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2015年06月25日12:10

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024 アラル海鳥瞰図 1/

アラル海鳥瞰図





時 2009年ごろ

所 カラカルパクスタン共和国、
  首都ヌクス市

人 矼(いしばし)麻子
  馬倒了(マー・タオラ)
  酒井春夏
  木下日向子
  竹下洸
  高良(たから)愛
  加藤友香





オード 夢の鞍

 ただ一枚の布せなかに 兄はアジアの砂こえて
 アムダリヤ涸れ日に灼かれた 塩の湖に着いたの

 そこはかつて千鳥やしぎたち羽根休め
 クレーンくる太腕 日に照り映えた土地
 古いカザフのことばによるとここは
 灌木の茂る土地という意味だったそうだ

 あぶみもなくて轡は革 裸馬だったのね兄さん
 蒙古も月氏も北極星のまぼろしよと嘯ぶいていた

 アラル海よ歴史のペイジは風に飛ぶ
 そら射る旅なら三千年超えたよ
 イルカ沙漠に骨のこすこともある
 いつまたオアシスはよみがえるのだろう


第一場 天窓の麻

こんにちは。だいぶ前から私には時間の感覚がないんです。この屋根裏部屋にひとりで座っていると、天窓から差しこむ淡い光のうつろいがほとんど私にとっての「時間」のすべてです。窓ガラスは古くてくすんでいます。空の様子はもうひとつはっきりしない。窓に手は届かないのでこうやって、長い棒で晴れた日には窓枠を押しあげて、風と、外の音とを感じます。下界はもちろん町です。小さな町ですが、窓を開くといがいとトラックの通る音や、子どもたちの走りまわる声などでにぎやかなものです。今日は暖かいかな、涼しいかな、と思いながらそっと押しあげる瞬間が好きですねえ。動かない雲が垂れこめる冬の空も好き。私は、とくに気がふさぐということがなくて、窓の向こうの景色ならばどんなのでも好きなんです。景色、といったって、時おり屋根のどこかに住んでいる大きなコウノトリが視界を通りすぎてぎょっとするくらいで、ほとんど空ばかり見てるんですけどね。雪が積もると、屋根裏部屋はかなりうす昏くなるのでロウソクをともします。ロウソクのやわらかな光は、私の心にもうひとつの、空想の窓を開きます。そんなとき思うの。私はどうして、この部屋から出ていかないんだろう…? 秋の終わりごろになると毎年決まって、煙突掃除の職人さんたちが屋根の上を渡って仕事をします。何か月か前、すすで真っ黒の顔をした若いお兄さんがひょいと天窓から覗きこんで、「あ、これは失敬。ごきげんよう、お嬢さん」といって、行ってしまいました。何日か経ったあと、静かな午後でしたが、誰かがドアをたたくんです。牛乳屋のお婆さん?――違いました。知らない若い男の人です。あの、どちらのかたですか? かれは、小さな鉢植えを両手で差しだして、「はい、これ。ひとりのあなたにプレゼント。麻の苗。大きく育ったころに、また来るから」。え? あなたは誰?「不良ですよ、ただの不良。ハハハ」。そう笑って、煙突掃除の人は帰っていきました。人差し指のくらいだった麻の苗は、なかなか伸びませんでした。この北の町は、十月もなかばになるとひどく冷えこみます。麻は伸びるのが早くて忍術の修行で跳びこえるなんて話がありますけど、それは夏の話。いまは枯れこそしないけれど、鬱々ひっそりと冬ごもりをしてるようなのでした。
