない寝室、時計の秒針だけが響く。
 本当に本当に幸せな一時をありがとう。私は薄れゆく意識の中、そのまま眠るように亡くなった――

 天使は嘘をつかない
 再び人生に行き詰まる事なんて、ただの一度も無かった
 最後まで一生懸命生きて、良……かっ……た…………・・・・・・

 -α 『Falsely Angel』完

 実は、この物語には“裏の顔”が存在する。本編を全て“ひっくり返して”読むと……

 ◇Explanation◇→ 『Falsely Angel』

 人間という生物は、褒め過ぎても身を滅ぼすという比喩表現の一種として書いた物語。
 『Y氏の*人』というオムニバス作品の中にあった『エンジェルカンパニー』的な話を構想していたが、あそこまで残虐な結末には敢えてしていない。
 一体、人間にとっての本当の幸せとは何なのか。
 シンプルなようでいて、最大の難問なのではないか。本当にこの物語の主人公は幸せな人生を送っていたのか、それとも最後まで不幸の連続だったのか、あるいはあの天使と出会った事で、主人公の人生の歯車が狂ってしまったのか。
 最後に、この物語を“逆の解釈”で読み進めてみて欲しい。新たな解釈と共に、この物語の真相がその瞬間垣間見える仕掛けを施しておいた。

 to be continued……

2020/06/19 MARL
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コメント

  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年06月20日 09:20
    いい事をすると、巡り巡って、いい事が、違った形で、戻ってくると、うちの亡き祖母が、言っていました。
    人生、そんなものなのかも?・・・ですよね〜。

mixiユーザー

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