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2019年08月15日08:05

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明日、韓国との軍事情報共有協定が破棄されたら……どんな問題が起きるのか

日本政府が韓国をホワイト国(輸出優遇国)から除外した件への報復として、韓国が日本との「軍事情報包括保護協定(GSOMIA、読みはジーソミア)」の破棄をチラつかせていた問題で、アメリカが両国の仲介に動いている。
8月9日には、訪韓中のエスパー国防長官が文在寅大統領と会談し、GSOMIAの延長を働きかけたようだ。しかし、その前の鄭景斗・国防部長官との会談では韓国側が難色を示し、延長に否定的な姿勢を見せたとされる。
GSOMIAの自動延長の期限は8月24日だが、破棄のような事態は起こりうるのか、その行方はまだ不透明だ。
さて、仮に韓国の拒否でGSOMIAが破棄された場合、どういった弊害があるのか。
そもそも「GSOMIA」とは何か

コピーライト Japan Maritime Self-Defense Force/Handout via REUTERS 2019年5月、アメリカ、フィリピン、インドの各海軍と南シナ海で共同訓練を行った日本の自衛隊。共同作戦時には、信頼関係と情報共有が重要な意味を持つ。
世界の国々はいずれも、自国の安全保障にとって脅威となる国やテロ組織などに関する軍事的な情報を集めている。
しかし例えば、同じ脅威にさらされている国同士であれば、互いの持つ情報を教え合うことで、それぞれの安全保障を強化することができる。あるいは、共同で脅威に対処できれば、さらに有利になるだろう。
しかし、相手国に渡した情報を外部に漏らされるようなことがあっては困る。そのため、秘密指定の軍事情報についてはしっかりと秘匿し、外部に漏らさない措置をとることを、互いに約束する必要がある。そこで結ばれるのがGSOMIAだ。
GSOMIA自体は、共有する情報のレベルを決めるものではない。その前提としての条件づくりであって、実際にどんなレベルの情報を共有するかは、後で別途決められる。
いずれにしても、情報を提供し合うことは互いの利益になる。今回の問題では、日韓双方のメディアで「GSOMIAによってどちらの国が得をしているのか」といった論点が出ているが、役立つ情報を融通し合っている限り、どちらにとっても得だ。
米軍が提供してくれる以上の情報がほしい

コピーライト North Korea's Korean Central News Agency (KCNA) via REUTERS 米朝非核化交渉が停滞するなか、北朝鮮は弾道ミサイルの発射実験を繰り返して戦力を着々と強化させている。
日韓の安全保障上の共通の脅威は、何と言っても北朝鮮、その先に中国。
GSOMIAを締結して互いの軍事情報を共有することは、対朝あるいは対中戦略上、有益である。さらに言えば、日米韓の3カ国が共同で中朝に対峙するのが最も効果的だ。
その文脈で、日韓の軍事情報共有が進むことは、アメリカにとって非常に大きな利益になる。
いま何より緊急度が高いのは、対北朝鮮の戦略だ。北朝鮮は核ミサイル戦力を現在も保持しており、米朝非核化交渉が停滞するなか、弾道ミサイルの発射実験を繰り返して戦力を着々と強化させている。
では、対北朝鮮を考えたとき、日韓はそれぞれに相手側の持つどのような軍事情報がほしいと考えるだろうか。
日韓はいずれもアメリカと軍事同盟関係にあるため、日米、米韓はそれぞれ情報面でも深く結びついている。大方の軍事情報は、圧倒的なアドバンテージを持つ米軍から提供してもらえる。
したがって、本当にほしいのはそれ以外の情報だ。
韓国がほしい日本側の軍事情報とは?