私の家、どうやら、東北切支丹の宗家だったらしいんです。子どものころ古い大きな家の中をひとりで探検していたら不思議なものをみつけました。床の間の大黒柱に仕掛けがあって、裏の方に縦長の穴が開くようになっていて、その中に五寸くらいの観音様が安置されていました。晩餉のときに父に、あれなあに?と訊くと、いきなり大きなてのひらが飛んできました。ご飯もなにもひっくり返って私もひっくり返って、うなぁ見たんかっ、と叫んだ父の声がひどく遠いところから聞こえてくるようでした。びっくりしちゃって痛くもなかったな。嫂(あによめ)がとりなして私を寝床に連れていき、気にせんで今夜はもうお寝みと世話を焼いてくれました。私、最後まで泣かなかった。ただ目が冴えちゃって天井の木目がお化けみたいにみえて眠れなかった。やがてうとうとしたころ気がつくと母が添い寝してくれていて、なぁあさちゃん、クロポトゲさんのことはだれにもいっちゃいかんよ、柱の裏にひっそりと隠れてなさるんだから、しずかに置いといてあげなぁわがねよ、と肩を抱きながら諭してくれました…。そのときから、私、なんていうか、ひとりになったの。父も母もすーっと遠のいて、ひとりなんだなあって思ったかわりに、あのクロポトゲ様の少し笑ったような小さな顔がしっとり心に沁みこんで――それからどれだけ経ったのかな、今も天窓の薄明かりがたよりの毎日です。「隠し念仏」という禁じられた宗派があることは、大きくなってから知りました。親戚のだれにもいったことはありませんが、私、思うんです。あれは、あの観音様は、マリア様だったんじゃないかって。観音様は仮面なんじゃないかって。私がどういう経緯で日本を離れて、この町に来たのかは省きます。でもたぶん、たしかに、あの仮面の下にかくされたマリアの心持ちを、なぞってみたかったんじゃないか…そんな気がしてるんです。
ある午后、またドアが、今度はなにか事務的に冷たい感じでたたかれました。つかつか入ってきたのはふたりの公安警察でした。たぶんてっきり留学ビザの不備のことだろうと観念しましたが、意外にもぜんぜん違うことを警官は話しだしたんです。「マフムード・パールシーを知ってるかね?」え?「イラン人労働者だ、煙突掃除をやっとる」。かれは鉢植えを置いて以来、まだ一度も来てはくれなかったのでしたが…。「捕まったよ」。…え、なぜです?!「これだ。わからんかね、大麻さ。最近、やつらの組織も手管を遣うようになってね。我々の取り締まりがきついもんだからこうやって市井の人に――…」。
今日は窓の外はあかるいです。南の南のずっと遠くには、麻でも棕櫚でもぐんぐん伸びる爛れたような熱い空と地面があるんでしょうね。もし一羽のアジサシになってあの天窓を飛びだせたら、私は沙漠を越えて、ときおり大きなオアシスで休んだりしながら、一路アラビアの森をめざしたい。マフムード・パールシーかあ、そんな名前だったんだ。かれも、心は南の故郷の方を向いていたのかな。飛びたつかどうか、迷っていたのかなあ…?


