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2019年08月26日16:24

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EVへの誤解が拡散するのはなぜか?

 21日、ITmedia Newsに「電気自動車の世界市場予測 2年後にHVなど抜き主力に」という記事が掲載された。「THE SANKEI NEWS」からの転載記事だ。短いので全文を引用する。
 調査会社の富士経済は20日、電動車の世界販売台数予測について、電動モーターのみで動く電気自動車(EV)が、ガソリンエンジンと併用するハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)を令和3(2021)年に抜いて主力となるとの見通しを発表した。17(2035)年には2202万台と、現在の17倍にまで急成長するという。
 従来はPHVが最多になるとみられていたが、中国や欧州などでの政策誘導や技術の進展でEVの伸びが急加速すると予想。日本の自動車メーカーが得意とするHVも増えるもののEVには後れをとる見込みだ。
 今回の予測で17年のPHVの販売台数は1103万台と、昨年予測の1243万台より伸びが鈍化。一方、HVは昨年予測の420万台から785万台に上向いたほか、EVは1125万台から2202万台へ倍増した。
 記事そのものはいわゆる「ストレートニュース」といわれるもので、媒体の見解や論評や考察を含まない単純報道の形になる。「そのように富士経済がいっている」ことを伝えますよという形だ。
 そして、この記事を何の先入観もなく普通に読むと、再来年にはEVがHVを抜き、HVを得意とする日本の自動車メーカーは後れを取ると読める。読み手が受ける印象は「日本沈没のXデーはもはやカウントダウン」だ。そう受け取った読者は多いのではないか? まずは安心してほしい。再来年に日本が沈没する可能性はゼロだ。
●記事で省かれた大事な要素
 問題はややこしい。「日本沈没のXデーが再来年」と受け取るのは、最終的には読者の誤読であるが、記事の形は誤読を誘発するようにでき上がっている。それは調査から読者がイメージするところまでの間で、伝言ゲームのように前提条件の欠落が発生し、そこに先入観による補強が加わって引き起こされている。
 そういう報道が繰り返されるのは、今の日本の自動車産業界にとって、さらに日本経済にとって非常に大きな障害ともいえる。ただでさえ悲観的に物事を受け止める癖のある日本人に、悲観的なニュースを送り続け、世相をますます暗くしてどうしようというのか?
 そういう報道が無邪気な無知によるのか、悪意によるのか、あるいは商売としてその方がメリットがあるのかは、おそらく渾然(こんぜん)としており、実態は紙一重だと思っている。今回はこの記事を一例として、何でそんな日本経済の悪い未来を書き立てる記事が繰り返し掲載されていくのかを検証してみたい。
 まずは基本的なところから。「THE SANKEI NEWS」がベースにした富士経済のリリースはこれだ。リリースを読むと、同社が再来年HVとEVの販売台数が逆転すると予測するには、重要な前提があることが分かる。
「※トラック、バス、超小型モビリティを除く。また、HVは48VマイルドHVを含まない」
これがあるとないとでは話の前提が変わってしまう。
 つまりは、いわゆるストロングHVといわれる、「モーターのみで自走できる」HVだけをHVに定義しており、マイルドHVはカウントしないことが述べられている。どういうことかといえば、おおむねトヨタとホンダのHVだけを抜き出して、全世界のEV総数と比べているわけだ。
●EVは今の所環境問題のキラープロダクツではない
 現在、欧州のCAFE規制に範を取ったCO2削減規制が世界的に広まりを見せており、自動車メーカー販売台数1台あたりのCO2排出量基準が設けられている。この規制は平均値で網がかけられる。EVは確かにゼロエミッションだが、問題は全販売車両の平均値だ。1%や2%、ゼロエミッションのクルマを作ったところ平均に与えるインパクトはしれており、クリアできない。
 条件分岐が複雑なので詳細は割愛するが、30年のCO2排出規制値は現状の約50%程度になる見込みだ。これは法案として可決されたが、確定はしていない。
 EVのみによって50%削減を達成するならば、世界中の全てのメーカーが、販売台数の半分をEVにしなくてはならない計算になる。そのためには、エンジン搭載車の購入価格がEVより高くなるように罰金を設けるしかないだろう。50%がEVになる世界で、EVを安くするために補助金をつぎ込むのは財源的に不可能だ。
