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2019年12月15日06:31

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ブレグジット実現に道筋つけた英保守党「歴史的勝利」の理由

過半数超え87年以来の大勝
コービン労働党首は辞意
 12月12日に投開票が行われた英国の総選挙は、ボリス・ジョンソン首相が率いる与党・保守党が大勝した。
 保守党の獲得議席は過半議席を上回る364議席となる見通しで、マーガレット・サッチャー首相が3選を果たした1987年総選挙以来の議席数を獲得した。
 他方、野党第一党の労働党は1935年総選挙以来の大敗を喫し、203議席の獲得にとどまった。
 保守党が過半数を大幅に超える議席を得たことで、英下院での離脱協定の批准や関連の実装法案などが早ければ年内か、来年1月に可決される見通しで、「2月1日のブレグジット実現」の道筋がついた。
 支持率調査では選挙戦終盤に労働党が追い上げていたこともあり、直前の予想では保守党が過半議席を獲れないのではないかとの見通しがささやかれていただけに、今回の結果は驚きをもって受け止められた。
 特に労働党の大敗は事前予測を大きく上回る結果で、例えば、英調査会社YouGovは、労働の獲得議席数を中央値で231議席、レンジでみても206〜256議席と予測していた。
 選挙結果を受けて、労働党のジェレミー・コービン党首は辞任の意向を表明した。
メッセージが明確だった保守党
“混迷疲れ”の有権者の支持得る
 何が保守党と労働党の命運を分けたのか。明暗を分けた3つのポイントがある。
 第一は、ブレグジット政策の成否である。
 今回の選挙の主要争点であるブレグジットについて、保守党のメッセージは明確で、一方の労働党のメッセージは曖昧だった。
 保守党のジョンソン首相は、「ブレグジットを実現させる(Get Brexit Done)」というシンプルかつ分かりやすいスローガンを繰り返し、16年の国民投票以降の長きにわたるブレグジット交渉と英下院の迷走に疲れた有権者の支持を得た。
 これに対し労働党は、選挙で勝った場合には3カ月以内に、より穏健な離脱を再交渉し、6カ月後にその結果とEU残留とを国民投票にかけることを公約としていた。
 しかし、コービン党首は国民投票となった場合に労働党が党として残留と離脱のどちらの側に立つかという基本的な問いに明確に答えることすらできなかった。
 このため、伝統的な労働党の地盤で離脱支持者が多い中西部で保守党に票が流れただけでなく、残留を支持する有権者の票も固めきれなかった。
 第二は、マニフェストの内容である。
 保守党の歳出拡大策が、労働党よりも多くの有権者の支持を得た可能性がある。
 保守党は拡張的な財政政策を打ち出し、国民保健サービス(NHS)改革や、治安といった世論の関心が高い分野に積極的に資金を投入し、国民保険料減額など国民受けの良い政策を公約とした。
 他方で労働党は左派的なアジェンダを追求し、鉄道、公共、郵便事業などの再国有化、法人税の19%から26%への引き上げ、富裕者への所得増税と中低所得者への増税凍結など、サッチャー政権以降、採られてきた経済政策と逆方向の再分配政策を提唱した。
 しかし、こうした政策の恩恵を得る中西部、労働者階級の有権者はブレグジット政策への反対から保守党に流れ、時代に逆行する政策は都市部の有権者や若者には届かなかった。
 第三は、党首の人気である。
 2019年9月にIpsos MORIが行った世論調査によれば、コービン党首は野党の党首として、77年の調査開始以来最も人気がない党首と見なされている(不支持率は76%)。ブレグジット政策の取り扱いについても回答者の77%が「悪い」と答えた。
 17年の前回選挙では労働党が勝利したが、今回の選挙では保守党が勝利したストーク・オン・トレント北の選挙区から立候補した労働党のスミース議員は、英スカイTVとのインタビューの中で「コービン氏の個人的な動きが、今回の私の選挙区での(敗北という)結果をもたらした」と厳しく非難している。
