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2016年03月13日21:24

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私はどれだけ被曝したか(1)

昨日、つぶやきのコメント欄で「原発事故であなたはどのくらい被曝したか」という意味の質問を受けた。コメントでは答えたが、その背景となる計算の説明まではできなかったので、ここに書いておく。

元々これは、2011年秋に知人宛てメールのために計算したものである。あの頃はみんな今後の生活が心配だった。「放射能を心配する生活をいつまで続ければいいのか」この疑問は個人的にも切実だったので、計算して見当をつけることでずいぶん気持ちが軽くなった。
たぶん他人にとっても無意味な情報ではないだろう。今後また原発事故が起こった時、有用になるかもしれないからだ。そうなった時、また政府からは正しい情報が発信されない可能性があるから、「素人の一般人が少ない情報でどれだけの判断をしたか」の一例として一興ではないかと思う。

(以下は、2011年9月に友人に送ったメールの一部である。プライベートな部分を削除し、線量計算に関する部分だけ残してある。最初に送ったメールには計算間違いがあったので、後日訂正を送った内容も組み入れてある。)

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さて、原発事故があってからずっと考えていたのは、今後の放射線量の推移はどうなるのか、累積線量がどの程度になるのか、ということでした。しかし今までに出た情報は断片的で、特に自分が最も必要とする情報、つまり環境中にある放射性核種の種類とその存在比がわからなかったため、計算しようがなかったのです。

しかし、8月末に文科省が放射線量の分布マップを公開したことで、なんとか見当をつけるくらいの計算ができるようになりました。

参考資料は以下のとおりです。

1.文部科学省による放射線量等分布マップ(放射性セシウムの土壌濃度マップ)の作成について
http://radioactivity.mext.go.jp/ja/distribution_map_around_FukushimaNPP/0002/11555_0830.pdf

2.土壌の核種分析結果(セシウム134、137)について
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/gijyutu/017/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2011/09/02/1310688_1.pdf

3.(文科省のサイト:資料2へのリンクのあるページ)
放射線量等分布マップの作成等に係る検討会(第7回)配布資料
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/gijyutu/017/shiryo/1310688.htm

原子力資料情報室(CNIC)
4.放射能ミニ知識11.セシウム-134(134Cs)
http://cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/12.html

5.同、放射能ミニ知識12.セシウム137
http://cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/13.html

6.田崎晴明:放射線と原子力発電所事故についてのできるだけ短くてわかりやすくて正確な解説
http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/housha/

7.セシウム137とセシウム134
http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/housha/details/Cs137vs134.html
(6内の関連記事)


以下の計算では、主に資料(2)と資料(7)を基にしています。

まず、現在環境中にある放射性物質がほとんど放射性セシウムだけであることはご存じのことと思います。(事故直後に放出された放射性ヨウ素は、現在では放出時の500万分の1程度という、無視できるレベルまで下がっている)
問題はセシウムの中に半減期の違う2種の同位体が含まれていることです。

資料(4)によるとセシウム134の半減期は2.06年、資料(5)によるとセシウム137の半減期は30.1年となります。この半減期の長いセシウム137が大問題になっていることは周知のことですが、2種のセシウム同位体の環境中の存在比についてはあまり報じられてきませんでした。

しかし実際には、セシウム134と137の存在比率は、今後の放射線対策に決定的な影響があります。
半減期30年のセシウム137が10分の1に減るには約100年かかりますが、セシウム134が10分の1に減るには6年半しかかからないからです。もしセシウム134の存在比がセシウム137よりも多ければ、除染などの対応はそれだけ楽になるわけです。

そこで調べてみると、前掲のサイトを見つけることができ、今までできなかった計算ができるようになったわけです。

まず、半減期から、任意の年数が経過した後に放射線量がどう減少するかを求めます。

1/2=2^−1、1/4=2^-2

ですから、

1/10≒2^-3.3

のようになり、元の線量が10分の1になるには、半減期の3.3倍の年数が経過すればいいことになります。

半減期が2年のセシウム134なら、1年後の線量の減少率は、

2^(−1/2)=1/√2=0.707

となります。つまり2年後の減少率は

2^(−2/2)=1/((√2)^2)=1/2

と表せますから、3年後の減少率は

2^(−3/2)=1/((√2)^3)≒0.35

t 年後の減少率は

2^(−t/2)=1/((√2)^t)

と計算すればいいことになります。同様にして、半減期30年のセシウム137の減少率は

2^(−t/30)

で計算できます。

ここで、セシウム134と137の存在比が問題になります。資料(7)によれば、

「今回の福島原発の事故で放出された〔セシウム134と137の〕比は、(放出直後には)ほぼ1に等しい。土壌の調査でも、海水の調査でも、ほぼ1という結果が出ている

とあり、両者の質量はほとんど同じで化学的性質も同じなので、拡散の仕方も変わらない、つまり土壌中に同じ分量だけ含まれるようになったと考えていいはずです。

そして事故から半年たった現在、半減期がより短いセシウム134は放射性壊変によって減少し、セシウム137より少なくなっているはずです。

半年は2年の1/4ですから、セシウム134の現在の量は、最初に比べて、

2^(−1/8)=0.917

と、ほぼ1割減っているはずです。
資料(2)の表を見ると、セシウム134と137の比はどの測定地点でも、だいたい0.9:1になっているので、この考え方は妥当と言えそうです。

