mixiユーザー(id:65610402)

2019年08月21日19:05

131 view

『Strange dream world』

No.0471

特別編 『御伽叙事譚-Insane Vision-』

Review : <第一幕>→07/24, 07/31, 08/07, 08/14 Diary

<第二幕>

(Vol.5 Life In A Moment〜浦島草〜)

いつの頃だっただろうか。
両親から買って貰った数多くの昔話。
子供の頃に特に考えもせずに読み耽っていたっけ。

私(こんな幻想世界で暮らしてみたいな。)

何気無くそんな理想を、頭の中のイメージに置き換える。
そして、私はある夜に見た夢の中で彷徨い歩く……。

     ◇

異世界の愚者「奏姫、そろそろお時間でございます」
奏姫「どうしても行かんといけないのか? 妾はまだ行きとうない……」

十二単姿の美しい姫君、名は“奏(かなで)”と云う。
それは遠い昔の事、彼の地では娘が十五になった最初の夜に、生贄を捧げる風習があった。
奏姫は幼い頃から両親の愛を受けて育ってきた事すらも分からない。
彼女が物心つく以前から既に両親は居ない。

十五となった今夜、彼女は連日歌い続けてきた歌を再び歌い始める。
周りの使役者達の言葉にも耳を貸す事も無く、ついに彼女に白羽の矢が立ったのだ。
奏姫は使役者達を自身の敵だと認識し、その場から逃げ出そうとした。
だが、十二単姿では走る事も出来ず。
普段から膝立ちで歩いている身としては、尚更。

生贄の対象となった奏姫は、大広間から複数の使役者に抱えられて城の天守閣へ。
天守閣の中は地下牢のような薄暗さで、
微かに見える隙間からは月の光だけが中の様子を照らしている。
囚われの身となった奏姫は使役者達に束縛され、天守閣に幽閉されてしまう。

     ◇

視界が定まり難い。
気付くと私はいつの間にか元の生活に戻っていた。
相変わらず右目は全然見えない。
まだ夢の中に居るような錯覚があるが、
無事にあの恐ろしい昔話の夢から解放された、と思っておくか。

ある日、母親が大量のトレーシングペーパーを私の目の前に置いて、

母親「医者から視力回復の為に、このペーパーを使って文字をなぞれ、らしいわ。
この訓練で絶対に視力回復するしな。絶対に大丈夫やから!!」

8歳の私には今のようにあまり物事を変に深く捉えるような事はしなかった。
母親の言う通り、この日から大好きな昔話の絵本を使って
お話の文字をひたすらなぞる事にした。
先日から見ていたあの恐ろしい夢の事は、
文字をなぞる度に、次第に私の頭の奥底から
恐怖心だけが少しずつ消えていくような気がした。

中でも大好きな『浦島太郎』のお話の文字をなぞっていると、
私が乙姫として、太郎を最終的に陥れる展開にまで物語が進んでいくところを思い返し、
太郎が鶴となって飛び立っていく場面に差し掛かると、
私の手は一瞬止まりかけた。

私(……何だか早くこの右目を戻さないと、一生取り返しのつかない事になりそう。)

その日は久々に安眠が出来た。
そして、またあの時の夢が私の目の前に“形を変えて襲って来る”。

     ◇

ある日、(浦島)太郎が釣りをしていると、あの時助けた亀が現れて、

亀「助けてくれたお礼に竜宮城へご案内致します」

私は一体夢の中の何処でこの光景を目にしているのか。
太郎は暫し考え込み、丁重に亀の誘いを断ったかと思うと、
持っていた釣り竿で何かを釣り上げた。

太郎「お? 今日は干乾びた亀の死骸だけか。今日のご飯は絶望的だな」

亀の右目だけが無残に潰されており、太郎はその干乾びた亀を海へ放り投げた。
それを見た太郎に助けられた亀は急いで、

亀「姫様!!」

そのまま太郎を置いて海の底へと消えていった。
太郎はその後、貧しいながらも母親と一緒に平和に暮らしていったとさ。

一方、竜宮城では太郎から放り投げられた右目の潰れた亀を介抱する魚達。
微かに潰された右目から滴るその数滴の涙から、干乾びた亀に生命の兆しが!!
何処か異国の地で、私を蘇生させている存在があるのか。
僅かに見えてくる右目。干乾びた亀の身体はそう簡単には動いてくれない。
のうのうと生きている太郎は、あの釣り竿で私に止めを刺すつもりでいたのか。
その後、太郎が再び私に襲い掛かってくる事は無い。

     ◇

そのまた次の日の夜も安眠が出来た。その次の日の夜も――

to be continued……
(特別編 『御伽叙事譚-Insane Vision-』
(Vol.6 Do You Die Of Whether You Live Desperately? 〜童子切安綱〜)へ続く。)
3 1

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する