第二場 旅する羊

どーもーみなさん、1か月のごぶさたでしたー。毎月最終日曜の夕方お贈りしているFM吉井・ブルームーン・ギャロップ。ナビゲーターの馬倒了(マー・タオラ)ですー。今日も2時間どうぞおつきあいくださいー。さてさっそくですがリスナーの方からメールが来ております。児玉町在住のはるかさん。「ブルームーンって、満月がひと月に2回あるときの2回目の名前だって聞きましたが本当ですか?」――えーっと、そうなんですか? そんな科学的な意味合いがあったんでしょうか。ちょっとかっこいいですよねー、ハットトリックとかみたい。真相は調べときますねー。ゆうべは満月でしたね。あったかくなってきたからでしょうか、ちょっともやっておぼろでよかったですねー。僕の故郷の吉林省長春はよく黄砂が降って空がもやるんですねー。懐かしい気がしましたよー。
さてえーっとでは、先月のおさらいから行きましょうかねー。8世紀の三国内戦ではやばやと敗れた高句麗からは、ぞくぞくとボート難民が日本に流れつきました。もともと三国の中でもいちばん早くから国家の体をなしていた文化国ですから、同盟関係はなかったんですけど京都政府はかれらをわりかし優遇して、おもに東方開発、関東東北地方への開墾入植者として位置づけます。小規模にやってるのかと思ったら意外とすげくて、西暦716年、これは高句麗滅亡の18年後ですけど、高麗(こま)の豪族の王子若光(じゃっこう)以下1799人が神奈川の大磯に上陸し、ついで埼玉の飯能に移住して村をつくったと。1799人って、ねえ! まあそれもすごいんですが、そこからさらに北に20キロほど行ったここ吉井町にも開墾の碑が建てられていて、どうやら高麗郷(こまごう)と関係があるんじゃないか。前回のテーマはそういうことでしたね、覚えておいででしょうか。いちおうその碑、あ、多胡(たご)碑(ひ)っていってじつは日本3大古碑なんだそうです、吉井のみなさん知ってましたかー、私は知りませんでしたーごめんなさい。えーとそれ、碑文ですね、いちおう読んどきますね。
「弁官符す。上野(こおづけ)の国、片岡の郡(こおり)、緑野(みどの)の郡、甘良(から)の郡あわせて三郡(ぐん)のうち、三百戸を郡(こおり)となし、羊に給いて多胡の郡となせ」。
このですね、「羊に給いて」ていうのが問題なんだ、これって日本人で羊っていう名前ってあまりにも考えにくいから渡来者なんじゃないか、ていうところで先月は終わりましたよね。さて今日はその続きですよー。え? むつかしい? いやーむつかしくていいんです。人間はむつかしいことをやってきたんです。
さて今日はですね、私の故郷のことを申します。じつはうちの両親、ナホトカの人なんですよ。えーっ? ナホトカってどこ? やっぱそういう反応です? ナホトカっていうのは、えっと朝鮮とロシアの国境くらいにある港です。第二次大戦くらいまでは国境が不確定で、お互いにはみだしあって住んでたんです。それがね、日本が負けて、中共ができる、ソビエトが強くなる、朝鮮がズバッと国境引いてのける。そういう二〇世紀なかばでした。
そうやって国境がはっきりしてきても、まあ、もともと住んでた所だし基本的に生活に支障はなかったんですが、あるときね、ソ連のなかで移住政策っていうのが起きてきて、集団で地方に行って原野を開拓しよう。暮らしやすいように民族ごと動いてコミュニティを作ろう、ていう、それこそ高麗郷さながらの事業がね、あったんですよー知らなかったでしょ。線路際で見てると朝鮮人を満載にした長い長い列車が何日も何日も、シベリアの彼方に消えていったって、これは親父の思い出ですが。ところがね、色んな民族が数十万ていう規模で土地を去っていくなかで、僕の祖父母は考えた。俺たちは移住しても仕方ないよなあ、って考えたんです。なぜか?
なぜかっていうとねー、僕は回族です。中国風にいうとホイチョウ、もしくは回々(ホイホイ)です。馬(マー)っていうのは回族のすげーえらい家系なんですよ? で回族っていうのはふつうにいう民族とはちょっと違ってですねー、つまり、イスラム教徒のことなんです。もとは民族じゃないんです。僕らには言葉もないし、故郷もない。ただアイデンティティだけあるんですねー。え? 生活習慣はありますよそりゃ。よく誤解されてますけど、回鍋肉(ホイコーロー)ね、あれは別に、おいしいですけど、回族の食べものじゃないんだぜ。あの場合のホイ、回転の回ですね、あの字は、ゆでた肉をもっぺん炒めなおすっていう意味で、べつに僕らとは関係ないの。