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2020年07月08日06:13

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やはりヒッチコックは“映画の教科書”だと思う。アルフレッド・ヒッチコック監督「知りすぎていた男」(1956)。

この「知りすぎていた男」は、ヒッチコックが1934年に作った「暗殺者の家」のリメイクになります。ヒッチコックはハリウッドに渡ってすぐの1941年に再映画化を企画しましたが、実現は15年後となったようです。僕は初公開時に見ています。ヒッチコックがパラマウントと契約していた時代の作品なので、ビスタビジョンでした。もちろん僕は通常の35ミリ公開でしか見ていませんけど。

ヒッチコックには“忘れられた5作品”と呼ばれる作品があり、それは「ロープ」「裏窓」「ハリーの災難」「知りすぎていた男」「めまい」で、公開から30年に渡ってリバイバル公開されなかったとimdbのトリビアにあります。しかし僕は「ロープ」や「裏窓」が1960年代にリバイバル公開されたことを知っています。「めまい」はリバイバルされなかったけれど、「知りすぎていた男」も入っていたと思う。日本だけなのかも。

それと「知りすぎていた男」の製作には、ジェームズ・スチュワートとドリス・デイも噛んでいるようです。ヒッチコックが代表だったらしいのですが、彼がパラマウントからユニバーサルに移籍するとき、「泥棒成金」を除くパラマウント作品の権利を買い上げて持って行きます。だから現在のDVDなどの冒頭にはユニバーサルのマークで出ているというしだい。

ドリス・デイって、飛行機が嫌いだったそうですね。でもこの作品に関しては、ご主人でマネージャーだった製作者のマーティン・メルチャー(メルヒャー?)の勧めで引き受けたらしい。ドリス・デイの役どころは、医師と結婚した人気歌手というわけで、誘拐された息子(「翼にかける命」などのクリストファー・オルセン)に歌いかける“ケ・セラ・セラ”が大ヒットしました。

実際にロンドンのロケでは、ドリス・デイの宿泊するホテルにファンが詰めかけて大騒ぎになったようです。劇中でロンドンに着いたデイをファンが迎える場面がありましたが、あれ以上の喧騒だったわけですね。なのにドリス・デイは、この曲のシングル化には反対だったそうな。結果的には彼女の生涯で最大のヒット曲となりましたけどね。

それと、ドリス・デイの夫でマネージャー、そして映画プデューサーでもあるマーティン・メルヒャーって、ひどい野郎だったようです。1968年に彼が亡くなったとき、ドリス・デイは自分が無一文に近いことを知ります。1950年代の興行収入第一位女優を何度も体験した大スターが、夫の会社にすべて持っていかれていたということです。カーク・ダグラスも長年の友人である経理担当者にごっそり抜かれていたと自伝にありましたね。

というようなトリビアばかり書きましたが、今回見直して面白かったのはカメラアングルでした。ヒッチコックは基本的にカメラアングルに凝るということはせず、ここぞという場面だけ観客の心を引っ張っていくという撮影方法を用います。今回は、息子が誘拐された夜のホテルのシーンが前半の山場でした。

心配する妻に鎮静剤を与えてから事実を打ち明ける夫の医師。このシーンで細かくカメラが切り替わります。それが不安感を増幅する。ドリス・デイは、カメラや照明などスタッフに細かい注文を付けるヒッチコックが、自分の演技には何も言ってくれないと苦情を漏らしたそうです。するとヒッチコックは、“もし君が僕の考えと違う演技をしたら、そのときは僕が演技を付けてあげるから”と返答したそうな。

そしてクライマックスのアーサー・ベンジャミン作曲のカンタータ“ストーム・クラウド(時化=しけ)”の演奏シーンです。10分程度音楽が演奏される中、セリフがありません。バーナード・ハーマンその人が指揮する場面が延々と続く。これは本当に“映画の醍醐味”でした。ヒッチコックいわく、“1934年の映画は才能あるアマチュアの作品、そして今回はプロの作品”だそうです。

2時間ちょうどという上映時間は、やはり長いと思います。つまり、ひとつのシーンをじっくり見せるから、時間経過が長いと感じる。←ま、剥製屋でのごたごたなんか、ちと長いわな。逆に子供のころ見て長いと思ったレストランシーンは、そうでもありませんでした。見る年齢によって印象は変わる、ということでしょう。
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