僕はリチャード・ロンクレイン監督の「ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります」(2014)について書いたとき、“それなりに見ていられる映画は作るけど、それ以上の物はありません”と書きました。でも今回の「輝ける人生」を見て、その言葉を撤回させていただきます。僕より半年早く生まれた監督さんですが、余計なことを考えないところがいい。
物語は、警察幹部の妻として、35年の結婚生活を送って来たサンドラ・アボット(イメルダ・スタウントン)が、亭主マイク(ジョン・セッションズ)の退職パーティーで、“夫はナイトの称号をもらうから、私はレディー・アボットね”と喜んでいたら、なんと親友と浮気していたと知ります。アタマに来たサンドラは、ここ数年音信不通だった姉エリザベス(通称ビフ、セリア・イムリー)の家に転がり込む、という展開です。
ビフは生涯独身で通していて、今では老人会仲間と気ままな生活を送っている。彼らは運動を兼ねてダンスをしたり、和気あいあいと暮らしています。しかしサンドラは、“夫が改心して迎えに来る”ことを願って、老人会の集まりにはあまりなじまない。そこには“なんでも修理屋”として仲間の世話をするチャーリー(ティモシー・スポール)がいて、姉のビフは妹を彼に近づけようとします。
というような老人生活と、浮気相手と再婚しようとする夫マイク、さらに娘と孫がからんで、コミカルな家庭ドラマが展開します。マイク・リーやケン・ローチだと、生活苦というものが前面に出て社会性をもちますから、とても気楽に楽しめない。しかしこちらは中流階級のオハナシなので、架空のオハナシとして気楽でした。
なにしろイメルダ・スタウントンという女優さんには「ヴェラ・ドレイク」があったので、もしかして亭主が驚愕するような秘密を持っているのでは？と心配しましたが、姉が老境の裸姿をさらした「カレンダー・ガールズ」の一員ですから、別に裸は見たくないけど気楽な生活が約束されているらしくて楽しい。ビフのアパートは、マイク・リーやケン・ローチのアパート同様、安アパートという感じなので好感が持てるし。
ティモシー・スポール扮するチャーリーも、船で生活しているから生活苦なのかと思ったら、なにかにつけて他人に金を(小額だけど)渡したがるので、生活苦ではなさそうでした。そういう部分が、“現実の厳しさと違う”とお怒りの方には向きませんが、とりあえず生活苦のことは忘れて映画の中で楽しみたい向きには格好だと思います。
そういえばドキュメンタリーか何かで、年寄り連中がダンスをして人気を呼んだというのがありました。それと同じような“降って湧いた幸運”が展開するので、まあ難しい話は置いとこうやないの。この話を楽しめばいいのです。個人的にはダンス指導の先生役のインドラ・オヴェ(写真２)や、離婚経験の豊富な仲間女性ジャッキーを演じるジョアンナ・ラムリー(ポスターの中央にいますが傍役です)あたりで目を楽しませておいたから、老姉妹たちの行く末については気楽なものです。
たとえばビフがデートして自宅にまでお持ち帰りした老人が、ベッドインする前にお亡くなりになっていても、悲しむどころか“いい最期”なのです。実際そうだと思う。なにしろ“死”というものを考える間もなく死んでしまえるというのは、僕には“理想”ですね。だって“死”を考えても意味がないし、考えることは生きることなので矛盾でしかないのです。そのあたりはすっ飛ばして、自立して生きられれば最高です。←原題の「Finding Your Feet」は、“自立して生きる”という意味ですし。
それと特筆すべきは音楽です。老人たちのダンス曲として、シックの“ル・フリーク”が流れるあたりはお約束ですが、“月影のナポリ”が流れたときにはヤラレタ〜！と思いました。ザ・ピーナッツが歌っていた気がしますが、それを“イタレーラリルーナ(至れり尽くせりやな)”と聞きおぼえていた僕は、今回初めて“ティンタレーラ・ディ・ルナ(Tintarella Di Luna)”だったことを知りました(汗)。
そんなこんなのゴッタ煮映画ですが、実に楽しめました。こんな映画はしかめっ面して説教するより、楽しんだ者勝ちです。そう思わない人はこの映画に近寄らないようにね。バカを見るより、バカになろう。同じバカなら踊らにゃ損々ってね。
インドラ・オヴェって、「スター・ウォーズ：エピソード９」でファースト・オーダーの将校だったのね。知らん知らん。
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