 価格の高いEVを半数まで無理矢理にでももっていこうとしたら、クルマの最低価格は300万円程度になる。庶民はクルマを購入できなくなり、クルマは今以上に限られた金持ちのものになる。そうなればグローバルな新車販売台数が現在の半分以下まで落ち込むだろう。
●EVが期待されるのは世界の環境規制があるから
 この規制がいかに厳しいか。今適用されている18年規制は130グラムなのだが、現時点で20年のCO2規制値(95グラム)を先取りしてクリアできている会社は1社もない。
 確かにEV専門のメーカーはこの例外だが、それらの会社のカタログには100万円や200万円で買える庶民のクルマはラインアップされていない。現状EV用のバッテリーコストは200万円から300万円といわれている。日産のEVであるリーフのバッテリー小(40kWh)モデルは324万円、大(62kWh)が416万円という車両価格を見れば、まあそんなものだろうと思われる。要するに新車でEVを所有できるのは、今の世の中でいえば富裕な人たちだけで、だから台数が売れない。それは現時点では間違いない事実である。
 それに対して、EV推進派の人たちは「必ず価格低減が起きる」というが、それはもう長らくいわれているので、本当に起きた時に教えてくれというのが多くの消費者の本音だろう。
 さて、現状をベースに考えると、CO2削減はEVだけでは難しい。EVが必要なのは疑う余地がないが、他の方式を排除する思考はすこぶる非建設的だ。単純な算数の問題だ。現在グローバルでEVのシェアは0.1%程度。それが完全なゼロエミッションだとしても、CO2は0.1%しか削減されない。未来への可能性は評価するとしても、現状はCO2削減に全く役立っておらず、誤差に飲み込まれる実績でしかない。キラープロダクツのイメージとは程遠い。
 一方、あとで論拠を説明するが、マイルドHVなら3.2%の削減が可能になる。そもそもマイルドHVとはモーターがエンジンの補助程度の出力しかなく、モーター単体では走行が不可能なクルマをいう。ストロングHVに比べてCO2削減効果は低いが、値段も安い。マイルドHVの代表であるスズキの「S-エネチャージ」搭載車と非搭載車は、装備も違うので直接比較はできないが、カタログ価格の差が10万円ほど。つまりシステムは少なくともこれ以下の価格、おそらくは7万円から8万円程度ということになる。仮に8万円として話を進めよう。
 S-エネチャージ発表時の資料を見ると、燃費向上率は8%とある。8万円の価格増加なら、庶民向けの価格帯でも吸収可能だろう。何より20年規制が95グラムに確定してしまっている以上、世界の取り決めを無視するわけにはいかない。もちろん8万円は高いという人もいるだろうが、では200万円高いEVと比べてどうなのだといえばこれはもう議論の余地は無い。
 パリ協定が定めた温暖化改善スケジュールを守るためには、何としても平均値を下げなくてはならない。途上国で増え続ける自動車需要を満たしつつ、C02削減を進めるためには普及価格帯の技術が必須だ。
 ではマイルドHVの燃費削減効果はいかほどかといえば、C02排出量は燃費にほぼ比例するので、S-エネチャージの燃費低減率8%を採用すると、市販車の40%がマイルドHV化されれば、3.2%のCO2削減効果が見込める。「40%は言い過ぎではないか?」という異論もあるだろうが、CAFE規制の基準値はどんどん厳しくなる。
 予定変更がなければ、25年には、20年を基準にマイナス20%、30年にはマイナス40%に厳格化されそうだ。20年までの規制が1キロメートル走行あたりのグラム数で規定されていたのに対し、突然各社の実績値からの削減になるあたり、さまざまなロビー活動が想像されるところだ。
●どれかひとつを選ぶ話ではない
 そして、その時代に純内燃機関車はおそらく存続が難しい。順当に考えれば、時間をかけてマイルドHVが今の純内燃機関の位置にスライドしていくだろう。ただし、問題もある。規制の厳格化に対して、マイルドHVの8%程度の低減で追いつくのかといわれれば厳しいのも事実だ。だからといって大衆車クラスが吸収可能な10万円、20万円程度で実現できる手法で、それ以上にジャンプアップできる有効な手段があるわけでもない。可能な限りのことを粛々とやっていくしかない。「クリアできないんだから、いくら高額でもEVしかない」という理屈はすこぶる社会主義的で、自由経済の世界では相当に異端だと筆者は思う。
