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2019年12月09日06:31

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ストレートな新聞記者ものだが、淡泊過ぎて感動が乏しい。ロブ・ライナー監督・出演「記者たち 衝撃と畏怖の真実」(2017)。

911事件の後、ブッシュ政権がアフガニスタンのビンラディン一派とイラクのフセイン大統領を同一視して、イラク侵攻を企てたことに対する多数の新聞報道に、異を唱えた通信社ナイトリッダーの記者たちを描いた物語です。全米31社の新聞を傘下に持つナイトリッダー社は、ブッシュ政権が“イラクが大量破壊兵器を用意している”として侵攻しますが、それが情報操作だと唯一反論した新聞社だったらしい。

ロブ・ライナー自身がナイトリッダー社の編集主幹を演じ、ホワイトハウスの大量破壊兵器に対する主張を突き崩そうとしますが、ニューヨーク・タイムズら大手新聞社は、ホワイトハウスが流す情報とイラクから亡命して来ているアーメッド・チャラビーの情報を信じて、イラク侵攻をあおったという展開。

911事件からアフガニスタン侵攻の流れについては、全世界のマスコミが“正当な報復”と報道していた気がします。しかしイラクのフセイン政権がアルカイダを支援しているとかになると、いささか眉唾でした。その中で、ブッシュ政権がパウエル国務長官まで国連で演説してイラク侵攻に乗り出したわけで、その流れについてはアメリカでも疑問の声は多かったようです。

僕はナイトリッダーという新聞は初耳でした。そのトップ記者としてランデイ(ウディ・ハレルソン)とストローベル(ジェームズ・マースデン)がいて、ベトナム戦争の報道で有名になり政府筋で働いていたジャーナリストのギャロウェイ(トミー・リー・ジョーンズ)も復帰してナイトリッダー社のチームに加わります。

彼らが、ホワイトハウス情報を嘘だとまでは言いきれなかったけれど疑問を呈したことは、記憶しておく必要があるとは思います。ランディの妻(ミラ・ヨホヴィッチ、アメリカ読みがジョヴォヴィッチ。もう母親役ですぜ)が、“愛国心は大事かもしれないけれど、それが昂じてユーゴスラヴィアは国がバラバラになった”ともらす場面はなかなかでした。

しかし、この映画は根本的に戦争を否定しません。アメリカ軍が行った理不尽な戦争に対して、理不尽だったというのがせいぜい。冒頭、志願してアフガニスタンへ行き下半身の機能を失った兵士が聴聞会に出席し、“起立して宣誓を”との常套句に沈黙しているシーンを見せるのがせいぜいです。軍隊そのものが存在することへの疑問なんか、あろうはずがない。

ということで、「ペンタゴン・ペーパーズ」というドラマチックな映画を再見した後にこの映画を見ると、実に平板なドラマに思えます。ケネディの死で大統領になったジョンソンを描きながら、なぜケネディの政策をすんなり継承したのかを描かなかったロブ・ライナー監督です。ランデイ記者の愛国心に疑問を挟むはずがない。しかしそれではW・ブッシュ政権からトランプに至るアメリカ政権の、私利私欲に主導された政治に対する批判などありえないわけです。

とりあえずこの作品は90分しかないのに、そこにストローベルと隣人リサ(ジェシカ・ビール)の恋愛ネタまで“お楽しみ”をいろいろ忍ばせています。そういう簡潔で明解な娯楽作だとは言えますが、イラク侵攻を娯楽にしていいのかと僕は思う。少なくともアメリカという大国が、それなりに民主的に選ばれた大統領を頂く国を崩壊させたわけですから。

その実情に迫らないで娯楽として楽しむのはいかがなものかと、僕は思います。とはいえその僕も、最近まではウィルソン大統領の国際連盟の精神を、ひとつの理想と考えていたわけですから、“おめでたい”のはアメリカのジャーナリストと同程度かそれ以下でしょうけどね。
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