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2021年03月10日05:26

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“映画商売”というものは、人物描写をうすっぺらにすることではないと僕は信じます。だから苦言を呈したい。井樫彩監督「NO CALL NO LIFE」(2021)。

2018年末に「真っ赤な星」で僕を落涙させた若手注目監督、井樫彩監督の新作です。喜び勇んでテアトル新宿へ出かけました。←と言いつつ、月曜日には雨が降ってたから一日ずらしたという軟弱さですが(汗)。

物語は、高校卒業を控えた校内進路相談で、希望職種欄に“NASA”と書いた佐倉有海(さくら・うみ、優希美青)が、同じ学校で問題児とされている春川真洋(はるかわ・まひろ、井上祐貴)と知り合い、しだいに仲良くなるという展開です。春川は希望職種欄に“FBI”と書き、先生からひんしゅくを買っている。

この映画はホリプロの60周年記念映画だそうです。そんな“大作”に井樫監督が抜擢されたことはめでたい。よく目をつけてくれたと思う。45分の「溶ける。」から5年、カンヌ映画祭からも注目された今年で25歳の若手監督です。今後大きく羽ばたくと信じたい。

しかし、だからこそ僕は苦言を呈したいわけです。有海と春川の人物関係や装置(春川の住むマンションなど)は見ごたえがあるし、過去からの留守番電話や、過去の自分への電話などにも僕はつきあえました。なのに先生のあの薄っぺらな反応はいかがなものか。“お前も父親がいなかったな”云々は、僕にとっては問題発言でしかないのです。

僕はすでに、「おじさん、ありがとう」というドキュメンタリーを見ています。あのおじさんなら、この先生に対して“ひとこと挨拶があってもいいだろう”と迫ったはず。たしかに先生の中には、こういう薄っぺらな反応をする人もいることでしょう。しかし、それを薄っぺらなまま画面に出してどうする? 日本の総理大臣は情けないと言い切っても、情けない総理大臣を選んだ社会に爪を立てることにすらならない。こんな映画のセリフを耳にして、お説ごもっともと称賛するであろうマスゴミに対する“受け”なんか狙わないでほしいのです。

そもそも巻頭の画質が僕には不満でした。「真っ赤な星」では僕を陶酔させる映像を展開してくれた監督の新作とは思えない。最近の作品ならもっと画質がいいはずでしょ。なのにNTSCの画像をアップグレードしたかのような粗い画面はいただけない。もし、わざと荒れさせたというつもりなら、それは“要らざること”でしかありません。そんな暇があるなら、留守番電話の世界をもっと噛み砕いて、さらに大きく拡大しろ、と思う。

あるいはブルーシートのかかった家々が数多く映し出されるあの映像を増やして、台風による被害に対してもっと切り込んでもいいと思う。それが製作者の意図にそぐわないのなら、返す刀で安っぽい論理も拒否するべきだったでしょう。その折り合いをどうつけるかが“映画商売”の基本なのだと僕は考えます。簡単に商売路線に乗り込んだら、井樫監督らしさが失われるからこそ苦言を呈しているわけです。

僕のように事情を知らない人間から、こんなおせっかいを言われる筋合いはないというのも当然ですが、事情を知らない観客が映画館へ行くのが映画商売なのです。そんな観客を置き去りにして映画が成り立つはずがない、ということを肝に銘じていただきたい。いつも言うように、“わ、わしの望みは、もうちいと大きい”というだけのことですけどね。←黒澤明の「七人の侍」における山形勲の登場場面を見てください。ホリプロという御家中に取り立てられたのはめでたいけど、それで望みがかなったわけではないのですから。

ということで、次回作に期待します。F1の鈴木亜久里が1994年の英田で“次、頑張ってください”というフジテレビのインタビューに対し、“次、ないんだよね”と応えてF1レースを終えたのと同じには、なってほしくないのです。←これはないと信じてますけどね。
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