そこで、事故後6か月たった現時点をt=0年とし、セシウム134と137の量を合わせると、全体としての減少率は、

(0.9/1.9)×2^(−t/2)+(1/1.9)×2^(−t/30)

と表せるような気になります。
(本来なら事故の時点をt=0とすべきですが、その場合ヨウ素131の減少率も加味しなければならなくなり面倒なので、放射性ヨウ素がほぼ存在しなくなった現時点を原点にとります)

ところが、資料(7)によれば、セシウム134とセシウム137では、

放射性物質の量(ベクレル単位)が同じであっても、放射線の強さ(シーベルト単位)は同じではない

というので、上の式は間違いになります。

詳しいことは(6)全体を読んで勉強しようと思っていますが、さしあたって(7)に書かれた結論だけを言えば、

二つの元素の放射線の強さは、同じ量があれば、

セシウム134:セシウム137=2.7:1

となります。(半減期が短い同位体はそれだけ崩壊が激しいから、放射線も強いということ)

このことを考慮に入れると、シーベルト単位でのセシウム134と137の比率は、

(0.9/1.9)(2.7/3.7):(1/1.9)(1/3.7)=(2.43/7.03):(1/7.03)=0.35:0.14

となるので、

t=0における放射線量を1とすると、
セシウム134とセシウム137の比率は、ほぼ0.7:0.3となります。

よって、t=0から測った放射線の減少率は、

0.7×2^(−t/2)+0.3×2^(−t/30)

で表されます。

……

(この先に計算間違いがあって訂正メールを送っている。以上は事故によって環境に追加された線量についての減少率なので、正しく線量を評価するには元々環境にあった自然放射線の線量を含めて考えなければならない。以下は訂正した内容)

……

現在の線量はだいたい0.15〜0.2マイクロシーベルト/時ですが、以前講演を聞いた大妻女子大の先生によれば原発事故以前の自然放射線量は0.04マイクロシーベルト/時だったそうです。
現在の線量を多めに見て0.2マイクロシーベルト/時としましょう。このうち0.04マイクロシーベルトが自然線量ですから、事故によって追加された線量は0.16マイクロシーベルト/時になります。セシウム134の線量はその7割ですから、0.112マイクロシーベルト分を占めています。セシウム137の寄与は3割だから0.048マイクロシーベルト/時です。
以上から、線量を表す式はこうなります。
(0.7×2^(-t/2)+0.3×2^(-t/30) )×0.16+0.04 (μSv)
これは上限値です。下限値を求める場合は総線量を0.15マイクロシーベルト/時として計算するだけです。その場合セシウム同位体の寄与は0.11マイクロシーベルトとなるので、
(0.7×2^(-t/2)+0.3×2^(-t/30) )×0.11+0.04 (μSv)
となります。
最初に、セシウム134は半減期の3.3倍の時間で10分の1に減ると書きました。半減期は2年ですから、これは約6年半になります。仮にセシウム137が全く減らなかったとすれば、6年半後には線量は0.0112+0.048+0.04=0.0992≒0.10マイクロシーベルト/時以下になるでしょう。もちろんセシウム137も減少しますから、実際の線量はさらに低くなるはずです。

より正確な結果を得るため、上の式をエクセルで計算してみました。
t=0は事故から半年後の9月上旬とします。ここではt=0の線量は役場で測定された値を基準にとりましたから、厳密には場所によって補正する必要がありますが、たまたま自宅は役場に近いので、そのまま評価に使うことができました。

フォト

測定値の桁数を基準にすると有効数字は3桁なので、下限値では2年、上限値でも4年で規制値の年間1ミリシーベルトを下回ることが分かります。幸運だったのは、福島県は元々国内でも自然線量が低い地域だったことで、おかげで汚染の少ない地域が規制値以下に下がる時間が比較的短くてすんだわけです。
ただしその後はセシウム137が主な線源となるため、線量低下のペースはごく緩やかになり、20年経っても事故前のレベルの1.5倍程度までしか下がらない。年間1ミリシーベルトはこの地域の自然線量の約2.8倍なので、放射性物質が2倍以上濃縮されたホットスポットがあれば、何十年経っても注意が必要になることが分かります。

(実際には、現在も福島第一原発からはいくらか放射能が放出されているわけですが、これは事故初期に放出された量と比べて微量と見なし、考慮していません。今後のデータの公表いかんによっては、考えに入れる必要が生じるかもしれませんが)

(注意:食品の規制値はベクレル単位ですから、シーベルトで考えた結果がそのまま使えるわけではありません。可能なら専門家に確認していただきたいと思います)

なお資料(6)にはシーベルトとベクレルの関係についての記事もあります。たしか食品の規制値はセシウム137を基準にしていたはずです。

もうひとつ考えておきたいことは現在までの、また今後の累積線量ですが、これについてはヨウ素131の減少量も考慮に入れなければならないので、少しやっかいです。それなりの積分も必要になってきますし。

……

その後、ヨウ素131の放出量の推定は何種類か出たが、どれが正しい値なのかは今も決着していない。そこで累積線量の計算は2011年9月以降に限定することにして、それ以前については後日を期すことにした。

字数オーバーしたので、実際の計算は続きで。

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