SNPがスコットランドで議席増、
自民党は不振で党首も落選
 総選挙で、保守、労働党以外のそのほかの党では、明確に離脱取りやめを打ち出した自由民主党の獲得議席は、12議席の見通しで、スウィンソン党首も議席を失った。
 650の選挙区に分かれて、各選挙区で最多票を得た候補1名が当選する小選挙区制は、支持基盤が広い大政党に有利といわれる。
 このため、有権者は自由民主党を支持していたとしても、自らの票が死票とならないよう、当選しそうな大政党に投票する傾向がある(戦略的投票といわれる)。この結果、支持率調査と比べても自由民主党の獲得議席数は伸びなかった。
 スコットランドの地域政党であるスコットランド民族党(SNP)は、スコットランドでの議席数を増やした。
 SNPは、スコットランドの英国からの独立を問う住民投票を2020年内に実施することを公約として掲げており、その前哨戦としての位置づけがあった。
 そのため、保守党が2017年の前回選挙よりさらにスコットランドでの議席数を伸ばしたことで、SNPは住民投票実施の要求を強める可能性がある。
 ただし、英国では住民投票の実施には中央政府での立法が必要である。保守党は住民投票の実施に反対しており、公約実現の見通しは立っていない。
 その他、ナイジェル・ファラージ党首が率いる新党ブレグジット党は、議席を獲得できなかった。そもそも、メイ前政権の下で穏健化するブレグジットに不満を抱く有権者の受け皿として登場した同党は、ジョンソン政権の誕生とともに支持率は低下に転じた。
来年2月1日に「実現」
3月からEUとFTA交渉
 保守党の勝利により、ブレグジットは実現が確定したといえる。
 今後は、英下院で離脱協定が批准された後、離脱協定実施法案など幾つかの関連法が可決され、2月1日に英国はEUを離脱することとなる。
 EU条約第50条第3項、およびEU決定(EU) 2019/1810によれば、英・EU両者が批准プロセスを終えた月の翌月初日あるいは20年2月1日のどちらか早いほうが離脱日となる。
 保守党が下院で過半議席を握り、かつ所属議員の造反はほぼ起こらないと予想され、そう考えると、下院採決は円滑に進む見通しだ。
 20年2月1日から同年12月31日まで、英国は離脱に向けた移行期間に入る。
 移行期間中は英国にEU法が適用されることから、離脱したという事実以外、経済活動に与える影響はほとんどないだろう。
 在英のEU市民や在EUの英国民についてもその地位は保証される。財、サービス、資本の移動についても従来同様に自由である。
 移行期間に英国とEUは自由貿易協定(FTA)の締結に向けた交渉を行う。
 英国側の首席交渉官はリズ・トラス国際貿易相であり、EU側は新任のフィル・ホーガン欧州委員(通商担当)になる。なお、ホーガン委員はアイルランド出身で、前農業・農村開発担当の欧州委員である。
 EU側では、まず首脳会合において交渉の基本方針を定め、EUとして英国との通商交渉を開始する権限を欧州委員会に付託するための交渉指令を、EU閣僚理事会において承認する必要がある。
 ホーガン委員は、アイルランド紙とのインタビューの中で「(3月17日のアイルランドの祭日である)聖パトリック・デイ」までには交渉開始が可能と述べている。
FTAは1年ではまとまらず
移行期間は延長される見込み
 ただ、FTA交渉の難しさを考えると、英国とEUの間のFTA交渉は、移行期間中にはまとまらず、移行期間は延長される公算が大きい。
 ホーガン欧州委員(通商担当)は、前述のインタビューの中で、「(長年EUの一員であった)英国との交渉はゼロから始まるわけではなく、通常3〜4年かかる他国との交渉よりもより早期に締結が可能」との見通しを述べている。
 だが、3月に交渉を始めても、わずか8カ月強で発効までこぎつけられるという見通しは楽観的過ぎるだろう。
 FTA交渉が2020年12月末までの移行期間中に終わらない場合、英国とEUの間で関税や通関手続きが突然、発生し、いわゆる「合意なき離脱」と同じような状況に陥ってしまう。
