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2020年11月22日23:23

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拝啓天皇陛下様 前略総理大臣殿

 座・高円寺で燐光群「拝啓天皇陛下様 前略総理大臣殿」を観劇。棟田博の小説の舞台化。主宰の坂手洋二は棟田の遠縁にあたるそうで、劇化するのが長年の夢だったとか。
 私は原作は未読。野村芳太郎監督の映画しか観ていない。主人公の山田正助、通称ヤマショウは、衣食住が保証される軍隊を天国と感じる。筋骨隆々なので、訓練は耐えられる。鈍重なヤマショウは古兵のいじめの対象になるが、娑婆の苦しさに比べれば大したことない。
 同じ隊に配属された原作者の分身である棟本、通称ムネさんならずとも、このキャラクターに驚かされる。私はたとえ飢えたとしても、軍隊なんぞ絶対入りたくない。
 古兵に復讐する機会が訪れるが、少し優しくされて躊躇する。演習を観覧に来た天皇の柔和な顔を見て、天皇の崇拝者になるものあまりに純粋すぎる。
 しかし舞台は映画とは違った始まり方をする。ヤマショウは除隊したムネさんの家を訪ねるが、そこは時空を越えた現代。ここでのムネさんは官僚で、仕事で関わった子どもたちに教育勅語を暗誦させる学校に眉を顰める。しかしその学校の用地買収を巡り、首相夫人が関係していたことから、公文書改ざんに追い込まれる。
 原作と現代が並行して進む。官僚のムネさんは「拝啓天皇陛下様」の愛読者で、上司や同僚を登場人物に置き換える。俳優はその通り現在と過去で二役を演じる。
 過去は敗戦が近づき、現在は心労からうつ病になるムネさんの描写と次第に重苦しくなる。見えてくるのは軍隊と役所の上層部が責任を取らない体質。すなわちこの国そのもの。燐光群はリアルタイムの事件を芝居に取り入れることが多いが、今回は小説と合わせ鏡にすることで面白くなる。
 現実では官僚は自殺。映画では「天皇陛下の最後の赤子」たるヤマショウは、国策のモータリゼーションによって死ぬ。しかし舞台は僅かながら希望を持たせる幕切れを迎える。実際の事件が救いのない状態なので、この結末は嬉しかった。この数作の燐光群の中で、最も楽しめた。
 
 
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