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2020年08月01日11:14

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第二次大戦直後の生々しい戦禍のベルリンの映像が強烈です。ビリー・ワイルダー監督「異国の出来事」(1948)。

1944年に、ビリー・ワイルダーは戦時情報局の局長に呼び出され、ドイツへ行って戦後ドイツ映画産業の再建に協力するなどの仕事を委嘱されます。伝記本によると、軍から支給される年俸が6500ドルだと聞かされ、担当官が“参考までにこれまでの金額は?”と問うと、ワイルダーが“2500…”と言いかけただけで、担当官が遮って怒りだしたそうな。ワイルダーは“何を言ってるんだ。週給だぞ!”と怒鳴り返したそうです。

てなわけで、伝記本を読んでいたもので、彼がベルリンで送っていた生活がこの映画の裏側に見えてきます。そして彼が戦禍のベルリンで見た“実態”も絡み合う。しかし僕にとって強烈だったのは、爆撃や戦火でほとんど廃墟となった市街の風景でした。冒頭、アメリカの議員団が飛行機から見る風景は、そのままこの映像だったのだと思う。

実は前後してワイルダーは、「失われた週末」を完成していたのですが、これが配給会社幹部の気に入らず“お蔵入り”となりかけたそうです。その逸話を知っているだけに、廃墟と化したベルリンを見る気もなく、金勘定だけで映画の公開をストップする連中に対するワイルダーの気持ちがよく分かる。結果的には封切られて好評を博した「失われた週末」は、ワイルダーにアカデミー監督賞と脚本賞をもたらします。

そして「皇帝円舞曲」があり、この「異国の出来事」となります。伝記本では未公開作品なので「外国の事件」となっていますが、このアフェアは事件というより“情事”と解するべきでしょう。議員のジーン・アーサーに対しても、そしてジョン・ルンド(今の表記ではジョン・ランド)にとっても。旅先の情事とするとマレーネ・ディートリッヒには旅先じゃないから、フォーリンは“外国人との”という感じになります。

しかし強烈な廃墟映像のあとで、ともにもうすぐ50歳の熟女2大スターが色香を競うので、それをすんなり受け入れられる方には“名作”でしょうけど、僕にとっては「シェーン」のお母さんが色事かよ、という部分もあり、同時にディートリッヒのおみ足にもあんまり興味がないもので、かなり引いたまま見終わりました。

子供のころ「情婦」のポスターがイギリスで問題になり、ディートリッヒの脚の部分をステッカーで隠させたと聞いています。そういう魅力は僕には感じられないもので。今の年齢の僕の眼前に、当時のジーン・アーサーとディートリッヒがいらっしゃれば、そりゃもう大歓迎しちゃいますけど、なにせ映画の中の話ですからね。僕の望みはうんと大きい。

ベルリンのアメリカ軍管轄下が舞台ですが、ナイトクラブのローレライにはソ連兵も来ています。彼らが口ずさむ曲が“ポルシカ・ポーレ”でした。この映画を子供の時に見ていたら、木下恵介劇場でヒットしたときに役立ったろうにと、いささか悔しく思います。←見ても覚えていたかどうかは知らんけどね。

ドイツで軍の仕事をしていたワイルダーに対し、キリスト受難劇の相談に来た演出家が、“主役に、ナチス親衛隊の一員だった俳優を使いたいのですが”と具申したそうです。それに対してワイルダーは、“ひとつだけ条件があります。磔シーンで本物の釘を使うこと”と言い返したとか。

さらにソ連軍の大佐たちと会うことがあり、映画監督だと知った大佐の一人が離席し、しばらくして笑顔で帰ってくるなり、“ミーセス、ミーニーヴァ、ブラボー”と言ったそうで、ワイルダーは相手に間の悪い思いをさせる手はないと判断して、“グリア・ガースンを監督出来て光栄だった”と、ビリー・ワイラーになりすましたそうです。

というような、ワイルダーの入り組んだジョーク感覚を納得して見れば、この映画の面白さは数倍になると、僕は思います。ただし、ゼロにいくらでかい数字を掛けてもゼロですけど。
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