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2020年02月18日18:01

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DeNA「508億円の減損処理」、大赤字でこれからどうなる?

2020年3月期第3四半期の決算で、DeNAは約442億円もの営業損失を計上した。東証マザーズ上場以来、初の赤字決算は避けられそうにない。有価証券報告書を使って経営実態を分析し、現在の状況と将来性について検証する。書き手は、「監査法人」「証券会社」「ベンチャー企業」「会計コンサル」、4つの立場で「会計」に携わった経験を持つ川口宏之氏。発売4日で重版が決まった『経営や会計のことはよくわかりませんが、儲かっている会社を教えてください!』の著者でもある。
DeNAの巨額赤字! これからどうなる?
 2020年3月期第3四半期の決算で、DeNAは約442億円もの営業損失を計上しました。通期決算の赤字はほぼ確実で、2005年の東証マザーズ上場以来、初の赤字決算は避けられそうにありません。
 ここ数年、DeNAは営業利益100億円〜200億円台の黒字をキープしていましたので、今回の突然の赤字転落は衝撃的で、株価も大幅下落となりました。
いったいDeNAに何が起きたのでしょうか?決算資料をもとに分析します。
 2019年4月〜12月の連結損益計算書をみると、「その他の費用」が516億円も計上されており、これがDeNAの利益をすべて吹き飛ばしました。「その他の費用」の内訳を見ると、そのほとんどが「減損損失」で、額は508億円です。下図を見てください。
 「減損損失」とは、端的に言えば「事業価値低下による固定資産の価値下落」です。つまり、DeNAの貸借対照表に計上されている固定資産の価値が下がったため、その価値下落分が費用として計上されたのです。
 日本の会計基準では、「減損損失」は特別損失に区分されるため、営業利益に直接影響しません。しかし、DeNAが適用している会計基準は国際財務報告基準(IFRS)です。IFRSには特別損益という区分はありません。そのため、減損損失は営業利益より上に区分され、営業利益を押し下げる結果となったのです。
「これ」が営業利益を押し下げた!
 では今回、「減損損失」の原因は何なのでしょうか?注記情報に「減損損失」の内訳が載っており、これを見ると大部分が「のれん」の減損なのです。
 「のれん」とは、ブランド、技術、販売網、従業員の能力などの企業が保有する目に見えない価値の総称のことです。このような無形の価値は、M&Aによって初めて顕在化する資産です。具体的には、M&A時の買収価格が買収先企業の純資産を上回る場合、その差額がのれんとして貸借対照表に計上されます。
 DeNAの場合、2010年に買収した米国のゲーム会社ngmocoにかかる「のれん」が大半を占めます。当時DeNAは、米国進出の足掛かりにするため、設立からわずか2年程度だったこの小さな会社を、巨額の資金を使って買収しました。しかし、期待通りの成果は出せず、事業は赤字続き。2016年にはngmoco社を清算し、米国事業からは事実上の撤退となりました。
 このような事態に陥っても、当時のDeNAは「のれん」の減損を行いませんでした。ゲーム事業全体としてはまだ価値下落はない、という判断だったのでしょう。
 また、日本の会計基準と違ってIFRSは「のれん」の定期償却がありません。つまり、DeNAのようにIFRSを適用している会社は、減損の判定がされるまで、「のれん」は1円も償却されず、永遠に貸借対照表に残り続けるのです。
 しかしその後、DeNAのゲーム事業は衰退の一途をたどります。過去5年の売上と利益の推移を見ると、坂を転がり落ちるような右肩下がりとなっています。下図を見てください。
 第3四半期累計(9ヵ月ベース)の推移で見ても回復の兆しが見えず、会計基準に従い、減損の判定が下されました。
 つまり、ゲーム事業全体としての価値下落が明白となったため、ゲーム事業の「のれん」も、やむなく減損せざるを得ない事態となったのです。
 この結果、これまで溜めつづけてきた「のれん」が、貸借対照表から損益計算書へと一気に放出され、今回の巨額の赤字となったわけです。
IFRSのメリット、デメリット
