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2019年09月10日12:21

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画質がいいと映画の内容が引き立つという見本に出会いました。ルイジ・コメンチーニ監督「ブーベの恋人」(1964)。

いつもの研究会で、だいぶ前から企画されながら諸事情で延び延びになっていた作品です。←たまたまということですけどね。そもそもクラウディア・カルディナーレとジョージ・チャキリス主演のこの恋愛劇を、僕は公開当時から軽視していました。カルロ・ルスティケリの主題歌が受けて、街中でガンガン流れていた時代の話です。

メモをひっくり返したところ、1964年9月20日に見ていました(当時17歳!)。友達と朝からヒッチコックの「マーニー」を見て(なんばロキシー、学生300円)、別の友達がその妹と来るのを待ち合わせして、午後の上映を見たしだい(なんば大劇場、学生320円)。当時は上映途中から入場するのが常識でしたが、待ち合わせもあったから前回終了間際にすべりこんで4人並びの席を確保した記憶があります。わりと混んでいたので、劇場の右後方でした。

なんば大劇場は70ミリ常設館でしたが、この作品は35ミリで、おまけにモノクロ。とはいえ、ビスタサイズのスクリーンはけっこう大きかったと覚えています。今回はマイミクさんの試写室での勉強会ですから、わりと小さいスクリーン。しかし、なのです。ブルーレイの画質が極めてよく、きちんと一コマずつリストアしてあるらしくテレシネの揺れが感じられない。これがまず見事でした。

ビスタサイズですが、サイズはアメリカン・ビスタ。どうやらパラマウントのイタリア支社が買い付けた作品ということで、アメリカ用のサイズにしたらしい。さらには音楽とSEがステレオなので、これには驚きました。音楽のオリジナル・サウンドトラックはステレオで残されているとしても、セリフはモノラルです。面倒なミキシングまでやり直したということですね。

で、驚いたのはカメラワークでした。基本的にマーラ(クラウディア・カルディナーレ、公開時25歳!)の顔をアップで追います。バストショットなどもあるのですが、基本的にパンしたりトラックで追いかけます。この動きの流麗さに唸りました。撮影は「81/2」のジャンニ・ディ・ベナンツォ。同時期にフェリーニ作品でカルディナーレをミューズの孤独とらえていますね。あれと似た感覚。

フェリーニ作品ではニーノ・ロータが“サーカス風の音楽”をつけて、作品を夢幻の世界へといざないました。こちらはマーラという二十歳前の少女から見た世界、という感覚です。だから連合軍の上陸は映すけど明確な年代は記しません。とりあえず1943年7月以降ですね。その後イタリアは国王を擁したパドリオ政権が南にでき、北部にドイツ軍が擁立したファシスト政権と対立します。

ブーベ(ジョージ・チャキリス)は、パルチザンとしてファシスト政権打倒のため戦っています。マーラの兄は敵につかまり銃殺されています。父親もパルチザンを支持しているのでブーベを温かく迎えますが、息子を亡くした母親はブーベとマーラの仲を喜ばない。そのあたりがマーラの姿中心に語られるわけで、当時を知る人には政治の動きまですべて見通せるわけです。

とはいえ、ルイジ・コメンチーニ監督の目的(それは同時にパラマウントの狙い)は、大衆に受ける娯楽作でした。だから甘い音楽を流してムードを盛り上げる。とはいえ撮影監督は、見事に登場人物とその時代を把握していました。2年前にテレビで見たときには、今回スクリーンで見るような迫力が感じられなかった。それは42インチテレビだったから、ということです。

スクリーンで、これだけ流麗な画像が展開したら、おまけに粗末な服の素材が、その粗い手ざわりまで感じ取れるうえに、2〜3年後の場面では着てている服の生地が、ずいぶん上質になっています。前回見たときもそのあたりまでは感じ取れていましたが、冒頭からのめくるめくカメラワークによって、今回はことさら感じ入ったわけです。マイミクさんに感謝!

マーラはブーベが裁判にかけられているころ、友人の紹介でステファノ(マルク・ミシェル)と知り合います。かなりの仲まで進行していたらしいのですが、マーラはやはりブーベを忘れられません。2週間に一度の面会に欠かさず通うマーラは、一度はシャツにして愛用していたのであろうブーベがくれたパラシュートの絹布を、スカーフに変えてまとっていました。

でも、マルク・ミシェルはこのあと「シェルブールの雨傘」でカトリーヌ・ドヌーブと結婚しますから、心配するには及びません。そもそも「ローラ」でアヌーク・エーメに振られたことをこの映画で語っているのなら、エーメを性悪女とこき下ろすのが許せない。そことはになおれ!

一方のカルディナーレは、「刑事」でニーノ・カステルヌオーボに人生を捧げる役でした。カステルヌオーボは警察に逮捕されますが、その車を追ってカルディナーレが走る場面がラストシーンでした。「ブーベの恋人」でも、ブーベが旅立つシーンでマーラが車を少し追います。このあたり、きちんと“踏襲しているな”とニンマリしました。カステルヌオーボ君は残念ながらカトリーヌ・ドヌーブをマルク・ミシェルに取られるわけですが、エレン・ファルナーがおれば十分じゃろ。何も「イングリッシュ・ペイシェント」で歌を披露することはなかったぞよ。

と、余はいろいろ物思いにふけるのであった。おつきあい、ありがとうございました。
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