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2020年01月30日06:02

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アーカイブ映像とインタビューだけで、あざやかに時代が甦るドキュメンタリー。サラ・ドライヴァー監督「バスキア、10代最後のとき」(2017)。

僕はジャン・ミシェル・バスキアについては、ジュリアン・シュナーベル監督の「バスキア」を見て知っただけで、詳しくは知りません。今回は、ジム・ジャームッシュの「ストレンジャー・ザン・パラダイス」(1984)を製作したサラ・ドライヴァーによるドキュメンタリーです。彼女の「豚が飛ぶとき」って見たような見てないような。

原題が「Boom for Real: The Late Teenage Years of Jean-Michel Basquiat」なので、“本物のブーム:バスキア、10代最後のとき”という感じでしょうか。つまり邦題をストレートに受け取って伝記映画だと思うと違う訳です。1970年代末という時代のニューヨークを描いていると思えばいい。

僕はニューヨークへ始めて行ったのが1995年でしたから、そろそろ地下鉄に乗っても危なくない感じになりかけたころ。でもツアーガイドは“深夜の地下鉄には乗らないように”とか、“通りを歩くときは路地に連れ込まれないように車道寄りを歩け”と忠告していました。そして“ポケットに20ドル以上入れないこと”とも。当時の相場が20ドルだから、それ以上持っていると刺されて、もっとないかと体中調べられるらしい。

その後2012年に、「小鳥の水浴」の芝居をセント・マークス教会で行うというイベントについて行きました。そのときはセント・マークス教会からハウストン通りのホテルまで、午前0時過ぎに歩いて帰れたわけです。この映画でもセント・マークス教会というキーワードが語られ、ロウアー・イースト・サイドの治安の悪さに言及されていました。

そんな時代をうまく切り取った感のある79分のドキュメンタリーなのですが、日本語字幕に“LESは危険だ”なんて出て、それをロウアー・イースト・サイドの略だとすぐに分かる人が多数いるのか?と立ち止まってしまいました。字数を稼ぐのならそれなりの配慮をしろよ、と思います。LESで通じるなら、きっとその人に日本語字幕は不要だよ。

バスキアがsamoと名乗るグラフィティアーチストだっとことすら知らない僕には、その当時のバスキアの映像が生き生きとしていて楽しかった。そしてバスキアが、何とかして“売れよう”としていたことも、アメリカらしいなと感じました。70年代前後の日本の大学生たちなら、“ナンセンス!”と唾棄したでしょう。でもマンハッタンではそれがムーヴメントになった。おおざっぱに言うとそれが日米の差なのです。

驚いたのは、若者たちの集まるバーなどに必ずと言っていいほどクスリが置いてあり、それが1〜2か月無料なんだそうです。そして手を出して常習者になったあたりで薬はなくなる。あとは金をつぎ込むほかないわけです。それらを仕組んだマフィアの話も後半に登場します。

こういうすさんだ状況を目の当たりにすると、深夜にあの近辺を歩けた変貌ぶりに今さらながら驚いてしまいます。そんな時代の流れを、またしても思い知らされた、“意味のある”ドキュメンタリーでした。いつの時代も若者は、なにかしなくちゃ、とだけは思い考えているのですが、その発露がポイントなのでした。
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