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2019年09月21日07:28

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農薬への二つの立場

 団塊世代の私はほんの僅かな期間だが、農薬が本格的に使われなかった時代を経験している。私が10歳近くまでは田畑には生き物が溢れていた。オタマジャクシ、ドジョウ、タニシなどがどこでも見ることができた。その後、DDTを頭にかけられ、農薬散布中は田んぼに近づくことが禁止され、それによって生き物がすっかり消えてしまった。子供の私には劇的な大変化だった。

 戦後の農薬の中で、殺虫剤はパラチオンなどの毒性の高い剤が姿を消し、DDT、BHCなどの有機塩素系の農薬も残留性、魚毒性などの点で、低毒性の有機リン剤に置き換わっていく。除虫菊の有効成分から開発された、低薬量で幅広い種類の害虫に有効な合成ピレスロイド系が普及する。その後、新規の殺虫作用を示すネオニコチノイド系、マクロライド系、ジアミド系などが次々に開発され、現在に至っている。
 殺菌剤では、戦後有機水銀剤がいもち病防除薬剤として、米の増産に大きな貢献をする。だが、この水銀が米に残留することがわかり、非水銀系殺菌剤の開発が急がれた。その結果、まず抗生物質が、続いて有機リン系や有機塩素系などの殺菌剤が相次いで開発された。その後、ベンゾイミダゾール系、ジカルボキシイミド系、酸アミド系、エルゴステロール生合成阻害剤やストロビルリン系などが開発されて現在に至っている。
 除草剤では、フェノール系のPCPが開発されたが、各地で魚に対する被害が問題になり、魚毒性の低い水田用除草剤に置換わっていく。続いて、10アールあたりわずか数グラムで高い除草効果を発揮し、人畜に対する安全性も高く、環境への負荷も少ないスルホニルウレア系の化合物が開発され、これらを中心に混合剤が多数開発された。

 さて、日本の食材には残留農薬が多い。例えば、ネオニコチノイド系農薬に対する残留農薬基準をEUと比較すると、あまりにも違う。アメリカでも環境保護庁(EPA)はネオニコチノイド系農薬を基本的に使用禁止にしたが、日本ではまだ緩和する方向にある。さらに驚いたのは、硝酸塩などの食品添加物。これは自然環境や野菜に含まれているものだが、肥料に使用されていて、防腐添加剤としてワインなどに入っている。日本家政学会の「厚生労働省が推奨する1日当たり350g以上の野菜を使った食事の硝酸塩の含有量調査」では、一日350gの日本の野菜を摂取すると、ADI(厚労省が定めているもので、一生摂取しても身体への問題はないという摂取量)に対して、174%に相当する硝酸塩を摂取するという実験結果が出ている。
 ポストハーベストは野菜を採ったあとに使用する添加剤のこと。野菜を長持ちさせる、見た目をよくするために添加剤を使うが、これに関して日本では一切規制がない。
 このように、日本は農薬大国で、中国、韓国についで第3位の農薬使用量を誇る。これはヨーロッパの3倍〜10倍。日本はこれから農作物の輸出量を、現在の2,000億円程度から1兆円にしようとしている。だが、日本の食品を海外に輸出しようと思っても、農薬基準でひっかかる。というのも、日本の食に対する政策は生産性を高めるのが目標であるのに対し、ヨーロッパは「農業は農薬や肥料をまくから環境に良くない」という考えのもとに農業に取り組んでいるという違いがあるからである。
 有機農法に関しても、日本は遅れている。実は世界最低の数字で全体のシェアの0.2%くらいしか有機野菜がなく、中国より低い。有機農法は手間がかかり大変で、普及しないのは農薬を使う方が楽だからである。農協が決めている米の引取り価格にも問題がある。米は農薬の代金を支払っても、まだ、一俵あたり300円得になるお米の検査の仕組みが出来あがっている。これでは農薬使用を控え、農薬概念を変えていくのは難しい。

 このような現状のもとで、「EUに比べて日本の有機農業や無農薬農業の普及が遅いのはなぜか」について、何とも皮肉な解答が以下のものである。「日本の自然環境ではEU諸国に比べて無農薬農業が難しいから」がその理由。難しい理由は気温と降水量。日本は温暖多雨で、雑草、害虫、病原体の活動が盛んで、農薬に頼らざるを得ない。EUの共通農業政策(CAP)の環境への支払いは、1985年の「農業構造の効率改善に関する規則(797/85)」から始まる。このような政策が導入された背景は、1980年代に顕在化した農産物の過剰と環境悪化があった。CAPの価格支持、輸入課徴金、輸出補助金などの保護政策に支えられ、EUでは農業経営の大規模化と集約化が進んだ。それは生産量の増加と食料自給率の上昇をもたらしたが、農産物の過剰に悩むことになった。集約度を減らしたり、休耕して農業生産をやめたりすることはこの解決策の一つ。EU諸国では保護政策と農業技術の進歩により、長期に渡って農産物の過剰生産が大きな問題になっていた。無農薬農業はその方法で、要するに効率の悪い栽培方式に切り替えることによって、農業生産量を積極的に減らそうとしたのである。

 EUの農薬に関する基本的な考え方と具体的な施策はとても原理主義的で頑固一徹である。日本の政策とは大違いで、農業概念そのものが根本的に違っている。農薬に対する二つの立場の前で私たちは右往左往しながら、色んな可能性を探ってみるべきだろう。


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