コピーライト REUTERS/Kim Hong-Ji 韓国は、自衛隊が持つ北朝鮮東海岸方面の電波傍受情報とその分析結果を必要としている。
例えば、日本側が持つ情報としては、北朝鮮東海岸方面の電波傍受情報が挙げられる。
米軍も韓国軍も、北朝鮮の電波情報は日常的に収集・分析しているが、日本でも防衛省情報本部の新潟県小舟渡通信所と鳥取県美保通信所が、北朝鮮の電波情報を追っている。
さらに、海上自衛隊は独自にEP-3電子戦データ収集機を飛ばしており、やはり電波情報を収集している。
弾道ミサイル発射を含む北朝鮮軍の動きが、こうした電波傍受により監視できる。
韓国のほうが距離的に北朝鮮に近いので電波傍受には有利だが、電波情報は単に傍受だけではなく、蓄積した情報資料と照合するなどの分析がきわめて重要だ。自衛隊にはその点、独自の蓄積もそれなりにあり、過去にも北朝鮮のミサイル発射準備徴候を察知したことがある。
韓国にとっては、自ら電波情報を集めているものの、日本から補足となる情報が得られるならそれはそれで有益だ。

コピーライト Shutterstock.com 日本のイージス艦のレーダーによる弾道ミサイルの追尾情報は米韓にとっても有益だ。
また、海上自衛隊の潜水艦や哨戒機は、日本海を日常的に哨戒し、北朝鮮の潜水艦の動きなどの情報を集めている。ただ、北朝鮮の潜水艦は現時点ではいずれも強力なものではなく、韓国にとってさほどの脅威とは言えない。
ほかに有益な情報として、航空自衛隊のレーダーサイトやイージス艦のレーダーによる弾道ミサイルの追尾情報がある。
日本側のレーダーで探知する北朝鮮の弾道ミサイルは日本列島方向に向かうわけだから、有事の場合、韓国は無関係のようにも思える。
しかし、昨今のような平時の発射実験について言えば、北朝鮮が日本海方面に発射した弾道ミサイルの航跡に関する詳細は、情報資料として非常に重要だ。韓国としても、自衛隊の情報がほしいところだろう。
日韓のGSOMIAに基づく平時の情報共有では、この自衛隊のミサイル航跡分析情報こそが、韓国にとって最重要のものと言える。
ちなみに、GSOMIAに関する報道では、日本の持つ情報の有利性として、情報収集(偵察)衛星が例示されている記事を散見する。しかし、その分野では米軍が圧倒的に強力だ。日本の衛星による情報は、それほど重要ではないだろう。
日本がほしい韓国側の軍事情報とは?

コピーライト South Korean Pool/via REUTERS TV 北緯38度線付近の南北軍事境界線沿いにある非武装地帯(DMZ)を視察するトランプ米大統領と韓国の文在寅大統領。6月30日に撮影された動画から。
一方、韓国側が有利なのは、何と言っても休戦ライン(北緯38度線)沿いでの監視。地上設置レーダー、電波傍受施設、航空機や艦艇による偵察・監視などによる情報収集だ。
GSOMIA関連報道ではそれらに加え、「脱北者がもたらす機密情報」などもしばしば共有対象として例示されているが、さすがにそのレベルの機密度の高い情報の取り扱いにはかなり慎重なはずで、情報共有には高いハードルがある。
いずれにせよ、ここまで例示したように、日韓ともに軍事情報の共有には利益がある。もっとも、情報の内容を具体的に見てみると、北朝鮮については、より距離的に近い韓国のほうが、日本より多くの情報を持っていると言える。
日韓の軍事情報共有はまだ日が浅い
日韓両国は2016年にGSOMIAを結んでいるが、その後、どれほど互いに秘密指定の情報を提供し合っているかというと、筆者の知り得るかぎりでは、どうもそれほどでもないようだ。
こうしたセンシティブな情報分野では、それなりに時間をかけて信頼関係を醸成していく必要があるが、日韓についてはスタート間もない段階でこじれてしまったことになる。
実際のところ、仮にいますぐGSOMIAが破棄されたとしても、日韓両国が被る実害はそれほど大きくなさそうだ。とはいえ、将来的なメリットを失うという意味では、決して軽い損失とは言えない。
GSOMIAが破棄されたら本当に困ること