 さて、HVがダメだと思われても困るので、そこのところの現状を説明しておこう。トヨタはストロングHVの販売台数が好調なおかげもあって、20年の95グラム規制をクリアできる見通しが立っている。そんな会社はトヨタ以外にほぼない。欧州のEVをリードしているはずのフォルクスワーゲンは、規制クリアできていないのが現実だ。
 トヨタの計画では、30年まではHVを主戦力として規制をクリアし、40年へ向けてはプラグインHV(PHV)で対応。50年へ向けてはEVの比率を一気に高めていかなくてはならない。それまでに何とかバッテリー価格を引き下げようと考えている。まあ常識的に考えて、今200万円のものが再来年に50万円になるとは思えない。10年では難しいけれど20年あればという考えはリーズナブルに聞こえる。
 現在トヨタのストロングHVの熱効率は、ピーク値で55%といわれている。従来のガソリンエンジンが熱効率30%といわれていたことから考えると54.5%の改善だ。特殊な条件で叩き出すピークを抜き出してもしかたないので、ざっくりと40%くらいをリアルな効率と仮定する。その上で、未来の話は分からないので、今われわれの目の前にある選択肢を並べてみるとこういうことになる。
・EVはCO2削減率100%で最安値324万円(リーフ)
・ストロングHVはCO2削減率40%で最安値252万円(プリウス)
・マイルドHVはCO2削減率8%で最安値110万円(ハスラー)
 こうやって並べるとどれが正解か? という話になりがちだが、そうではない。HVの例に、アクアではなくプリウスを挙げたのは、アクアはプリウスの最新システムよりCO2削減効果が落ちるからだ。だがしかし、最廉価モデルは179万円だ。「その値段のハイブリッドなら買える」という顧客層がいるなら、多少旧型で効率が劣っても純内燃機関車両よりはずっといい。最高のものがあれば、それ以外はいらないということではないのだ。トータルの平均値を下げるためには、顧客の所得レベルに応じて、実際に買える「環境技術」を用意し、メーカーはそれらが最終的にどういう比率で売れ、ミックスされて平均値が構成されるかをうまくコントロールしなくてはならない。この現実を前に、マイルドHVを抜きにした数字を出すことに本当に意味があるとは思えない。
 例えば30年時点で筆者が妥当と思う比率を勝手に予想すると、グローバル販売台数の30%が純エンジン車で改善率0%。40%がマイルドHVで8%改善して3.2%削減、20%がストロングHVで40%改善すれば8%削減となる。残る10%がEVで100%改善されれば10%だ。全部足すと21.2%改善の計算になる。現実のマーケットではせいぜいそんなものだと思う。規制値には全く届かないが、300万円オーバーのEVを過半数に買わせるのは、中国共産党のEV無理強い政策ですら不可能だったことを思い起こせばリアルな数字に思える。
●分からない未来を断定する記事がなぜ量産されるのか?
 もちろん筆者が立てたこの予想にも前提事項はいろいろある。例えば再来年、バッテリーの価格が半分以下、数分の1に下がるようなことが起きれば話は変わる。下がると信じる人なら違う予測を立てるだろう。マイルドHVの効率8%も軽自動車だからであって、Aセグ、Bセグで同じような改善率が見込めるかは分からない。実際プリウス級のサイズになれば、マイルドHVでは8%の燃費削減効果は期待できない。システムとクラスの組み合わせによって効果は異なる。
 さて、だいぶ長くなったのでそろそろまとめに入らないといけない。冒頭の記事にあった「16年後には現在の17倍の2202万台になる」は、まあそこまで先のことは変化幅が大きいのでそういうこともあるかもしれないとしかいいようがない。ただし個人的にはあまり順当な予想とは思えない。現状のEV需要予想はその大半が中国での急成長をベースにしているため、それはもう中国共産党がこれからどうなるかによって変わる。
 少なくともリリースを見る限り、富士経済は、香港に端を発する革命前夜的現状を考慮して予測している節はない。「THE SANKEI NEWS」が「ストレートニュースだから」という理由で、16年後まで共産党が安定した一党独裁前提の未来図を、注釈なしで伝えてしまうのはあまりにも粗雑だと思う。決算書であれ何であれ、不安要素がない時期であっても「戦争や革命などの政変はないものと想定する」という断り書きが付いている。政策によって予測が大きく変わるのは当然だからだ。
 筆者には正直なところ技術の話ではなく、政治の話だから分からない。ただ実際に今回のリリースは富士経済が販売する市場分析調査レポートのサマリーだ。このレポート「2019年版 HEV、EV関連市場徹底分析調査」は6月11に発刊されているので、止むを得ないことながら、スケジュール的に最新のニュースが反映されていない。しかしながら7月には中国政府の大きな政策変更が報道されているのだ。