 日本の会計基準は、「のれん」は最長20年内の期間で規則的に償却され、その償却額がコストとして計上するというルールです。これに対してIFRSでは、「のれん」の規則的な償却は行われません。したがって、IFRSは毎年の「のれん」の償却負担がないため、平常時には実に都合がいい会計ルールです。
 ところが、業績低迷という非常時になると、「減損」というトリガーが引かれ、一気に巨額の損失を引き起こします。IFRSを適用していて、かつ、巨額の「のれん」がある会社は、いつ爆発するか分からない不発弾を抱えているようなものなのです。
 ちなみにDeNAは、ngmocoを買収した2011年3月期では日本の会計基準を適用していました。当時の有価証券報告書を見ると、「のれんの償却は、2012年3月期より12年で行う方針であります。」と書かれています。
 ところが、その直後にIFRSに移行したため、結局は「のれん」の償却は行われてないのです。仮に、DeNAが日本の会計基準のままであれば、約8年にわたり「のれん」の償却費が毎年コツコツ費用に落ちるので、今回の「のれん」の減損による被害は約3分の1の金額で済んだはずなのです。
 DeNAはかつて、キュレーションサイトの不適切な記事掲載問題が起きた時も、のれんの減損を強いられました。しかし、減損損失は40億円程度で、しかも、数ある新規事業の一つに過ぎなかったので、業績に与える影響はそれほど大きいものではありませんでした。
 しかし、今回の減損はゲーム事業全体での減損です。ゲーム事業はDeNAの売上全体の3分の2を占める主力事業なので、経営の屋台骨が大きく揺らいだと言えるでしょう。
 ゲーム事業は、ヒット作を出せば爆発的に利益を稼ぐことができるため、儲けやすいビジネスと思われがちですが、決してそうではありません。ユーザーというのは常に移り気です。
 一時的に人気が出ても、継続的に面白いゲームを開発し続ければなければ、ユーザーに飽きられて、業績がとたんに悪化してしまいます。つまり、ゲーム事業というのはハイリスク・ハイリターンのビジネスなのです。
DeNAはこれからどうなる?中長期的に見る
 不安定なゲーム事業に代わる収益の柱を育てようと、DeNAはM&Aを駆使して事業の多角化を模索してきました。しかし、キュレーションサイトは前述の通り閉鎖に追い込まれ、旅行事業の「DeNAトラベル」もエボラブルアジアへ譲渡してしまいました。
 配車アプリ「MOV」も、ジャパンタクシーとの経営統合することになり、オートモーティブ事業からは片足抜けた格好です。現在はヘルスケア事業などを育成中ですが、いまだ赤字が続いており、収益の柱になるにはまだまだ時間がかかりそうです。
 そんな中、唯一、好調を維持しているのはスポーツ事業です。すなわち横浜DeNAベイスターズだけが孤軍奮闘しています。他の事業が苦戦する中、スポーツ事業は前年同期比で増収増益を達成しました。
 現在、DeNAの貸借対照表に残っている「のれん」は、ベイスターズ買収時に発生した58億円のみなので、今後の減損リスクは極めて限定的でしょう。また、DeNAはキャッシュを800億円以上も抱えるキャッシュリッチ企業で、自己資本比率も70%を超えています。
 かつての栄光時代の蓄えによって財務基盤はまだまだ盤石で、かつ、今回の減損損失で溜った膿は吐き出されました。
 決して焦る必要はなく、中長期的な視点でじっくり事業の立て直しに注力していってもらいたいものです。
川口宏之(かわぐち・ひろゆき)
公認会計士
1975年栃木県生まれ。2000年より監査法人トーマツにて、主に上場企業の会計監査業務に従事。2006年、みずほ証券にて、主に新規上場における引受審査業務に従事する。2008年、これまでの経験を活かし、ITベンチャー企業の取締役兼CFOに就任。ベンチャーキャピタルからの資金調達、株式交換による企業買収などで成果を上げた。現在は会計コンサルとしてIFRS導入コンサルティング業務や決算支援業務、各種研修・セミナーの講師等を担当する。「監査法人・証券会社・ベンチャー企業・会計コンサル」。4つの視点で会計に携わった数少ない公認会計士。研修・セミナーでは「生きた数字」を感じてほしいという思いから、「実在企業の財務諸表を分析する」コーナーを設け、大きな支持を得ている。指導実績は1万人を超え、受講満足度は5段階評価で平均4.8を誇る。
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