mixiユーザー(id:62927979)

2020年03月20日21:32

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リングワールドを再考してみたら

 今日、ラリイ・ニーヴンの『リングワールドふたたび』を読んだ結果についてのつぶやきを見た。
 ほうと思って、自分でも計算してみたら、(少なくとも私にとっては)意外な事実が判明した。
 以下はその結果――

 リングワールドの基本定数は『リングワールドふたたび』巻末(ハヤカワ文庫版ではP541)に示されている。しかしマイル単位になっていて計算するのに少し面倒だ。本文と比較する上では便利であるが。

Wikipediaの「リングワールド(架空の天体)」
https://ja.wikipedia.org/wiki/リングワールド_(架空の天体)
も参照した。こちらはメートル法で示している。
 一応記事に計算間違いがないか検算してはみた。その結果多少数値の食い違いは出たが、まあ大体同じといってよい。

 さて、リングワールドの半径はほとんど1天文単位――厳密にいうと少し大きい――であるが、中心の恒星はG3型で、G2型の太陽より少し暗い、と設定してある。この半径で適切な温度になるだろうか。

 この問題を考えるには、順序としてダイソン球(の通俗的バージョン)についてまず考える必要がある。
 通常の惑星では断面積で受け取った太陽エネルギーを表面積で放出する。つまり入射面積の4倍の面積で放射することで一定温度を保っている。リングワールドの原形アイデアであるダイソン球では、内側の全表面積でエネルギーを受け、外側全表面積で放出する。入射面積と放射面積が等しいので、ダイソン球の表面は惑星と比べて単位面積あたり4倍のエネルギーを放射することになる。
 したがって太陽を中心にしたダイソン球の半径が地球の公転軌道と等しいなら、表面温度はシュテファン・ボルツマンの法則から、絶対温度で4^(1/4)=2^(1/2)=√2倍になる。これは地球の表面温度290Kの1.4倍だから約400K≒130℃であり、ハビタブルな環境ではなくなってしまう。
 だからダイソン球は単位面積あたりに受けるエネルギーを地球の1/4にしなければならない。常識的な解決策は半径を2倍にすることだろう。
 私はこの事実をA.T.ウルベコフ『宇宙移民計画』(ブルーバックス1986年)のP113で知ったのだが、未だに知らない人が多いと思う。Wikipediaで
https://ja.wikipedia.org/wiki/ダイソン球
を見ると、福江純教授の「ダイソン球の熱収支」
http://quasar.cc.osaka-kyoiku.ac.jp/~fukue/POPULAR/99ce/advance/dyson/dyson0.htm
にリンクされているので気づいた人もいくらかはいると思われるが。
 ましてや『リングワールド』が書かれた1970年代にはSF作家でもほとんど気づいていなかったらしく、この点に注意喚起したSFを見た記憶がない。

 ダイソン球についてはこの通りであるが、ではリングワールドの場合はどうなるだろうと思い当たったわけである。ここからが本題だ。
 リングワールドは局所的に見ると平面なので、一見して単位面積当たりの入射と放射の関係はダイソン球と同じように思われる。しかし、だからリングワールドも半径2天文単位でなければならないかというと、必ずしもそうとはいえない。
 ダイソン球は閉じた曲面であるから、内表面から放射されたエネルギーは内表面が全て受け止めることになる。だから放射する面積は外表面しかなく、入射面積と放射面積が等しくなるわけだ。しかしリングワールドは大きく開いているので、内面からの放射はほとんど宇宙空間に逃げていく。ということは表と裏の両面から放射できることになるから、放射面積は入射面積の2倍になるはずである。
 ただし放射エネルギーのごく一部はリングワールドそれ自体によって受け止められる。(作中で夜間にリングワールドの内表面が天空のアーチとなって見えるのはその結果であるといってもいい)
 だから厳密には放射面積は入射面積の2倍より少し小さくなるはずなのだが、正確なところはどのくらいになるだろうか。気になるのでちょっと確かめてみよう。
 上記資料に基づき計算すると、

リングワールドの半径:0.95×10^8マイル≒1.52×10^8km
幅:99万7000マイル≒1595200劬1.6×10^6
表面積:2π×1.52×10^8×1.6×10^6=1.5×10^15^2

(同じ半径の)ダイソン球の表面積:4π×(1.52×10^8)^2=2.9×10^17^2

リングワールドの表面積/ダイソン球の表面積≒0.005

 よってリングワールドの放熱面積は表面積の1.9995倍となり、ほとんど2倍。放出熱の内表面での再吸収は無視できる程度と確認できた。(直観的にほとんど明らかだったが)

 この結果により、リングワールドは入射面積の(ほとんど)2倍の面積で放射しているので、惑星の場合と比べて単位面積当たりの放射エネルギー量が2倍とわかった。したがって地球と同じ環境にするためには、半径を√2倍の1.4天文単位にしなければならない。

 もしリングワールドを半径1天文単位にしたら表面温度は2^(1/4)≒1.2倍になり、約350K=77℃だ。
 水が沸騰するほどの温度ではないが、やはり地球生物の生存には過酷な環境になるだろう。というより、この温度で地球と同程度の海陸比なら確実に暴走温室効果が起きるはずで、やはりハビタブル環境ではなくなるだろう。
(いや、海の水量をどの程度にするかによって変わってくるか。初めから海を少なくすればなんとか持ちこたえるかもしれない。いずれにせよ、こういう温度環境を設計する方がどうかしているが)

 ……と思ったのだが、実はニーヴンのリングワールドには夜がある。これは軌道上の遮光板によるもので、これによって常識通り昼と夜の時間が同じになるように作られている。
 ということはリングワールドの内側表面で太陽光線が当たっている面積は全表面積の半分になるわけだ。
 したがって入射面積と放射面積の比は0.5:2=1:4となり、惑星の場合と同じ。

