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2021年03月11日05:34

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この“爆弾”は笑い事では済まされない。でも見事な娯楽映画でもある。ジェイ・ローチ監督「スキャンダル」(2019)。

原題が「Bombshell(爆弾)」なのにスキャンダルつまり醜聞という平凡な題名で公開したのは、とてももったいないと僕は思います。放送局内でのセクシャル・ハラスメントを描いた爆弾であり、正面からセクハラを取り上げた実に真面目な映画なのですが、シャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、そしてマーゴット・ロビーという、見事な“爆弾美女”たちがアイ・キャンデーとして大活躍するのです。

物語は、トランプ大統領お気に入りのテレビ局、FOXテレビで実際にあった事件を描きます。アンカーウーマンとして活躍していたグレッチェン(ニコール・キッドマン)が降ろされ、代わりにミーガン(シャーリーズ・セロン)が起用される。さらにグレッチェンのもとで働いていた若手ケイラ(マーゴット・ロビー)も担当重役(ジョン・リスゴー)に呼び出され…、という展開。

御老体の担当重役がジョン・リスゴーだということに、エンド・クレジットを見るまで気がつきませんでした。そんなジジイを詳しく見ている暇がないほど、目に鮮やかな女優たちが次から次へと現れます。って、こういう発想がセクハラを生み出しているわけですね。御老体が繰り返す“テレビは視覚的メディアだ”という論理に、僕たちはうまうまと乗せられている。

ジェイ・ローチという監督さんは、僕にとっていつまでも「オースティン・パワーズ」のようなお笑い映画監督なのですが、最近は「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」とか「オール・ザ・ウェイ JFKを継いだ男」とか、お笑いを封印した作品が多いですね。すでに「50回目のファースト・キス」(2004)でその才能は証明済みでしたけど。

今回も手際が見事です。前半でアイ・キャンデーに目のない映画ファン(僕のことです。反省してます)を手玉に取り、後半は上層部の御老体を徹底的に追い詰める。ルパート・マードックというメディアの総帥をマルコム・マクダウェルが演じてるんですよ。1970年代には、出演作で次々と裸になるお兄さんでした。一時期のブルース・ウィリス以上という雰囲気。

そのマードックが、局内のすべての電話を盗聴し、2人の息子を使って情報管理を徹底しているという後半は、それこそ“キューバ危機”のポリティカル・サスペンス並みの迫力でした。さらに、勝訴した女性たちが手にする賠償金よりも、引退させられた御老体の退職金のほうが遥かに多いという事実。それでいて女性たちには“守秘義務”が課せられる。

そんなこと“民主主義”と呼べるか?ということです。そうです、いまだかつて民主主義はこの世の中に実現していないのだという事実を、この映画は明確に描いているのです。それでもJFKの時代には、国を挙げて民主主義を目指そうという機運があった。あるいはその前の赤狩りの時代にはエド・マローがいた。今はその夢が、トランプという大統領のせいで完全に打ち砕かれたのです。

それにしても、びっくりするような美人のことを“Bombshell(爆弾)”と呼ぶとは、なんというネーミングのうまさでしょう。実際にビキニ諸島で実験に使われた水爆に、リタ・ヘイワースのイラストが描かれていたことから定着したそうですね。←「ライトスタッフ」では“グラマラス・グレニス”でした。

3人の主演女優だけでなくケイト・マッキノン、リブ・ヒューソンなどなど、名花が脇を彩っています。とくにマーゴット・ロビーが相談を持ちかけたときマッキノンが、“私を巻き込まないで。私があんたの友だちだということは、みんなが知っているから”と距離を取るあたり、痛烈な描写でした。そんな人々の中で、声を上げたグレッチェンの用意周到さがすばらしい。

マーゴット・ロビー当人ですら、“脚本を読むまでセクハラって、実際に接触されることだと考えていた”そうです。リスゴーがロビーに要求する“視覚的メディアとしての意図確認”場面は、複数のカメラで1回きりの撮影だったなどというトリビアを喜んでいてはいけないわけです。かつては当然だった女性の生理休暇というものを、女性の側から返上していった我が国は、やはり男女同権とは程遠いと言わねばならない(男女差は尊重するべきです←支配層は権利放棄のときだけ喜んで意見を受け入れる)。今後はそのような支配階級に利用されないよう細心の注意をはらいましょうね。
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