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2016年10月05日22:19

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算数でわかる(範囲の)エウロパ水蒸気噴出問題

(タイトルは例によって、D・フライシュ/J・クレグナウ『算数でわかる天文学』のパクリ(違)リスペクトである)


 9月27日、エウロパ上で水蒸気噴出が観測されたとNASAが発表した。
 この間欠泉の成因はイオ、エウロパ、ガニメデが周期的に並ぶ事による潮汐効果らしいのだが、この効果はどの程度の大きさなのか。計算してみた。

 Wikipedia先生によると、イオ、エウロパ、ガニメデの公転周期には1:2:4の関係がある。これを平均軌道共鳴(ラプラス共鳴)というらしい。
 つまりガニメデが1周する間にエウロパが2周、イオが4周するので、ガニメデの一公転に一回、三つの衛星が揃う。いいかえるとエウロパの2公転に一度である……はずなのだが、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BB%8C%E9%81%93%E5%85%B1%E9%B3%B4
にある動画を見るとそうなっていない。実際はもう少し複雑のようだ。だがともかく、その立場で簡単に見積もってみた。

 エウロパが受ける潮汐力は以下の数値から計算できる。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%A8%E6%98%9F%E3%81%AE%E8%A1%9B%E6%98%9F%E3%81%A8%E7%92%B0#.E8.A1.A8
フォト


 この表を使うとさらに計算が簡単になる。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%A8%E6%98%9F#.E6.9C.A8.E6.98.9F.E3.81.AE.E8.A1.9B.E6.98.9F.E3.81.A8.E7.92.B0
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 これらの数値をエウロパについてまとめてみると、
木星からの距離:67万10^34辧畄遒竜離の1.75倍。
木星の質量:1.8986×10^27kg=地球の317.8倍
エウロパの半径:1561辧畸狼(約6370)の0.245倍
エウロパの質量:4.8×10^22圈畄遒0.65倍(地球の質量=5.972×10^24 kg、月の質量=地球の0.0123倍)
となる。ここから、

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となり、エウロパが木星から受ける潮汐力は大体地球の潮汐の10倍弱と出た。

 これで合っていると思うが、念のためもう少し普通の代数で検算してみる。(なにしろ天文学の演習書はほとんどないので、問題の「解答」が存在しない。出した答が正しいのかいつも不安になるのだ)
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この式の最後の積は月についての式と同じなので、
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を考えると打ち消し合って、
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だけを考えれば良いことになる。これで、最初の比例だけの計算で大丈夫と確かめられた。
右辺の式は、(木星の重力による項)と(エウロパの重力による項)からなっている。割り算する前の式だと、
(木星の重力による項)×(エウロパの重力による項)×(T_e:地球上の潮汐力の項)
ということになる。
一応最後まで計算すると
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となり、当然同じ結果になる。ただし各項の桁数に注意しないと値が変わったりする。

 次にエウロパに対するイオとガニメデの潮汐力を考える。
T_J=エウロパが木星から受ける潮汐力
T_I=エウロパがイオから受ける潮汐力
T_G=エウロパがガニメデから受ける潮汐力
について、
フォト

エウロパとイオの最接近時の距離も考えると、この場合のイオの重力に関する項は
0.0148/(1.75-1.1)^3
となる。エウロパの重力に関する項はもちろん同じだから、計算はイオの重力に関する項だけ考えればいいことになる。そこで
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 これを使って整列時における潮汐力の合計を求める。
 イオ:エウロパ:ガニメデ=1:2:4の周期、つまりガニメデが1周する間にエウロパが2周、イオが4周するので、ガニメデの一公転に一回、三つの衛星が揃う。いいかえると、
エウロパとイオが整列:エウロパの1公転に2回。
エウロパとガニメデが整列:エウロパの2公転に一回。
(実際にはこうなっていない――後述――が、今は一応これに準じて考える)
ここから、
t 0=イオ-エウロパ−ガニメデの(木星から見た)会合
t0.5=エウロパが軌道を半周・イオが1周してエウロパと反対側・ガニメデが1/4周
t1¬.0=エウロパが1周・イオが2周してエウロパと会合・ガニメデが半周してエウロパと反対側
t1.5=エウロパが1周半・イオが3周してエウロパと反対側・ガニメデが3/4周
t2.0=エウロパが2周・イオが4周・ガニメデが1周して三つの衛星が会合
すなわち、
t_0:イオ-エウロパ−ガニメデの会合
t_1:イオ-エウロパの会合
t_2:=イオ-エウロパ−ガニメデの会合
という周期になる。よって各時点での潮汐力は、
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それ以外では9.443倍程度、という繰り返しになる。