 こうした状況を避けるべく、離脱協定第132条では移行期間の1年または2年の延期が認められている。ただし延期の決定は、7月1日までにされなければならないため、交渉開始からほとんど時間はない。
EUとの「公平な競争関係維持」
に向けた規制の調和が争点に
 FTA交渉の焦点は、英・EUが公平な競争環境(Level Playing Field、LPF)の維持に向けた包括的な枠組みを作れるかという点だろう。
 EUは、離脱した英国が一方的に自由化を進め、EU企業の競争力がそがれることを懸念している。
 LPFの維持に向けた製品基準や労働基準、国家補助など競争政策、徴税の仕組み、社会保障・労働に関する基準、環境保護に関する規制などの枠組みなどが、争点としては考えられる。
 例えば、英国が特定の産業に有利になるような補助金政策をとったり、過度に低い法人税を課したりして、競争上の不利をEU企業にもたらすことは、LPFを阻害する可能性があるとEU側はみなしている。
 さらに、LPFが守られているかどうかの監視や、紛争処理、判決の執行、制裁の付加などの役割をどのような機関がどのような形で担うのか、といった点も協議される。
 英国はEUのルールに縛られずに独自の自由な規制環境の中で第三国との通商関係を構築したいと考えており、EUとの交渉は難航する可能性がある。
 こうした中で、財の取引は広範な自由化が進む公算が大きい。これまでEUが結んできたカナダとの包括的経済貿易協定(CETA)や日本との経済連携協定(EPA)の実績を考えると、英・EU間のFTAにおいても全量に近い関税撤廃が予想される。
 しかし、関税が撤廃されるといっても、原産地規則(ROO)に関する取り決めなど、優遇関税を適用する上でのルール作りについては、交渉の余地が大きい。
 他方で、サービス取引については、単一市場にいる現状と比してクロスボーダーでのサービス提供は難しくなるだろう。
 英国にとって重要な金融サービスについては、1カ国で営業免許を取得すれば残りのEU27カ国に対して自由にクロスボーダーで金融サービスを提供することができる「パスポート」は使えなくなる。
 在英金融機関は、EU内に新たな拠点を作るなど既に対応済みであり、大きな混乱は生じないとみられるが、英国とEUが将来関係に関する政治宣言の中で20年6月末までに行うことで合意した、同等性評価の結果が注目される。
ジョンソン首相は
第三国とも幅広いFTA目指す
 筆者は11月に英国へ出張し、離脱推進派のエコノミストと議論を行ったが、その時に感じたのは、離脱を支持するエコノミストの自由貿易推進への強い意志である。
 保守党の政治家を含む離脱推進派は、ブレグジットを国内外で自由化を進めるための手段と見なしている。
 従って、第三国とのFTAをいかに早く、広く、深く進めていけるかは重要である。FTAの優先順位としてはEUが筆頭に来るだろうが、その後、米国、オセアニア諸国、日本などが続くとみられる。
 第三国とのFTAについて、離脱派エコノミストのグループであるEconomists for Free Tradeは、第三国とのFTAの効果だけで英GDPを中期的に4.0%押し上げると推計している。
 英国内市場の開放による競争促進や価格低下がGDPの中期的な増加をもたらすと考えているためだ。
 一般的にFTAのメリットとしては、自由化による輸出先市場の開放が挙げられることが多いが、ここでは国外市場開放のメリットではなく、国内市場開放のメリットを狙っている。
 中期的にみて、離脱派のエコノミストが考えるように「自由で開放的なビジネスの場」として英経済が拡大していくという保証はない。むしろ現在のエコノミストのコンセンサスはその逆で、英国は中期的に競争力を失うというものだ。
 しかし、少なくとも保守党の政治家たちは、市場開放による新自由主義的な政策を拡張財政とセットにしながら追求している。
(みずほ総合研究所欧米調査部上席主任エコノミスト 吉田健一郎)
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