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2020年09月18日06:47

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J・R・R・トールキンのことは何も知らないし知ろうと思わないけど、彼を描いたこの映画はなかなかです。ドメ・カルコスキ監督「トールキン 旅のはじまり」(2019)。

僕は「指輪物語」を読んだことがないし、ピーター・ジャクソンの三部作は見ましたが、その作者の人生にも無関心でした。とはいえ、こういう作品を契約中の有料BSで放送したら、とりあえず録画します。で、最近DVDレンタルも、スカパー5というパック視聴も止めたので、録画してあったこの作品でも見るべえかと見始めました。

物語は、第一次大戦に従軍しているトールキン大尉(ニコラス・ホールト)が、最前線で体調を崩しながらも親友のジェフリー・スミスを探しているところから始まります。部下の勧めで休息していて、回想する、というスタイル。フラッシュバックは、やはり映画のリズムを止めてしまう。それが不満でしたが、見るのを止めるほどひどくはない。

幼いトールキンと弟は父親を亡くし、教会の世話でなんとか学校へ通う暮らしをしていますが、母親が亡くなると神父(コーム・ミーニー)の世話で養子に出されます。おかげで名門校に通え、同じ家に引き取られているイディス・ブラット(リリー・コリンズ)とも知りあえる、という展開。

トールキンということで表記は定着していますが、映画の中での発音からすると、“トルキーン”の方が正確な気がします。でも、それが問題なのではありません。トールキンが名門校に通い、そこで3人の親友と出会うことが大事だし、彼が古英語に通じていて、さらに独自の言語を組み立てているあたりが面白い。

後半で古英語の権威ライト教授(デレク・ジャコビ)に認められて語りあうのですが、トールキンは自分の作った言語を“フィンランド語から大部分盗んだ”と言います。すると教授は、“言語を盗むことはできない。影響を受けただけだ”と諭すのです。これが僕にはツボでした。僕は言語だけでなく、理論などもそうではないかと思っています。

つまり我々は、他者からさまざまなことを学び、それを自分のものとしていくわけです。それをパクりだと非難される場合もあるでしょうが、大半は“影響を受けて”いるのです。マルクスは資本というものを中心に経済を説いたようですが(何も著作を読んでいないので伝聞です)、それらも基本的な発想をギリシャ哲学が得て、ショーペンハウエルやヘーゲルの哲学を経て自分のものにしています。

だから、他人の言葉を引用するだけで事を終わらせないでいるなら、パクりと非難するのは“間違い”である場合が多い、と僕は思う。つまり、こうして人は学び進歩するのだという事実を、実に明快に呈示してくれたわけです。それと前後して、恋人イディスとトールキンの関係が、なかなかいい気分で描かれる。その2点で僕はこの映画を評価します。

問題は、第一次世界大戦が背景だということ。直近に「1917」があり、さらに「ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールド」まで見てしまった後なので、あの凄惨な戦場は見たくないわけです。そしてまたしても「西部戦線異状なし」の戦闘シーンへのオマージュが感じられるわけですが、そのあたりを抜きにして物語れなかったのかと思う。

ドメ・カルコスキ監督は、フィンランド人のジャーナリストだった母親とアメリカ人の俳優ジョージ・ディカーソンの子供だそうです(「ブルー・ベルベット」などに出ているらしい)。キプロスで生まれ、5歳の時にフィンランドへ移り住み、ヘルシンキの大学へと進学して映画監督コースに選ばれたとか。しっかりした作り方には安心感を覚えます。次回作が楽しみ。

厳格なイギリスの学校という雰囲気が、いい感じで表現されていたのにも好感が持てました。“伝統”というものに盲目的に従う必要はないけれど、さほど捨てたものではないのです。この僕の理解を“年齢のせい”としか感じない方は、もう一度人生をスタートからやり直した方がいいと思いますよ。と、これは余計なお世話でした。

写真3がドメ・カルコスキ監督。そして写真2は、映画の一場面に出てくる“白と黒の木が一体化している木”ですが、同様の木が日本の神社にもありますね。たまたま録画していた旅番組に紹介されていました。
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