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2019年09月18日18:37

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短編小説 『曽宮一念と俊一』


俊一、達者か..早く帰ってこい..
お前には未来がある 芸術があるんだぞ..

悔しい..


私は曽宮一念
画家という路を志、夢を叶えた

待望の一人息子俊一も立派な若者に育った
俊一、お前も随分絵がうまくなったな
さすが父さんの息子だ

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俊一は幼い頃より絵の具の溶き方、鉛筆の使い方、キャンパスの作り方など眼でそれを覚えた

それは大したものだった

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俊一は東京美術学校在学中に私の希望もあり、建設設計を学ぶかたわら水彩画を描く

その後まもなく赤紙応召..
今でも忘れへぬあのときの思い

俊一は小豆飯が好きだった
とにかく美味しそうに食べる姿がたまらなく愛らしかった

私は戦地へ赴く俊一に何度も手紙を出した

俊一、今日はお前の誕生日だ!小豆飯を炊いたからな

やがて俊一からの便りはいつしか途絶え、生きているのか死んでいるのかもわからなくなった

俊一、達者か..早く帰ってこい..
お前には未来がある 芸術があるんだぞ..

戦後、戦死した最愛の息子俊一の事は一切誰にも話すことなく、その事に触れられると私は機嫌が悪くなった

そんな私ももはや90を過ぎる歳になるのだが、心の中でひと事だけ言いたい

悔しい..

誰かに話すことで楽になることもあっただろうが今何度も思う

只々悔しい..

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息子俊一は昭和20年1月に応召
昭和20年3月、アメリカ軍の投下した爆弾の直撃を受けて戦死した


終わり

コメントは不要ですわーい(嬉しい顔)
読んでイイネくれたら幸いです(^^)


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