 ということは、潮汐力の変化は木星が恒常的に与えている量(9.443T_e)の0.13%程度でしかない。
 こうやって計算してみると、非常に僅かな変化に見えるのだが……エウロパの重力加速度と比較してみたらどうなるだろう。
 これは前に計算したことがある。国際宇宙ステーションに働く潮汐力を計算したのだったな。どうやったんだったか。
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とした。結果として出た値の単位は[m]÷[m]で無次元、よって確かに潮汐力を地球重力に対する比で求めたことになる。
これを木星とエウロパの関係に当てはめると、
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 これをエウロパの重力で割りたい訳だが、以前の計算の通りにやると木星の重力で割った値になる。
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(注意:g_Jaは木星の「表面重力」ではなく、エウロパの公転軌道での木星重力の加速度である)
 ここからエウロパの重力に対する比を求めるが、g_Jaとg_Eの比をとればいいだけなので簡単だ。
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(エウロパの表面重力は1/7.5G。月が約1/6Gだから、エウロパ重力は月の約80パーセントになる。ところで『2010年宇宙の旅』のラストではエウロパの氷が溶けて大気と海のある世界が生まれたが、こんな低重力で空気が留まるものだろうか。これはこれで計算すべき問題だ)
 余談はさておき、
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木星の潮汐力はエウロパの表面重力の約0.1パーセントという結果が出た。
 地球でいえば落下の加速度が1センチメートル毎秒毎秒変化する程度だ。イオとカリストの会合による潮汐力の変動は、このさらに0.0013倍なので表面重力の10^-6倍で0.0001パーセント程度。加速度変化は10マイクロメートルの桁になる。これではよほど精密に測定しないと分からないだろう。
(この計算では、エウロパの半径R_Eは木星とエウロパの中心を結ぶ直線上で測った長さになっている。地球でいえば大潮の時の位置で考えているわけだ。エウロパの両極の方向に進むと潮汐力はさらに減少し、極点で最小になる。この変化も簡単な式で表せるが省略)

 という訳で、衛星の潮汐力「そのもの」によるエウロパの加熱はあまり考えられなさそうという結果になった。

『惑星地質学』(東京大学出版会2008年)p195-196によると、エウロパの潮汐加熱は、衛星の引力でエウロパの軌道離心率が変化し、それによって木星との距離が変化することで引き起こされる。つまりあくまで木星の潮汐力の変化による影響である。計算すると木星がエウロパに及ぼす影響は他の二つの衛星の影響より1000倍も大きいので、これは当然の結果といえる。
 イオ・エウロパ・ガニメデの三衛星は公転周期が1:2:4の共鳴状態になっている。しかしこれは衛星が時計の針のように常に同じ位置で会合することを意味しない。衛星同士が接近し合うと引力によって軌道が変化し、それによって公転周期も変化するからだ。ただし衛星の離心率は大小一定の幅の範囲内で変化するので、その結果を平均するとほとんど1:2:4の関係を保っているらしい。これはこれで造化の妙といえるだろう。
 つまり潮汐加熱の原因は、この(一定の範囲内での)離心率の変化ということになるが、どのくらいの幅で変化するのかを求めるのは天体力学の摂動計算になり、自分の能力を超える。


 とりあえず大雑把な見当だけつけておこう。イオの潮汐加熱はエウロパと同じメカニズムによるが、火山を噴火させるほど強い。ではどのくらい強いのか。
 最初に引用した表から、イオの公転半径はエウロパの約63%になる。またイオの質量はエウロパの1.85倍。ただし半径は1.17倍で大体同じ。ここからイオの受ける木星の潮汐力はエウロパの約8.7倍と出る……そんなに大きくないように見えるが、エウロパの潮汐力が月の約9.4倍だから、イオの場合は月の潮汐力の約82倍。
 これは平均距離の話で、イオの離心率は0.0041。木星との距離は42万劼ら43万3400劼泙琶儔修垢襦この変化はわずか1%程度だが、これによる潮汐力の変化は見かけほど小さくない。
平均距離42万1700劼魎霆爐砲垢襪函近日点で0.996倍、遠日点で1.03倍なので、潮汐力は1.012から0.915まで、すなわち月の潮汐力の83倍から75倍まで変化する。……こうしてみると、確かにかなり大きな変化のようだ。
 エウロパについても同様に考えてみると、公転軌道は66万4862劼ら67万6938劼泙琶儔修掘∧振儺離は67万1034辧△世ら軌道の変化は0.99から1.01で潮汐力の変化は1.03から0.97。すると月の潮汐力の9.72倍から9.16倍になる。エウロパの潮汐力変動の幅はイオより一桁小さい。
 こうして見積もってみるとイオの潮汐力変化は確かに大きい。比率的にはごく僅かな変化でしかないが、変動の絶対量を見ると衛星を溶岩の海に変えるのも納得できる気がする。
 エウロパの場合はそこまで大きな変化ではないが、エウロパの地殻は氷なので岩石より融点が低く、イオより僅かな潮汐力でも表面が融けたり変形したりすると期待されていたそうだ。(『惑星地質学』p200)
(という訳で、今回の水蒸気噴出は以前から予想されていたことになる。こうしてみるとNASAが「驚くべき発見」と称したのは、いい発表の仕方ではなかったと思う。専門家には意外ではなく、かといって一般人にはなじみが薄い。興味を持ちにくいニュースだったろう)


 ここからさらにエウロパの潮汐変形の計算まで行きたいところだが、「算数でわかる」のはここまで。

FNの高校物理「惑星の衛星に働く潮汐力(月とイオの場合)」
http://fnorio.com/0144modification_by_tidal_force/modification_by_tidal_force.html
にイオの潮汐変形の計算がある。先に進むのはそれを読んでから、ということで。

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