是枝裕和監督がフランスで撮った映画『真実』を見て来ました。
説明不要の大女優カトリーヌ・ドヌーブを筆頭に、ジュリエット・ビノシュ、アメリカのイーサン・ホークが共演。パリでロケをし、全編フランス語の作品です。
【物語】
パリに暮らす世界的女優のファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)の自伝出版を祝って、ニューヨークに住んでいる娘リュミール(ジュリエット・ビノシュ)とその家族がやってくる。リュミールは脚本家として成功し、夫のハンク(イーサン・ホーク)はテレビ俳優だった。小さな娘も一緒だった。
リュミールは、母の自伝本を読み、それが事実と大きくかけ離れていること、中でもファビエンヌの姉妹であり、ライバル女優だったサラのことが全く書かれていないことを母に詰め寄るが、ファビエンヌは相手にしない。親子の間には大きな溝があった。
…是枝監督の代表作『誰も知らない』、前作『万引き家族』のような痛みを伴うシニカルなユーモアがなく、全編通してゆったりと過ぎる時間や、温かみのあるユーモアが本作の特徴です。この感覚は同監督の『海よりも深く』や、小津安二郎の作品群に近いものです。
地で行くような伝説的大女優をカトリーヌ・ドヌーブが演じています。これは推測ですが、脚本の段階からドヌーブを意識して書かれたのでしょう。劇中の役と本人とがオーバーラップします。
撮影中のSF映画や若手女優との共演による苦悩、セリフ覚えに苦労する姿、最後に確信の演技を見せる姿が、映画界で50年近く主役を演じているドヌーブと重なり、静かながら熱いものを感じます。
最近、日本との繋がりが多く、変な役も多かったジュリエット・ビノシュは、大女優ドヌーブの娘役として今回は適任でした。アメリカから参加のイーサン・ホークは、2人のフランス人女優をしっかり立てています。
フランス映画界の内幕を描く作品でもあるので、映画好きには面白いセリフも多数登場します。
ファビエンヌが「ヒッチコックの作品に出る予定があった」とか、ブリジット・バルドーの名前が出ると嫌な顔をするとか。小さなネタを探す楽しみもありました。
しかし本作の骨として登場するのは、ファビエンヌの姉妹であり、女優としてライバルだったサラの存在です。劇中では不慮の死を遂げたことになっており、物語の核となるのですが、ドヌーブの実の姉妹であり若くして亡くなったフランソワーズ・ドルレアックとどうしても重なります。
(ただし劇中の2人は共演したことがない設定ですが、実際には『ロシュフォールの恋人たち』で共演しています)
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が故シャロン・テイトへの鎮魂歌であったように、本作はフランソワーズ・ドルレアックへ捧げられたように見えます。ドヌーブが出演を承諾したのは、その点が描かれていたのではないかとも思えます。
★★★★。良い映画でした。
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