 ほう……これは気がつかなかった。ダイソン球の半径は地球の公転半径の2倍にしなければならないのだが、リングワールドは――少なくともニーヴンのバージョンでは――半径は地球の場合と同じ、1天文単位になる。ニーヴンの書いた通りで良かったわけだ。

 ただし少しだけ気になる点がないでもない。ここまでの計算では中心天体を太陽として考えたのだが、ニーヴンの設定では中心の恒星はG3型である。ここからするとリングワールドの半径を1天文単位より小さくする必要がある。(『リングワールド』P130に、表面温度平均290Kとあるので、熱環境は地球と同じでなければならない)
 しかしG3型恒星の明るさの詳しい資料が見つからないので、どのくらい小さくすればいいのかすぐには分からない。この件はとりあえず不問に付すしかない。

 それにしても、今計算してみるまで、リングワールドもダイソン球と同様、半径2天文単位にしなければ表面温度が地球と同じにならないと漠然と思い込んでいた。
 計算してみるものだなあ。

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コメント

  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年03月20日 23:00
    書いている途中で、去年の『天獄と地国』の日記を思い出した。あの長編ではリングワールドの半径が2天文単位になっていたのだが……小林先生、もしかしたら私と同じ勘違いをしていたのではないだろうか。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年03月20日 23:07
    『天獄と地国』のリングワールドに遮光板があるかどうか分からない(描写がない)。しかしあったとすれば半径は1AUでいいはずだし、なかったとしたら1.4AUでなければならない。どちらにしても半径2AUにはなり得ない。リングワールドとダイソン球の熱収支が同一だと思い込んでいたとでも解釈しなければ辻褄が合わない。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年03月23日 07:20
    「リングワールドふたたび」小隅黎翻訳版ではリングワールドの恒星はG2型になっていますね。(序文10P)ラニィ・二ーブン自身の書いた献辞では最初にリングワールドを発表した後に多くの科学者からの反響が多くあり、その中にフリーマン・ダイソンからの手紙もあったと紹介してありますね。ダイソンはリングワールドの実在を肯定しつつも、「こんなものではなく、もっと小さいのを数多くつくらなかった理由が解せない」とラニィ・二ーブンに歯に衣着せず述べたそうです。ほっとした顔いいなあ、(二ーブンにはリングワールドの作劇のプロットから巨大なリングが必要だった…)おそらくダイソンもリングの回転速度について承服できないと考えたと思います。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年03月23日 07:27
    ダイソンスフェアの熱の問題ですが、球殻と惑星の様な球体との放熱効率も考慮に入れる必要があると思います。単純に体積に対する表面積が大きい球殻の輻射による熱の放出は球体の惑星よりも大きいですし、そもそも、惑星には高熱を蓄えるコアが存在していますので単純比較は成り立たないと思います。
    ダイソンスフェアにも遮光器を取り付け回転軸の両極に大きな放熱孔を開ければ何も地球が太陽から受ける輻射熱エネルギーと同じ軌道から2倍に遠ざける必要はないと思いますよ。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年03月23日 07:31
    やはりネックになるのは、あまり大きなダイソンスフェアにしてしまうと自転速度が大きくなりすぎて公転軌道速度からの加速が出来ず1Gの慣性重力を得られない事ですね。こうなると地表面の大気圧が低くなりすぎて生物の活動に障害がおきます。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年03月23日 20:57
    > mixiユーザー リングワールドの素材はクラークの第三法則言うところの「魔法」の技術ですから、プロの物理学者が現実的なアイデアではないというのは仕方のないところですね。
    なお遠心力で重力を作る構造物の中では、クラークの『宇宙のランデヴー』のラーマは、既知の物質で建造可能なサイズに設定されているそうです。
    しかし今宇宙エレベーターの素材に考えられているような素材を使えば、ラーマよりも大きなサイズのスペースコロニーを作る事も可能でしょう。
    そうすると、現在考えられている範囲の物質を使って作れるリングワールドの上限サイズを考えてみるのも面白そうですね。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年03月23日 21:15
    > mixiユーザー 惑星の熱収支については、『一般気象学』のような標準的教科書にある通りに考えました。もちろん気象学や地球物理学の教科書にダイソン球は出てきませんから、単純に比較できるかどうかあやしい点もあると思いますが、ダイソン球の半径が2AUになるという点については、福江純教授のサイトにも同じ結果が示されていますから、基本的には合ってると思います。
    ただ気になるのは、シンプルな固体球殻のダイソン球と、より現実的な小天体の集合体として構築されたダイソン球(WikipediaではこのタイプをDyson swarm と読んでいるらしい)で熱収支に違いが生じないかどうかという点で、これは私にはよく分かりません。小さな球体が集まって全体として球殻を作るとした場合、個々の球体の熱収支は惑星と同じになるのだろうか、それとも全体としての熱収支は固体球殻ダイソン球の場合と同じになるはずだから、その部分である個々の球体も、全体と同じ熱収支になるのだろうか。物理的イメージが浮かばなくて分からないのです。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年03月23日 21:29
    > mixiユーザー ダイソン球に放熱口もしくは放熱板を設けた場合についても考えると、結果がいろいろ変わってきそうですね。
    ニーヴンのリングワールドについても、底面全体に平面リング状の放熱板を付ける事を思いつきました。帽子のつばのようなものを底面の中央部にはめるわけです。これだと放熱板の面積をかなり自由に変える事ができるので、放熱効率を高めることで半径の小さなリングワールドも作れそう、という感じがしています。

mixiユーザー

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