何でしたっけ、ああそうだ、すんませんてきとうで。でね、まとまって暮らしてすらいないわけですよ回族は。ていうのは、うーんなんていうか、日本だったらお寺に檀家っていうのがあって、地元に根づいてるんでしょ? そうですよね? でも回族の祖先ていうのはムスリムのなかでも座禅みたいな、個人で瞑想するみたいな系統なんです。だから移住ってことになると、僕んちだけ移住することになる。そんなん意味ないじゃないですか。いや、今だったら違いますよ、旅行でも海外移住でも、現に僕いま交換留学で中国から来てますが、そうしてこうやってけっこうリベラルなこと、公共の電波にのせたってわりに平気な時代ですけど、親の頃は違いますよ。中国に逃れてからも文革とかあって、よくまあこんな時代を迎えられたものだって母なんかいいます。父は粛正されちゃったんですけどね。
なんかねー。留学でも移住でもいいんですけど、僕なんかねー、どんどん人は動いた方がいいって思うんですよー。行って・見て・帰ってくる。あるいは帰ってこない。動いたことが悲劇だと思ってたら、ずっとなんていうか恨みを晴らすために生きてるみたいな感じになるじゃないですかー。でも、日本語でいうと、ええと、「愛憎」? 好きだけど嫌い、嫌いだけどでも好き…ツンデレ?…ツンデレとは違うか。あーすみません関係なかったです。そのね、故郷って、必ずしも好きじゃないですよ。でも、濃いじゃないですか。良くも悪くも、そこで育っちゃったんですよ、そういう…。あ、いま差し紙が来ました。えー、ああ、「恩讐」だそうです。おおー、この字面、迫力あるなあ! うん、そう、そういう故郷への濃ーい思いっていうのを身のうちにずっとためたまま生きていくのって、なんかいいなあって思います。
でね、僕、この群馬の辺鄙なところに来て、すんません辺鄙なんていって、でも辺鄙ですよね。思ったのは、これ、意外と、沿海州の気候と近いなあって。いやー、ぜんぜん違うんですよ? 違うんだけど、浅間山のスロープがなめらかに見えるのとか、岡がうねうねとずーっと続いてるのとか、それになにより、冬のこの風ですねー。高句麗の人たちがここへ来て住んでも、そんなに違和感ないっていうか。
あ、メールをいただきました。先月の話題についてですねー。えー、伊勢崎市太田町にお住まいの内山さん。詩人だそうです。へえー!
「高麗郷の近くに吉井の多胡碑があることについてですが、私はこれは高麗郷が分裂してさらに小さな村ができた、ということだと考えています」――そうですか…――「高麗郷で奨励されたのはおもに陶磁器の製造でした。牛伏山ていう良質の土の出る土地があって、京都の中央政府は特産品として渡来者に作らせようとしたんです。韓国南部が陶磁器に関しては日本をはるかに凌駕していることは歴史的に有名です。しかし、高麗郷に住んだのは百済の人ではなくて、北の荒くれた騎馬民族だったわけです」――なるほど――「かれらは難民ですから初めはおとなしく与えられた仕事をしたでしょう。しかし、言葉も習慣もどんどん失われていくなかで移住者たちは焦りを覚えたのではないでしょうか。しかも、すぐそばに、蒙古高原を彷彿とさせる浅間の高地が見えるんです。私が思うに高麗郷はきわめて早い時期にいくつかに割れて、そのうちのひとつが『羊』と呼ばれる、遊牧を得意としたリーダーのもと、自立的に牧畜を始めたのではないでしょうか。水を得た魚のように草原で馬を飼い始めた高句麗人たちの精悍な横顔が目に浮かびます。群馬という地名もおそらくはそこから来ているのでしょうし、時代がくだって源氏や平家が東国の馬賊として台頭してくる素地を築いたのも、おそらくはかれら高句麗のおかげだと思えてなりません。騎馬民族は蒙古高原から西へ拡がっていってギリシアを拠点とするヘレニズム文明を圧迫していったとするのが普通の感覚ですが、こんな極東のいなかにもまた、小さなひな形におさまる形で、騎馬文明は根づいているのだと思います」。――はあ…。なんかすごいです。最後に詩がついてますね。
 羊よ
 田に苗を植えるがごとくに
 おまえをこの野に放とう
 火の山のふもと 田畑(でんぱた)なき野に
 高麗(こま)のかみの
 猛る馬の背でみた夢に
 思いは馳せゆくだろう
 火の山のふもと 軽石うかぶ野に
 利根・浅間なる名をこそ
 遺して狩人は北に去った
 羊よ この野に殖えよ 地に充ちよ
 だがいつか羊よ
 夢の馬はおまえをふり落とすか
 それでも 行く末をのぞみて 気高く飢えよ


