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2021年02月08日05:10

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やはり国家規模の犯罪(=戦争)に対して、倫理観は無力だということです。深作欣二監督「軍旗はためく下に」(1972)。

この映画の公開は1972年3月12日だそうで、当時は深作欣二の映画なら見ていたはずの僕なのに、今の今までパスしていました。その理由は、制作会社が新星映画社だったから。1970年に深作が「君が若者なら」という作品を作っている映画会社だということで、パスを決め込んでいた訳です。しかし中島徹さんの“最近テレビで初めて見たけど、なかなか良かったよ”という一言で、契約中の有料テレビで放送したこともあり録画しました。

原作については題名以外知りません。物語は、終戦から四半世紀たった昭和46年、富樫軍曹(丹波哲郎)の妻サキ江(左幸子)が、軍人恩給の支給窓口で拒否されるところから始まります。サキ江は“恩給が欲しくてお願いしてるんじゃない。死亡通知のハガキに、戦死ではなく死亡としか書いていない、その実際を知りたい”と言います。

窓口の人間もなんとか手助けをということでしょう、個人情報保護法下の今では考えられないけど、関係した兵士の住所を4件教えてくれます。そしてサキ江は、その4人を訪ね歩く。すると彼らの証言を綴り合せると、富樫軍曹がなぜ軍法会議で死刑に処せられたか(それも8月15日以後に)という事実が浮かび上がるのでした。

僕は、新星映画だけでなく、平板に“戦争被害者である庶民は虐げられている”としか描かない通り一遍の映画作りが嫌いなので、この映画をパスしてきたわけです。しかし深作欣二監督は、“監督は自分の金を映画に一銭も出してはいけない”と考え、“どうしても撮りたい企画があった場合は、東映の外で出資してくれるプロダクションを探すという姿勢だった”とウィキペディアにあります。

そういう考え方もあるだろうけど、やはり「君が若者なら」は僕向けの映画ではなかったのです。だから「軍旗はためく下で」はパスしてきた。

しかし全編を見てみると、そんな戦争という状況下でも、なんとか“スジを通す”ということにこだわった人々がいたわけです。その姿を無視してはいけないと、深作は考えたのだと僕は思う。それは、処刑が決まった富樫軍曹が“末期の食事に米を食わせろ”と迫る場面でした。担当の憲兵越智は、部隊に残る僅かな米粒をかき集めて彼らに食わせます。

深作監督は、この場面を撮りたかったからこの映画を作りたかったのだと感じました。深作監督の同僚である中島貞夫監督は、“どんな戦死であれ、すべて犬死だ”と語っています。僕もそうだと思う。しかし死に行く人間は誰一人として犬死を望んではいない。だから“米を食わなければ死ねん”という富樫軍曹の言葉が意味を持つのです。

いや、その意味なんか、国家的な犯罪を遂行した連中、そして遂行させた責任者たちには何の意味もありません。この映画に描かれるように、直接判断を下した少佐でさえ、軍規に則って命令しただけと、戦後その責任を追求されることなく要職につき豊かな生活を得ています。

そういえば「ゆきゆきて、神軍」というドキュメンタリーでは、同様の事件の当事者たちにその責任を問う奥崎謙三が描かれていました。あれはあれで強烈だったけれど、そして作品として評価されるのも当然だけれど、奥崎謙三の怒りの向け方そのものは、僕は“間違っている”と思う。もっとも、あのドキュメンタリーのポイントは、正しいか正しくないかではないのですが。

それにしても、真面目に“生きる”ことを考えていると、往々にしてバカを見るわけです。例えば戦時中に特高に睨まれ、戦後は赤狩りの標的とされた国分一太郎という教師がいます。「想画と綴方」というドキュメンタリーで知った学校の先生ですが、彼は最初“特高に責められないように”と報告書を書いていました。しかし、それが間違いだったと著書で反省しています。

つまり特高などの批判に対し、自分がやってきたことに何ら誤ちはないと主張するべきだったと反省している。この姿勢は尊いと思う。しかし同時に、そのような個人の生き様は、結局彼が直接接する一部の人間にしか伝わらない、という問題があります。しかし、たとえそうであっても、我々は自分の接する人間に自分自身の本心を打ち明けておきたいと願うし、そうするしかないのです。

てなわけで僕も、僕の口が塞がれるまでは自分の考えを主張し続けるつもりです。マジでしょーもないハナシかもしれませんが、まぁ後数年はお付き合いくださいね。よろしくおねがいします。

写真3は、左幸子と三谷昇。三谷昇って、「どですかでん」で“これは〆鯖じゃないか。〆鯖は火を通さずに喰うもんだ”と言って、食あたりで死んだ人という記憶しかありませんでした。今回の役どころは、それを凌いでいます。
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