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2020年07月06日05:39

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紅葉の美しさとヒッチコックの“話術”に酔いました。アルフレッド・ヒッチコック監督「ハリーの災難」(1955)。

6年前にハイビジョンで見直して、ニューイングランド地域の紅葉風景に酔ったのですが、会話の細かな内容をすっかり忘れていました。そもそも初公開時にこの映画は奈良では上映されなかったように思います。きっと理由は、ノースターだから。ブロードウェーのコーラスガールだったシャーリー・マクレーンのデビュー作で、タイトルにイントロデューシングと出ます。

シャーリー・マクレーンは僕と誕生日が同じなのですが、当時21歳なんですね。すでに7歳の息子がいるシングルマザーという設定。パラマウントと契約したばかりで、「画家とモデル」の方が1か月遅い公開なので、「ハリーの災難」がデビュー作ということになります。余談ですがiPadでimdbを検索するとき、かな漢字入力できるんですね。これは便利です。

ヒッチコックは、新人女優のマクレーンを毎朝朝食に同席させ、十分に食べさせたらしい。そのため8キロほど太り、パラマウントから“女優生命にかかわる”とストップが出たそうな。21歳で7歳の息子はないと思ったヒッチコックの配慮でしょう。美人というタイプではないけど、かわいくて素敵でした。

このロジャース夫人、原作では戦争未亡人のようです。つまり戦地へ行く兵士と関係した女性が妊娠し、兵士が戦死したために“家の名誉”を守ろうと兄が結婚相手となった、というのが原作の筋書きらしい。そのあたり、検閲で問題視されたため1955年のアメリカに舞台を移して映画化となったようです。

ヒッチコックは、こういう“検閲との闘い”を何度もやっていますね。「サイコ」では、トイレの水を流す(フラッシュ)シーンを大写しで撮ったのは史上初だと自慢していました。今回気づいたのは、42歳のアイビー(ミルドレッド・ナトウィック)が船長(エドマンド・グウェン)と近づきになるあたり、なかなかきわどいセリフが連続します。

とはいえ露骨な言い回しは全くありません。あくまでもニューイングランド地域の穏やかな生活感覚に則った言い回し(住んだことないから想像です)。それに気づくと、画家のサム・マーロー(ジョン・フォーサイス)とジェニファー(シャーリー・マクレーン)の会話も、けっこうバシバシと本論に切り込んでいます。ヘイズコードが目を光らせている中で、現場の人間がそれに挑んでいる面白さ、これを楽しめない人は不幸だな。

それと息子のアーニーが、昨日・今日・明日を取り違えて理解しているという部分があり、言葉の遊びだと楽しんでいたら、アーニーが警察に証言したらすべて丸く収まるというあたり、痛快でした。詳しいやり取りがimdbにあったので引用します。

サム・マーロウ: では明日来よう(Perharps I'll come back tomorrow.)
アーニー: いつだって?(When's that?)
サム: 今日の次の日さ(The day after today.)
アーニー: それは昨日で、今日の明日だよ(That's yesterday. Today's tomorrow.)
サム: そうだね(It was.)
アーニー: じゃ明日の昨日はいつ?(When was tomorrow yesterday?)
サム: 今日だ(Today.)
アーニー: そうとも、昨日さ(Oh, sure. Yesterday.)

それとハリーを演じた俳優さんはフィリップ・トルース(Philip Truex、トルークス?)という人らしいのですが、最初オファーを受けたとき主人公だと喜んだそうです。でも実際はセリフなしの死体役。そんなことから自分は俳優に向いていないと思い、趣味のガーデニングに転業しました。でも著書が売れるなど、第二の人生が成功したようでなにより。

なおヒッチコック本人は、この「ハリーの災難」を気に入ってるそうです。1950年代半ばのヒッチコックは映画を年に2本ずつ、さらにテレビ「ヒッチコック劇場」とヒッチコック・マガジンを抱えていて、大忙しでした。そんな中で、死体を埋めたり戻したりを繰り返すブラックな喜劇ですから、いかにもヒッチコックの好むところでしょう。

とりあえずニューイングランド地域の紅葉のすばらしさを、ハイビジョンテレビにぴったりのアメリカン・ビスタビジョン・サイズで楽しんでください。上下にほんの少しだけ黒味が出ますが、ほとんど気になりません。これが最近ウディ・アレンお気に入りの2:1というサイズだと、黒味が気になるのですけどね。←ビットリオ・ストラーロのお気に入りかも。

なおタイトルのイラストは、ソウル・スタインバーグでした。
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