新文芸坐でブライアン・デ・パルマ監督「ドミノ 復讐の咆哮」を観る。私の初デ・パルマ映画は「殺しのドレス」で、殺人犯の意外な正体に驚き、面白い映画だった。しかし数年後、「サイコ」を観て唖然とする。デ・パルマ監督は「ヒッチコックの後継者」と言われていたとことも後で知るが、私は「裏窓」より先に「ボディ・ダブル」を観ているし、ヒッチコック的な演出はデ・パルマで知った。
デ・パルマ監督の新作は何年ぶりか。「パッション」を見逃したので、08年の「リダクテッド」以来か。今回はなぜかデンマーク映画だが、現地人は全員英語だし、実質アメリカ映画のよう。
コペンハーゲンの刑事ニコライ・コスター=ワルドーは、相棒を殺した男を追うが、それがISのテロ計画につながる。前半の不安感はいい。ベテランの相棒はなぜか心ここにあらず。主人公の拳銃にカメラが寄ってくる場面の長回しなど、いかにもデ・パルマ。
しかし主人公に共感できない。相方が死んだのは、主人公が恋人とのセックスに現を抜かして拳銃を忘れたせいだし、それを嘘でごまかす。特に優れた点があるわけでもなく、平凡なヒーローだ。またヨーロッパを移動する割には予算がないのか、描写もあっさり。相棒の不倫など不要ではなかったか。
前半の屋根の上の追いかけは、しっかり雨といにぶら下がるし「めまい」。終盤の闘牛場でのテロ阻止は、バックに楽団がいることもあって「知りすぎていた男」。これもヒッチコックの繰り返しにすぎず、往年の冴えがない。
そして相棒を殺した男は、父をISに殺され、家族をCIAに人質に取られている、ある種被害者でもある。相棒を殺したのも逃げるときのはずみに見えた。この男とテロ犯をあっさり殺して終わるのもすっきりしない。
デ・パルマ監督としては、「リダクテッド」のイラク戦争批判のような意思が感じられず、乗り気でなかったか。90分で終わるのはいいが、物足りない出来。次回作は意欲作を撮ってほしい。
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