 香港問題だけではなく、7月12日頃、日本経済新聞やロイター、ブルームバーグなどが相次いで伝えたところによれば、EV化を旗振りしてきた中国政府は、実質的なHV優遇へと方針転換を検討しているらしい。EVだけでは大気汚染問題が解決できないことを、EV販売促進にあらゆる手を尽くした上で理解した中国政府は、HVとEVの混合政策に切り替えた。つまり「中国が巨大マーケットだからEVが伸びる」という論拠だとすれば、全く同じ論法でHVも伸びる可能性がある。
 さて結論だ。富士経済のリリースには、マイルドHVがカウントされていないことが書かれている。これは実はとても重要な情報だった。実際EV系の統計調査では、不思議なことにPHVがEVの台数にカウントされていたり、マイルドHVがHVの台数から除外されていたりすることは多い。これが意図的な操作なのかは断定できないが、こういうデータを用いると、EVとHVの比率がゆがむのは間違いない。元リリースにあったその断り書きを「THE SANKEI NEWS」は省略した上に「EVには後れをとる見込みだ」とわずかながらストレートニュースの枠組みからはみ出す言葉を使った。
 さらにそもそもの構図を「EV vs HV」と見ている。本来それらはそれぞれ違う所得層に向け、補完しあってマーケットを構成するという見方が欠落していた。記事タイトルの「2年後にHVなど抜き主力に」からは、まさに二項対立で見ていることがうかがえる。
 大手新聞社の多くは、記者は多分全く意識していないが、ドイツのプロパガンダに強い影響を受けてしまっている。
 例えば、英語では「Electrification Vehicle」と「Electric Vehicle」ははっきり別のものだと認識されているが、日本では前者の訳語である「電動化車両」、つまり「モーターが付加されるクルマ」と、後者の「電気自動車」の区別がメディア側ですら付いていない。海外メーカーは英文リリースの中でこれを都合よく切り替えて使う。タイトルは「初のEVスポーツカーを発表」とElectric Vehicleの文脈で使いながら、本文では「○○年に全ての車両をElectrification Vehicle化する」と混在させる。両者の区別がつかない記者は、「全部がEVになるんだ」と驚いて「日本出遅れ」の記事を書く。
 これまで筆者が書いてきたことを理解すれば、コスト吸収余力のある高級車メーカーが、CAFE規制のクリアのために純内燃機関モデルを廃止することなど当たり前の話だ。純内燃機関では、規制がクリアできない。しかし純内燃機関の代わりに何を使うかというと、それはHVも含む話であって、オールEVなんかでは決してない。
 そういう理解が生まれる背景には、「守旧派のHVと革新派のEV」の構図がこびり付いてしまっていることがある。だから全てをその文脈で読み解こうとする。そしてそれらのメディアの影響を受けた読者もまた、「HVに固執する日本は家電メーカーの二の舞になる」と思い込んでしまっている。
 冷静に考えれば、EVが納車待ちで手に入らないなんてことは、テスラのModel 3でしか起きていないし、知人の情報によればカリフォルニアでの注文から1週間で納車されたという話もある。EVの普及を自動車メーカーが邪魔しているという陰謀論に基づくならば、限られたEVには注文が殺到して納車待ちが起きていないとおかしい。けれどもそんな話は聞いたことがない。納車待ちはむしろジムニーの方がよほど深刻だった。
 そして何よりも欧州が作った非常に厳しいCAFE規制を、トヨタはHVの大量販売でクリアする目処が立っているが、ほとんど全ての欧州メーカーには目算すら立っていない。
 EVは地球環境のためにとても重要な未来技術なのは間違いない。そこは否定しない。しかしそれはまだアーリーアダプターのものであって、普及までの道は長い。だからといって諦めることなく努力を続けていかなければならないけれど、一方で、意図的かそうではないかはともかく、事実を少しずつゆがめて、その結果報道が暴走してほぼデマのように拡散するのはいい加減止めないと信頼されなくなる。
 とりあえず読者諸兄は、21年にEVが内燃機関を叩きのめす未来が本当に来るかどうかをよく見ていただきたい。そしてそういうことを拡散した人たちのことを忘れないことだと思う。
(池田直渡)
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