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2020年09月26日01:59

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この作品を“冷静に評価する”なんて、僕にはできない。ただ、あの事件に心を動かされた人は、全員映画館へと足を運んでほしいと思うだけ。石立太一監督「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」(2020)。

2019年7月18日に起こった、京都アニメーション放火殺人事件は衝撃でした。あまりにも理不尽であり、あまりにも凄惨な事件でした。ほぼ1年前、僕はテレビ放送された「リズと青い鳥」を再見しました。落ち着いたタッチで、女子高校生たちの胸の内を描く、優れた作品だと再確認したわけです。でも今回は、事件のことを抜きにして考えられない自分に戸惑いました。

テレビの「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」は、不思議なファンタジーとして記憶しています。その同じキャラクターたちの物語を映画館で見ているのに、あの事件で衝撃を受けた自分の心の動揺を、いちいち思いだしてしまうわけです。そんなことで冷静に“映画を評価する”ことはできません。いや、このアニメーション映画を、作品として評価する必要なんか無い、とさえ思いました。

そう、よく考えてみたら、映画なんて“冷静に評価する”必要なんかありません。胸躍り、楽しんだら、あるいは感動して涙したら、それ以上のことを求める必要すらない。そもそも僕は、常に映画から具体的に受けた感覚だけを語ろうとしてきたわけです。だけど、今回ほど現実に起こった出来事と作品とが“せめぎ合う”映画は初めてでした。

たとえば僕の先輩であり親友だった西村五郎さんが交通事故で亡くなった直後に、「エネミー・オブ・アメリカ」(1998)を見て交通事故で死亡する場面に目をそむけた、その時の気持ちを思い出しました。そして今回は2時間20分の上映時間のほぼずっと、京都アニメーション事件を思い浮かべながら見ている自分を意識し続けたわけです。

実は、始まって3分ほどで、右後ろの席から女性のすすり泣きが聞こえました。見終わって退場する若い男性二人連れが、“激泣きだったな”と語り合っていました。実際僕も、鼻水をだらだら垂らすほど泣いてしまった。マスクを着用していたから、ハンカチを出さなくてもよかったのが、不幸中の幸いです。←“不幸”なのか?とも思う。

毎度言うように、泣いたことと映画が良かったかどうかは関係ありません。ただ、自分の琴線に触れたことだけは間違いない事実です。問題は、今回の涙を、僕は冷静に分析できない、ということ。それでいいのだぁと赤塚不二夫のように居直ればいいのですが、それができなくて悔しいということ。

戦闘兵器として作り上げられたヴァイオレットが、手紙の代筆を仕事としたことから、語り手の気持ちを正しく文字に表すことを学んでいく、そんな物語なのに僕は、正しく気持ちを伝えられないどころか、それをしないで直接気持ちをぶつけるだけでいいとしているわけです。僕の、この胸の内の矛盾が、この作品の中のドラマの葛藤と絡みついて切り離すことができません。

しかし、またこの作品では、悲惨だった大戦を振り返った老人が、“わしたちが悪かったのかもしれん。戦いに勝てば世の中が良くなると信じていた”と反省するわけです。あるいは花火のシーンは、「響け!ユーフォニアム」以上に豪華絢爛で、映画史に名高いヒッチコックの「泥棒成金」と並べても遜色のない“名場面”だと思います。数年前に体験した、大曲の花火大会の壮大で圧倒的な花火群をまざまざと思い出しました。

この「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」は、初めてこのシリーズを見る人に対しても、きちんと全貌が見えるような作り方をしています。ドールと呼ばれる代筆が仕事の女性たち、その中にあって“人の気持ち”が分からなかった戦闘マシーンのヴァイオレットが、ドールの中で一、二を争う腕前になっていく訳です。そこに代筆を依頼する顧客たちの話が加わり、ヴァイオレットが理解できないでいる“愛”という言葉に“近づく”という展開です。

架空の大陸で行われた大戦が、そこに住む人々に与えた影響、その傷跡、そしてどう回復するか。そんなドラマが、あの痛ましい事件と絡まって、エンド・ロールに名前がたくさん現れていく、そのひとつたりとも見逃せないという気持ちで見終わってしまいました。

冷静でいられなかった自分が恥ずかしく、同時に人並みに涙した自分が誇らしくもある。そんな不思議な感覚を、もしかしたら普通の人はいつもこの感覚で映画と向き合っているのではないか、とさえ考えてしまうほど没入してしまいました。

冒頭に登場する少女デイジーのドラマが、途中ずっと気になり続けていました。ちょうど「2001年宇宙の旅」でコンピューターのハルが、メモリーカードを一つ一つ外されていって、コンピューターを作った教授から最初に教えられた“デイジー”という歌のような、あの不思議な感覚を思い出したわけです。

それと、映画館がスコープサイズのスクリーンだったので助かりました。ビスタサイズのスクリーンだったら上下に空きができて不愉快だったと思う。だからこのサイズのままテレビ放送されたら、今度は上下に黒ができるから嫌だな。かといってディズニーの「バグズ・ライフ」のように、16:9に手直しして放送するのかな。そんな余計な心配までしてしまうのでした。
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