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2020年07月01日00:33

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こういう作品のデジタル・リマスターは実にありがたい。ジャック・ベッケル監督「現金に手を出すな」(1954)。

“現金”と書いて“げんなま”と読ませます。僕は小学生のときにこの映画を見て、現金という文字を“げんなま”と覚えてしまいました。辞書によると“げんなま”は“現生”と書くようです。たぶん隠語なので、明確に“金”と分からないようにしたのでしょう。映画の題名だと“現金”にルビを“げんなま”とした方が効果的ですね。

1950年代には、漢字が当用漢字(現・常用漢字)として使用制限が行われ、輿論が世論になったようにいろいろ簡略化されました。それと関係したのかどうかは別にして、「艶ぼくろ」を“いろぼくろ”と読ませたり、「全員射殺」という題名を“みなごろし”と読ませたりしたのです。昭和はそういう時代だったと懐かしんでください。

で、ジャック・ベッケル監督の代表的なヒット作であり、ジャン・ギャバンの“カムバック作”でもある「現金に手を出すな」です。老境に差し掛かったギャングのマックス(ジャン・ギャバン)は、足を洗うことを決めて大仕事を行います。しかし仲間のリトン(ルネ・ダリー)が、若いダンサーのジョジー(ジャンヌ・モロー)に口を滑らせたため、マックスと対立する新興勢力のアンジェロ(リノ・ベンチュラ)が獲物を横取りしようと企む、という展開です。

原題は「グリスビーに手を出すな」で、グリスビーという単語は僕のフランス語辞書にはありませんでした。英語だと「The Loot」だとimdbにあります。戦利品、獲物という意味らしい。それを“現金”とした日本題名の意識的誤訳はこの際無視しましょう。それと、1本12キロの金の延べ棒を専用のスーツケースで持ち運ぶのですが、最初は重さをリアルに見せているけど、途中からせいぜい1本2キロ程度になってしまいます。これも“映画の嘘”として見逃しましょう。

つまり、ギャングたちのレストランでのやり取りや、その周辺の人物との人間関係がなかなか面白く、しょーもないグーフを指摘するのがバカバカしくなるわけです。たとえばレストランの女将が、マックスたちの仲間で盛り上がっているのを察して、別のグループ客を断るところなど、いいですねぇ。マックスが“俺にもしものことがあったら、これで弁護士などの手配を”と、20万フラン(当時の20万円かな)を女将に託すのもいい。

そんな中で、若いジョジーが戦後派(アプレゲール)らしく、アンジェロと通じているあたりも面白い。一方でマックスが情けをかけた若い衆は、最後には命を投げ出すという、そんな義理と人情のフィルム・ノワールです。ギャングたちが、ドイツ軍の使っていた手榴弾や機関銃を用いるのも、なんかリアルでした。レジスタンスに身を投じなかったベッケル監督だから、余計に感じる部分がある。

前後してジュールス・ダッシンが「男の争い」をフランスで作っていて、そちらがジャン・セルヴェ主演のギャング映画。小学生時代に両作を見た僕は、記憶の中でごっちゃにしていました。今回はデジタル・リマスターのすっきりした画像で見直すことができてよかった。

情にもろいジャン・ギャバンはこの後、「ヘッドライト」で若い女(フランソワズ・アルヌール)といい仲になる初老のオヤジでした。「現金」が50歳で、「ヘッドライト」が51歳。今の僕からすると“若い”のですが、当時は僕の父親より年上。なにしろ定年が50歳でしたから、初老というよりも老人という雰囲気だったのでしょうか。

とにかく、余計な説明なしで雰囲気をうまく見せています。「穴」のリアリズムとはまた違った、娯楽映画として味わい深い作品でした。この2作が収録されたブルーレイは、実に“お買い得”だと思いますので、ぜひどうぞ。と、皆さんが買ってくださっても僕が儲かるわけではないのはいつものとおりですけど。

それにしてもリノ・ベンチュラは、34歳にしてこの映画がデビュー作なんですね。それまではレスラーだったらしい。フランス読みならヴァンチュラですが、イタリア生まれだからベンチュラのほうが近いんじゃないかと、僕は勝手にそうしています。
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