imdbの制作年度に合わせましたが、劇場公開はアメリカでも1998年のようです。マメットは最近、テレビ番組の製作などが多いようで、監督作はケーブルテレビの「フィル・スペクター」(2013)ぐらいのようです。これはアメリカ盤のDVDを手に入れて見ました。
そのデビッド・マメットの「スパニッシュ・プリズナー」は、結構話題になっていたけど見逃していました。今なら株主招待で入れる劇場が配給していましたが、当時はまだ株主じゃなかったことも災いしていました。つまり一般向けではない映画なので、ライター仕事の対象にならなかったわけです。
まず題名から中身が分からない。“19世紀にまで遡る古い信用詐欺の手口”という意味のようですが、その話が転がり出すのは30分くらいしてから。監督名を知らずに見ていたら(知らなければ手を出さないけど)“30分ルール”を適用していたかもしれません。あのころはフェリシティ・ハフマンがFBIエージェントで出てきても、まずスルーしたでしょうし(笑)。
物語は、IT企業のプログラマーであるジョー・ロス(キャンベル・スコット)が最新ソフトのプレゼンのためカリブ海のリゾート地へ出張するところから始まります。そこで出会った富豪のジミー・デル(スティーブ・マーティン)から、先に帰るのなら妹に本を届けてくれと頼まれるというもの。
ロスは同行した友人の弁護士ジョージ(リッキー・ジェイ、写真2右端)から“カジノで儲けた”とまとまった金をもらったので、エコノミークラスで来ていた秘書(レベッカ・ピジョン)をファーストクラスにしてやります。このあたりのやりとりが、なんか変だなとは思うけど全貌が見えないまま中盤へ進みます。そのあたりがちょっと苦痛でした。
なによりも画面の色合いが、なんともスタジオ撮影っぽくて嫌だった。ちゃんとカリブ海が映っているのに、なんか人工的な色合いなんです。先日ちらりと見たロブ・マーシャルの「シカゴ」も、初期のデジタル撮影かと思うような色調でびっくりしましたが、それと似たような感覚。しかしどちらも、当時はまだフィルム撮影ですから、とても不思議に感じました。
てなわけで中盤からいろいろと話が込み入って来て、それをラストでは“鮮やかに”まとめ上げるのですが、なんか親身になって乗り込めない内容でした。それには画質が大きくかかわっていると僕は思います。レコードで言えば音質の問題ですね。レコードで音質がなじめないとダメですが、映画はドラマの展開に乗せられることがあります。
しかし、それにも限度がある。つまり心から乗り込んでいける映画は、画質を楽しめる作品だけだと思うのです。ところが、画質云々は文字にしにくい。たとえば構図が大胆だとか、空撮が見事だとかは簡単に指摘できます。でも僕は、“この映画はコダックの○○というフィルムを使っているから、あの場面の映像には合わない”というような踏み込んだ言い方ができません。もしかしたらフィルターのせいかもしれないわけですが、そのあたりに言及する知識は持っていません。
でも、画質や色調が与える印象は、間違いなく大きな影響力を持っています。それが証拠に、1950年代のハリウッド映画を今見直すと、古典的な色彩についていけないことがあります。そういう意味で、アメリカン・ニューシネマは映画を大きく変えたと思う。あるいは「アメリカン・グラフィティ」が“アメリカの夜”を葬り去ったからかもしれない。
てなわけで、20年以上前の映画を今初めて見ると、いろいろと当時の自分とはズレている自分を発見できます。これが“時代の進歩”であり、僕にとっては成長なのかとは思いますが、奇妙な気分であることには違いがない。やはり映画は、作られた時代と共に生きているのだと実感しました。
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