第三場 黒い照明

ねえ、あのオヤジ、さっきからこっち見てない? 見てるってば、ほら。なんか怖いんですけど。…え、ちょっと、よしなよ、見てるだけじゃん。朝っからそんな攻撃的にならないの。あーあ、遠いよねー東京、2時間近いもんねー。毎日々々、何やってんだろうねうちら。本読めとかいうじゃん。ないわ、ないない、酔うもん。てきめん酔うもん。ていうか立って本なんか読めないよー、落ちつかないじゃん、混んでるし。え、なに、それ。『ゾロアスターの神秘思想』? 久美。あやしい。あんたあやしい。いいから電車の中で出さなくていいから。えー、なに怒ってんの? え? いやー試験勉強とは違うでしょそれは。いやあたしは試験勉強も電車じゃできないけど。だーからー、見かけで判断しないの。弱っちいの、うちは。ねずみの心臓。…でさ、それ、どんな本? いや、いいから出さなくて! 話してくれればいいから、ね? なんだ、まだ読んでないの。そっか。
いやー、興味はあるよ。ていうかさ、思いだした。うちもちょっと今それ、関係ありそうなの。こないだアラル海のこと話したじゃん? ロシアかどっかにあんの。干上がっちゃってさ、もう涸れてなくなりそうなんだってー。塩分も海以上になっちゃってもうだれも漁なんかしてないって。あと乾いた塩が町に吹きこんできて、癌とか気管支炎とかすごいって。こないださー、先生が今の地図と昔の地図、並べて見せてくれたんよ。まっじやばいわ。笑うわっていうか笑えないわ。お猪口と大皿くらい違んだよ? これ、住めるわけないわ、無理無理。でさ、やっぱさ、なんとか元に戻そうっていう人がいるわけよ、奇特な人が。はじめはさー、涸れた原因は「農業用水の汲みすぎ」って思ったんよ。でもよく調べたらー、ほんとは、もう一本川つくっちゃって、そっちへぜんぶ引きこんじゃうから湖には届かないんだっていうのね。つか、バッカじゃないの? それじゃダメなん、うちだって分かるって。いや、でさ、元に戻すってどういうことかっていうと、驚いたんだけど、川を元どおりにつなぎ直して水が来るようにするんだと思うじゃん? 違うんだわ。海の中に防波堤で囲んだ人工的なプールみたいなのつくって、そこで「小アラル海」てのを再生しようっていうことなんだって。もう工事は始まってるって。なんだそれ! でしょ? なんだそれだよー。
いやー、よく分かんないけど、いろんな意味で間違ってるわそれ。んなのつくって、そのそばで暮らしたいと思わないもん。だいたい漁師の人たちはもう撤退して、いないわけじゃん? 誰がその湖、使うのかなあ。でっも…仕方ないのかなあ、寂れても町はあることはあるんだし、飲料水の確保とか、最低限やらなきゃならないこと、あるもんねー。でも、やっぱそれは「再生」ではないわ。違うよねえ? 再生っていうのはさー、もっとなんつーか、木とかも生えてて、水鳥とかもいて、小舟で小ブナとかすくってきておかずにしたりとか――いや小ブナがいるかどうかはしらないけど――ね、そういうことが再生じゃん。したらね、どうやらね、いるみたいなんだわ。え? だから、そういう再生をやろうって人が。うち、アニキが京都で似たようなことやっててさ、うん、こっちが真似したみたいな感じ。そっちになんかアラル海に詳しい人いない?て訊いたんさ。したら紹介してくれてー。なんか妙に親切に資料とか送ってくれてさー。読んだらさー、イスラムの人たちって、すごい人助けするんだよねー。タリバンとかハマスとかも、ふだんは村で子どもに給食つくったりお医者さんみたいに医療やったり、そういうんだっつーじゃん。そこのアラル海でもね、イスラムの人のそういう動きがあるっていうんさー。んでスーフィーとかジャフリーヤとかごちゃごちゃ出てきて資料読んでも見事になにっひとつ分かんないんだけど、でもゾロアスターって名前も、あったあった、確かにあった。――え? ゾロアスターはイスラムじゃない?! そうなの?! うっそー。いや、でも書いてあったって。ほんとだって。いや、だって、じゃ、なに教よ。仏教? いやキレてないって別に。キ・レ・て・な・い。あ、ガンダーラとか近いし、やっぱ仏教だ! 違う? あっそ。