コピーライト Chung Sung-Jun/Pool via REUTERS 日韓の軍事情報協定は、米軍の東アジア作戦で大きな意味を持つ。トランプ大統領はじめ米政権が仲介に動く理由のひとつでもある。
ただし、いま軍事情報の共有がストップすることで、きわめて不都合な生じる分野もある。それは、米韓および日米の共同作戦だ。
そもそも、日韓のGSOMIA締結を橋渡ししたのはアメリカだった。日韓のGSOMIAは単なる二国間の軍事協定ではない。東アジアで、アメリカを中心に日米韓が共同で中朝に対処しようという、大きな枠組みの中の話でもあるのだ。
現在、日本とアメリカは軍事同盟を結んでいる。韓国とアメリカも軍事同盟を結んでいる。したがって、米軍と韓国軍、米軍と自衛隊はいざ有事となれば、速やかに共同で軍事作戦を実行できる(日本と韓国は同盟国ではないので、協力し合うことはあっても、原則的に共同作戦は行わない)。
共同作戦を行う際、米軍は入手し得た軍事情報を最大限に利用する。いちいち「この情報は日本から得たものだから、日米共同作戦にしか使わない」とか「こちらの情報は韓国から得たものだから、米韓共同作戦にしか使わない」といった区別はおそらくしていない。米軍が独自に得た情報に、日本や韓国から得た情報をすべて加えて作戦を立案する。
ところが、日韓に軍事情報協定がないと、公式にはそれができなくなる。原則的には、ある国から供された情報は漏らしてはならないのが、世界的なルールだからだ(「サード・パーティ・ルール」といい、それがなければ、誰も情報を他国に提供などしなくなるだろう)。
だから、日韓でGSOMIAが結ばれていないと米軍は困る。
GSOMIAに基づき、日韓がそれぞれ米軍との共同作戦に必要な秘密指定情報を提供できる体制を作っておけば、米軍は日米間で共有された情報と、韓米間で共有された情報を、垣根なしで共同作戦に使えることになる。それは、米軍の東アジアでの作戦にとって不可欠の環境だ。
そして、それはアメリカだけの利益になるわけではない。日本は米軍と共同で日本を守るし、韓国も米軍と共同で韓国を守っているわけだから、日韓両国の防衛にとっても大きな利益となる。
北朝鮮の弾道ミサイルの脅威に備えて

コピーライト North Korea's Korean Central News Agency (KCNA) via REUTERS 新型とも言われる弾道ミサイルの発射実験視察中に笑顔を見せる北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長
いま最も重要なのは、北朝鮮のミサイル情報だ。北朝鮮が弾道ミサイルを発射した場合、日米韓すべてがその航跡をリアルタイムで追跡し、それぞれのミサイル防衛で迎撃する体制が構築されている。
例えば、北朝鮮がミサイルを日本方向に発射したとすると、発射の瞬間と向かった方角については、米軍の早期警戒衛星が捉える。その後、日米韓のそれぞれのレーダーがミサイルの航跡を探知する。
しかし、日本のレーダーがその航跡をとらえるのは、見通し線(直進するレーダー波が地球の丸みでも届く直線)上にミサイルが上昇した後となる。
有事にはおそらく日米のイージス艦も日本海深くに進出しており、比較的早めにミサイル航跡を探知することが期待されるものの、韓国海軍のイージス艦のほうがより近くに進出している可能性もある。その場合、韓国艦が最初に北朝鮮ミサイルを追跡することになる。そしてその情報は米軍と共有され、日米のミサイル防衛システムにも使われる。
この有事の情報の流れは、厳密に言えば、韓国の秘密指定軍事情報を非公式に自衛隊が利用することを意味する。だからこそ、GSOMIAを結んで、その上で事前に日米韓の情報共有の仕組みを作っておくのが望ましいわけだ。
日韓の緊張の行く先はいまだ不透明だが、この有事のミサイル防衛の仕組みを考えると、軍事情報共有にまで両国間の対立を飛び火させるのは、どう考えても得策とは思えない。
黒井文太郎(くろい・ぶんたろう):福島県いわき市出身。横浜市立大学国際関係課程卒。『FRIDAY』編集者、フォトジャーナリスト、『軍事研究』特約記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て軍事ジャーナリスト。取材・執筆テーマは安全保障、国際紛争、情報戦、イスラム・テロ、中東情勢、北朝鮮情勢、ロシア問題、中南米問題など。NY、モスクワ、カイロを拠点に紛争地取材多数。
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