映画史の中で、不遇な運命をたどってきた作品は数多くあれど、ウィリアム・フリードキンの『恐怖の報酬』ほど数奇な運命に翻弄された映画は珍しいでしょう。
そのフリードキン版『恐怖の報酬 オリジナル完全版』を、国内盤ブルーレイで見ることが出来ました。
映画製作と公開後の顛末だけで1冊の本が書けそうな作品。
大ざっぱにまとめると、
●1977年 上映時間121分の作品が完成
●全米公開されるも、『スター・ウォーズ』のメガヒットの影に隠れて興行成績で惨敗
●製作・配給元のユニヴァーサルとパラマウントが、フリードキン監督に無断で映画の3/4をカット
●1978年 日本をはじめ海外で公開(大幅にカットされ、再編集された91分版)
●2013年 フリードキン監督自らが映画の権利を取り戻し、4Kスキャン・デジタル修復を施す
●同年 ベネツィア映画祭で完全版(121分)公開 世界各国で再評価が進む
●2018年 日本で完全版公開 初めて121分のオリジナル版がスクリーンで上映される
…その顛末は、ブルーレイに収録されている膨大な特典資料(インタビュー映像、ドキュメンタリー)に非常に詳しいです。
※2枚組BDには、2018年製作のドキュメンタリー映画『フリードキン・アンカット』も特典として丸々収録されています。
最近、クルーゾー版(1953年)を再見したばかりだったのですが、フリードキン版はまったく別の映画でした。油田火災を鎮火するために危険なニトロをトラックで運ぶというプロットは共通。
違いの大きな例としては、
(1)クルーゾー版は晴天続きで乾いた砂漠のような印象。フリードキン版はスコールと土砂降りの雨で舞台もジャングル。
(2)クルーゾー版の4人の主人公の男たちには友情のようなものが産まれるが、フリードキン版にはほぼ皆無。そして4人とも犯罪者。
…この2点が挙げられます。
面白いことに共通点もありました。
2作とも、映画の上映時間の半分を、主人公の男たちの性格描写に割いています(日本で初公開されたフリードキン版では、ここがばっさりカットされていた様です)。それがしっかりと描かれているので、後半のニトロ運搬のサスペンスが生き生きとしてくるのです。
それにしても、2時間の映画を30分もカットするなんて愚行もいいところ。
初公開から40年を経て再評価されたというのは妥当な話です。
両作品とも単純に比較するのはおこがましいほどの傑作。
イブ・モンタンらフランスのスターの魅力が出たクルーゾー版もいいし、監督のエネルギッシュな演出に圧倒されるフリードキン版も聞きしに勝る傑作でした。ともに★★★★です。
今週はキューブリック『シャイニング 北米公開版』4K BDも届く予定で、ホームシアターでの鑑賞が楽しみな日々。
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