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2020年07月25日05:32

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“型にハマった”面白さと窮屈さを感じました。ビリー・ワイルダー監督(米での監督デビュー作)「少佐と少女」(1942)。

先日ビリー・ワイルダーの伝記を完読したことから、彼の監督作で未見だったものに手を伸ばしました。ドイツ時代の「ろくでなし(Mauvaise graine)」(1934)は置いといて、パラマウント作品から。ジンジャー・ロジャースとレイ・ミランドが主演です。脚本段階でワイルダーはケリー・グラントを主役に想定していたようですが叶わず、当時近所に住んでいたレイ・ミランドに声をかけたら“飛びついて”きたらしい。

物語はニューヨークに出てきたアイオワ娘スーザン・アプルゲイト(ジンジャー・ロジャース)が、1年間で25も職業を転々として今は頭皮マッサージをしていますが、パーク・アベニューの高級マンションに行くと、妻が留守中のオズボーン(ロバート・ベンチリー)に言い寄られます。アタマに来たスーザンはニューヨークで働くことを辞め故郷に戻る決心をする、という展開。

なにしろ定職を得られなかったスーザンなので、しっかりと田舎までの鉄道チケット代27ドル50セントを封筒に入れて手を付けずにいたのですが、鉄道運賃が値上がりしていて5ドル足りません。そのとき子連れの母親が子供のチケットを半額で買うのを見て、トイレに駆け込んで少女に扮装、駅にいたケチなペテン師に小銭をつかませ、子供用チケットを手に入れます。しかしペテン師が小銭以外をせしめてしまうところがいい。

そして乗り込んだのはいいのですが、検察に来た車掌に怪しまれ、あるコンパートメントに飛び込みます。そこには陸軍士官学校の教官カービー少佐(レイ・ミランド)がいて、幼い少女だと信じて救ってくれる、という具合です。

どう見ても12歳には思えないジンジャー・ロジャースを、言うがままに信用するカービー少佐ですから、そのあたりに“?”を抱いたらこの映画は楽しめません。僕はカービーの婚約者(リタ・ジョンソン)たちが、少女姿のロジャースを見た瞬間、少女だと認識するあたりのギャップが楽しい。

でもって見終わってimdbのトリビアを読むと、ジンジャー・ロジャースは娘時代に一家の巡業に同行して、旅費を倹約するために子供料金で旅した経験があるとか。それはそれで面白いトリビアですが、映画の本質とは別の楽しみです。まずは原題の「The Major and the Minor」という言葉遊びを楽しむといい。邦題の「少佐と少女」も考えた結果だとは思いますが、メジャーとマイナーという言葉ほどインパクトはありませんね。

士官学校に滞在することになったスーザンは、子供らしく“スースー”と愛称で呼ばれます。カービー少佐が“シースー”とか言い間違えるあたりも、言葉遊びの楽しさでした。←動詞のseeに釣られてしまうのです。士官学校の生徒が、女性とキスするための常套手段の小噺“マジノ・ライン”を繰り返すとか、南北戦争の英雄の像に小銭を入れて願いをかなえるとか、ワイルダーならではの小ネタ小道具が楽しい。

でもって終盤にはスースーの母親役としてロジャースの実母レラも顔を見せます(写真3)。僕はそれよりも、冒頭のオズボーン氏が「ジョーズ」の原作者の父親であるとは知っていたのですが、その妻役を演じる女優さんに見覚えがある。調べてみたらノーマ・バーデンでした。あの「サウンド・オブ・ミュージック」でトラップ一家を世話していた家政婦さんではありませんか!

てなわけで楽しく見たわけですが、やはりレイ・ミランドの少佐が“12歳の小娘”と信じ込むあたりに無理を感じます。俳句で言えば文字数もきっちり合っているわけなのに、無理して現代的な題材を入れちゃったな、みたいな窮屈な雰囲気がある。これが「お熱いのがお好き」になると、すいすいと楽しめるのですが、この作品ではいささか無理でした。

とはいえ考え抜かれたセリフのやり取りは、やはり“うまい!”と唸ってしまいます。脚本家として成功したチャールズ・ブラケットとの“黄金コンビ”の面目躍如たる作品でしょう。こういう“古典”から学ぶべきことは、まだまだたくさんあります。多少の窮屈さは“良薬は口に苦し”だと考えて、じっくりと味わいましょう。もちろん、映画を楽しむだけなら他の映画でもいいんですよ。無理してワイルダー作品のような“作り込みの妙味”に手を出さずに、“B級グルメ”を楽しむといい。

しかし、この作品のアレンジ・バージョンが、ディーン・マーティンとジェリー・ルイスの「お若いデス」だったのか。全く気づきませんでした。もっともルイスが水上スキーをして、浜辺で食事中の一家に突っ込み、サンドイッチを口にして“ハムだ”とかなんとか言った場面しか覚えていませんけどね。
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