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2021年03月04日05:04

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無知だった僕に事実という光を当ててくれる、正統派ドキュメンタリーでした。小原浩靖監督「日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人」(2020)。

久しぶりに、オーソドックスなドキュメンタリーを見た気がします。僕は、太平洋戦争以前に、フィリピンへ移住していた日本人が3万人もいたことを知りませんでした。太平洋戦争と同時くらいに、大東亜共栄圏という概念で帝国主義的侵略を始めたのだと理解していたのです。高校の授業では、“日本は、オランダの植民地だったインドネシアでは独立を助けた形だが、フィリピンではアメリカの支援で独立を約束されていたところを支配下に置いた”と習っていたもので。

太平洋戦争前は民間人として開拓などに携わっていた日本人ですが、日本軍の侵略とともに軍属とされ、ゲリラなどから標的とされたようです。すでにフィリピン女性と結婚していた日本人も多かったのに、日本人の父親は殺害されたり、軍と行動を共にしたりで置き去りにされ、日本人だと名乗れないまま隠れて暮らしたと言います。

そして中国残留孤児が国交回復から注目を浴び、国の支援が行われたのに対し、フィリピンの日系残留孤児に対しては、なかなか問題視されませんでした。そのあたりの事実を、元NHKアナウンサーで、“NHK女性アナウンサー初の理事待遇のエグゼクティブアナウンサー”だった加賀美幸子の落ち着いたナレーションでつづります。そのオーソドックスなスタイルが心地よい。いやそんな表面的な言い方ではダメですが、説得力があります。

なにしろ日本は大東亜共栄圏という国策で海外へと侵略し、それに乗せられて移住したわけです。当然、終戦となると国として全員を救出するべきなのに、軍人は引き上げさせるけど民間人には“現地でそのまま暮らすべし”と無責任な施策をとったわけです。軍隊は国民を守るものと信じていた人々は、先に撤退した軍が橋を落としたり町を焼き払って追撃を食い止めたため、脱出すら困難でした。

かくてフィリピンでは、国籍がないまま隠れて生活して生き延びた人々が数多くいたようです。現在(2019年時点)でも、1000名を超す日系残留孤児がいるのですが、日本政府との面談などが行われるのは年間せいぜい20人程度だという。すでに80歳を超えている人々に対して、“あと50年かかる”という実態はいかがなものか、とこの映画は訴えます。

それどころか中国残留孤児に対する大阪地方裁判所の判決では、“戦時下の状況では棄民もやむを得なかった”としている。では軍隊は、誰のために海外へ派遣されたのか?ということです。ここで僕が基本的に考えている“軍隊の存在は一部国民のため”という事実が明らかにされるのです。

という“理屈”の部分はもちろんですが、現実には生身の人間が存在しています。国家の事情により生活そのものをめちゃくちゃにされた人間がいる。その救済に対して、現在の日本は手をこまねいています。なぜなら“目先の利益が皆無”だから。本来は、国策に従ったのだから無条件で救済されるべきところを、すべて“個人が解決せよ”と投げ出されています。そんな国家に、誰が忠誠を誓えるのか。

そんな根本的な問題と、生々しい生活実態が痛烈なドキュメンタリーでした。問題点にストレートに切り込んで入るけれど、小泉内閣の中国残留孤児問題解決を受けた第一次安倍内閣が、フィリピン残留孤児問題を引き受けながら無策だった事実に対して、具体的な非難は行いません。“安倍残留内閣”である現政権への配慮なのでしょう。それがもどかしいけれど、反感を買いたくない気持ちもわかる。

ということで、ストレートに問題提起するオーソドックスな手法でも、僕のように意識の低い人間には有効でした。国が招いた不幸せな生活を余儀なくされている方々が、一日も早く救済されることを祈ります。
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