久美さー、よく自分から勉強できるよねー。うち課題になってても、自力でその本にたどりつけないもん。無理無理。なんつーの、うちの触角の守備範囲にないもん。どうやって見っけたの。…フラッと本屋で?! それかー! 道理で見っかんないわけだー。早くいってよ。
だいたいね、うちね、近くしか見えてないんだたぶん。人間関係とか大っ好きじゃん。嫌いな人なんていないし、興味ないものなんてない。食べものだってナスとはんぺん以外はなんでもオッケーなんさー。それなのによ、それなのに、なんだこの閉塞感は。なんも悪いことしてないし、むしろ一生懸命だし、でも、なんか自信だけは自信もって「ない」っていえるし、もうよく分かんないよ、だめだうち。歴史は好きなんよ。でもこないだ「鳴かぬならナントカナントカほととぎす」っていうの、ぜんぶ分かんなかった。唯一、「かわりに鳴こうホトトギス」って――え、違う? それも違う?! まじで。忘れて! あとさ、手先は不器用なんよ。そのくせ刺繍とか好きなんよ。スナフキンとかミーとかのハンカチつくったよほら。あー…、得体がしれないわ、この人、はるかさん。
ドラえもんにさ、黒い光が出る電球って出てくるじゃん。それだわ。うちの半径1メートルくらいが、黒い明かりで照らされてるんだわ。なぜだか分からないけど、そこから踏み出して明るい世界に出ていくのが怖いんだなあ…。
うちからなにかに…なにかからまた次のなにかに…関係っていうのはどんどんつながっていって、それらをたばねる駅みたいなののひとつにうちがなってる。それが世界の摑み方だよね。自分のありかたっていうか。うちさ、どうやってその関係に踏み込んだらいいんだろ。
え? ――え? ――ええ?
「口説かれるのを待つ」。あ…、そうか。えーと…いや、でも、誰が口説くのこんな…え、いっぱいいる?! え?! 誰とか?! ええー、いやーあの人は、違うでしょー、つか名前なんだっけ。そりゃ、たしかにさ、異常に親切で、うちの課題とか、もう、あの人いないとうまくまわんない感じではあるけど…え、それが狙い?! 外堀埋められた?! そっ、そうかな、うーん、そういえば、もう逃げらんない感も濃厚なようなそうでないようなそうなような…。
いや、待ってよ、アラル海だよ? マイナーすぎるよ大1としては。これからその研究なんてするわけないじゃん、ただ今だけの課題だって。そこにそんなにフォロー入れられても…え? 関係ねえよ、いつも圧倒的にフォローする?! いや、まじで?! ていうか久美、知らないのになんでそんなに断言するんさー。え、真実だから?! いや待ってよ。なんでうち、こんなにボケ担当なの。待って待って待ってって。まるであたし本当に…。いや、ん、何でもない。動揺してドキドキしただけ。何でもないってば!







2/→ http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=63544184&id=1943492275
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