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2020年01月19日06:04

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近年忘れられかけている監督だが、僕は彼を“英国の鬼才”と呼びたい。ケン・ラッセル監督「ボーイフレンド 完全版」(1971)。

以前、WOWOWで放送して以来(1998年11月7日とメモしてある)、ずいぶん久しぶりに有料放送されました。今回はザ・シネマ。ということで購入していたVHS(ポニーから発売していたMGM版110分)と、WOWOWでの「完全版」の録画テープを処分することができます。そもそもテープがきちんと再生できる状態かどうか?

記憶としては、当時世界的に人気だったモデルのツイッギーが主役で、歌い踊る70ミリ(ブローアップだけど)ミュージカルでした。でもケン・ラッセル監督ですから、豪華絢爛なハリウッド・ミュージカルとは大きく違います。簡単に言うと、ケン・ラッセルがハリー・サルツマン製作のもとで作ったスパイ映画「10憶ドルの頭脳」と、同じ製作者によるスパイ映画「007」シリーズの違いという感じ。

僕は公開当時になんば大劇場で見ています。あの「ウエスト・サイド物語」を見たのと同じ大スクリーンに映し出された「ボーイフレンド」は、映画史に残る「ウエスト・サイド物語」とは全く別種のミュージカルでした。バスビー・バークレー作品を思わせる群舞シーンも、光学合成によるマルチスクリーン特撮も、いろいろ豪華に使用されているけれど、その画像の奥に茫漠たる寂しさが透けて見える。これがケン・ラッセルのケン・ラッセルたるところです。

たとえば「10憶ドルの頭脳」では、殺された太っちょ男性の死体に粉雪が張り付いていたりしました。「肉体の悪魔」の中世の阿鼻叫喚映像もそう。寂しさが前面に出て死臭すら感じ取れるのです。そんな映像で華やかなミュージカルだなんて、ほとんど冗談でしかありません。まさに鬼才であり奇才そのものという監督さんなのです。

そもそも舞台ミュージカルの初日に、主演女優のリタ(グレンダ・ジャクソン、ノン・クレジット)が骨折し、演出助手だったポリー(ツイッギー)が代役にされる。おまけにハリウッドの大監督ド・スリルが特別席から眺めている、という設定です。これは「ひとりぼっちの青春」のマラソンダンスに、マーヴィン・ルロイ監督が見に来ていた展開よりも痛烈でした。なにしろド・スリルを演じるのが、「007/危機一発」のクロンスティーンことヴラデク・シェイバルなのですから。

公開時はまだ「地下水道」を見ていなかったので、彼が地下水道から脱出しようとした医師だとは知りませんでした。でも今僕は知っています。その鉄格子の向こうにある河岸の先の森には、ソ連軍が待機していたという史実も知っているのです。ケン・ラッセルの寂しさは、アンジェイ・ワイダの苦渋をも継承していたのでした。

もちろん、何も知らずにボーと生きている映画ファンには、こんなケン・ラッセルの内面は分からないでしょうし、知る由もありません。しかし僕は、チコちゃんに成り代って“ボーっと生きてるんじゃねえよ!”と怒鳴ってやりたい。NHKのCGチームは、働き方改革も結構ですがもっともっと怒鳴るべき材料が世の中にはあるのです。

先ほど“70ミリはブローアップ”と書きましたが、大俯瞰からのモッブシーンなどは、わざわざアメリカから70ミリカメラを運んで撮影したそうです。元々のプロデュースがMGMだから可能だったのかな。そんなことしてるから製作部門をたたむことになったのかもしれません。←「天国の門」だけに責任があるわけじゃない、ということ。

またimdbのトリビアによると、最初ジュリー・アンドリュース主演で発表し、デビー・レイノルズ、ライザ・ミネリと変更になったそうですが、最後までグレンダ・ジャクソンの役をジュリー・アンドリュースに、という動きがあったそうな。そんな舞台裏劇の舞台裏もいろいろ楽しい、しかし寂しさに満ち溢れた可笑しくも悲しいミュージカルなのでした。この作品の“意味”が分からんやつは、手を出すんじゃない!と僕は言いたいのです。

写真3は出演者の一人マーレー・メルビン。トニー・リチャードソンの「蜜の味」の“お姐さん”でした。60年代のイギリス映画界で重要なわき役だった人です。この「ボーイフレンド」でも、ツィッギーの食べかけのりんごをもらう、僕には意味のある役でした。
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