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2021年02月12日04:00

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自分の人生をこんなふうに振り返るって、とてもカッコいいな。アニエス・ヴァルダ監督「アニエスによるヴァルダ」(2019)。

僕は以前から、死について考えることは無意味だと述べてきました。しかし人生も終盤に差し掛かり、自分の人生を振り返るという手法もありだな、とは感じています。それは生きた証なので。誰に対する証かと言うと、自分自身に対してです。だから僕は、カーク・ダグラスの103歳を目標に生き続けますが、このヴァルダのように自分の人生を回顧できたらカッコいいと思う。

当然僕は同時に、カッコいいってことはなんてカッコ悪いんだろうと理解しています。実は自分の人生を、カッコいいかカッコ悪いかと考えることがナンセンスなのです。しかしながらこの「アニエスによるヴァルダ」は、なかなかカッコいい映画でした。素敵な美術品に出遭えた、というカッコよさですね。そう、こういうカッコよさに出遭いたいから映画を見続けてきた、とも言えるわけです。

ヴァルダは語ります。移動撮影が好きだと。僕にとっては「世界のすべての記憶」におけるアラン・レネの映像が先にあるのですが、その前にヴァルダは「ラ・ポワント・クールト」で様々な移動撮影を見せています。そんな方法だけを論ずる者は退廃するわけですが、とりあえずその事実は確認しておきたい。

この「アニエスによるヴァルダ」でヴァルダは、とりわけ右から左への移動撮影が好きだと語ります。その理由は、文字を読むのと逆の動きだから。そして「アニエスによるヴァルダ」では、その手法が延々と繰り返されます。しかし監督デビュー作「ラ・ポワント・クールト」では、左から右への移動もあれば前進も後退もあります。だから、方法だけを論じる者は退廃するんですよ(笑)。

ヴァルダはまた「5時から7時までのクレオ」は、45分と45分の二部構成で真ん中に歌が入ると語ります。そうか「フロム・ダスク・ティル・ドーン」は、この手法を真似ていたのか。ハーフタイム・ショーがサルマ・ハエックのレスリングなのか、コリンヌ・マルシャンがミシェル・ルグランの演奏で歌うかの違いだけですな。こんな“こじつけ”も、退廃の妙味。

なにはともあれ、コリンヌ・マルシャンの“サン・トワ”がまた見られて(それも僕が見た記憶よりずっときれいな画面で)とてもうれしかった。あの映画のタイトルにおけるタロット・カードは、やはりここまで鮮明じゃないとダメです。僕は封切りではなく戎橋劇場(大阪では有名な50円劇場です)で見たせいかもしれないけどね。

同時に「アグネスの浜辺」における鏡の多用も思い出しました。映画は音と映像の総合芸術ですから、そういう方向をヴァルダは思い出させてくれます。だって「幸福」を梅田グランドの封切りで見たときの驚きは半端なかったですよ。フェイドアウトを色付けする感覚は実に楽しかった。手法が楽しいのではなく、楽しい手法だからうれしいのです。

そんなヴァルダは、「冬の旅」とか「落穂拾い」という、冷徹な感覚も併せ持っていました。「冬の旅」のヒロインを演じたサンドリーヌ・ボネールが画面に登場して、きつい撮影だったと語る姿は印象的です。だって現実は映画以上に冷酷だもの。そして不幸な他人より自分はマシだという比較なんか、サイテーの発想なのです。

90歳になったヴァルダは、しかしユーモアを忘れません。僕にはそのユーモアが、ジャック・ドミーの映画にあるセンチメンタリズムに通じると思えます。涙を安易に流すことを拒否しようとしてきた僕ですが、涙に意味を見なければ泣いてもいいと思えるようになりました。生理現象として効果的でもあるし。しかし、泣けるからいい映画だというタワケたことは言わないように。いい映画だから泣けても、その逆は真ではないのです。

そんな気持ちを色々掻き立ててくれる映画でした。ヴァルダは雄弁に語ります。でも饒舌ではない。いびつなジャガイモをハート型だとアップに撮る。その「落穂拾い」のユーモアを、最後まで忘れませんでした。「幸福」の美しくも残酷なラストシーン、「5時から7時までのクレオ」で雲散霧消する死への恐怖、しかし「冬の旅」の痛烈なラストシーン、ヴァルダの生涯における全作品をコンプリートしたいと思います。そしたら、僕も少しはカッコよくなれる気がして(笑)。

なおヴァルダには「Agnès de ci de là Varda」という5回もののTVシリーズが2011年にあり、「Varda par Agnès」という2時間もの2回のテレビ番組もあるらしい。今回僕が見た日本公開版は119分しかありませんが、公式ページには115分とありますから、それよりは長いようです。というように、方法だけを論じていたら退廃しますから注意しましょう。

いちばん印象的だった場面は、ヴァルダがサンペのコミックさながらにプラカードを掲げてデモ隊の横を歩くシーンでした。やってみたいけど、デモ隊と警官隊の両方から袋叩きになりそうで…。写真3がサンペのイラスト例です。
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