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2015年09月24日01:53

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メスクリンの地図を考える(2) 右往左往編

 あ、ありのまま今日起こったことを話すぜ! これは昨日一度書き上げてアップしたものだが、書いたあとで間違いに気づいたのでいったん削除し、まる一日かけて書き直したら、間違いに気づいたと思っていたのは間違いで、間違いと思っていた方が正しかったという結果に。な、何を言ってるのかわからねーと思うが(以下略)

 しかし間違いそのものから学んだこともあるので、恥を忍んでまた上げておくことにする。クイーン・エメラルダスの顔の傷跡みたいなものと思って頂ければ幸いである。

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 さて続きである。
 本題に入る前に、前回上げ忘れた「宇宙船」5号の表紙を上げておこう。「宇宙船」は今でも続いているが、仮面ライダーやスーパー戦隊が中心になっている今の雑誌しか知らない読者は、初期の号にこんな記事があるとは想像もしていないだろう。活字SFが今よりずっと身近だった時代ではあった。
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 まずは地図を考える上で基本的な情報として、旅の行程の長さはどのくらいか、言い換えると、メスクリンという惑星はどのくらいの大きさなのか確認しよう。

 メスクリンの基本的なサイズは「メスクリン創世記」に書いてあるとおり、
「赤道直径は四万八千マイル。自転軸にそった極から極までの距離は、(略)一万九千七百四十マイル」(1)
である。
(クレメントが一貫してマイルを使っているので、ここでもそれに倣う。いちいち換算していたのでは計算間違いの元だから)

 クレメントはメスクリンを回転楕円体としているが、これには問題がなくもない。回転する天体が遠心力でどう変形するかを求めるのはかなり難しい問題だからだ。クレメントはメスクリンの質量が中心に集中していると単純化して形を求めているが、実はこの仮定に従うと、惑星はメスクリンほど扁平にならないことが分かっている(2)。具体的には縁の尖ったレンズ状になり、扁平度もクレメントの設定より厚ぼったくなる。この事実は非常に面白いのだが、今やりたいのはストーリーに即してメスクリンの地図を描くことなので、ともかくクレメントが描いたとおり平たい回転楕円体として考えることにしよう(3)。

 そこでまずメスクリンを自転軸にそって切った断面、きりが良いように短半径1万マイル、長半径2万4千マイルの楕円を考える。
惑星上の行程はどうなるか? これは楕円の周の長さを測ることになり、かなりやっかいだ。幸い、ここでもクレメントが具体的な数値を示してくれている。

(赤道から南極までの距離は)カラスの飛行でも(直線距離にして、の意)三万マイル以上。(4)

 この数値は割と簡単に確かめることができた。メスクリンの場合のようにつぶれた楕円の周長は以下のケイリーの公式で求められる(5)

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a=2.4、b=1として計算すると、P=4a×1.160=11.136。
 つまりメスクリンの経度に沿った周長は約11万マイルになり、赤道から南極までは約27800マイル。なるほど約3万マイルになるわけだ。本文では三万マイル「以上」となっているのは、クレメントの計算ミスだろうか。ひょっとしたら誤訳かもと思ったので、念のため原文に当たってみた。

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2014年、イギリスのゴランツ社発行。おそらく最新の刊本。ただし「メスクリン創世記」は収録されていない。

>カラスの飛行でも、三万マイル以上。

の原文は、

Thirty-odd thousand miles as the crow flies,(6)

で、「三万マイルあまり」になるので、翻訳のとおりで合っている。よってクレメントの計算ミスか、それとも公式を参照したサイトに誤記があるかのどちらかだが、今のところは不明。

 少し話がそれた。ここまではいいが、地図を描くには任意の緯度間の楕円弧の長さが必要になる(分からないと縮尺も与えられない)。きちんど求めるには楕円積分を計算しなければならないが、これは相当難しい(7)。さすがにちょっと計算するというわけにはいかないので、もっと簡単に見積もれないか考えてみる。

 楕円の近似的作図といえば、大小二種類の円を使って近似する方法がある(8)。それだと図のどの部分も円弧になるので計算は楽そうだ。しかしこの方法は紙の上で作図する分には簡単だが、計算でPC上に描くとなると大して簡単にもならない。そこでさらに考えてみた。

 あちこち調べてみたら、曲率円を考えると楽そうだと分かった。
 メスクリン断面図の赤道部分の曲率で曲率円を描くと、この円の半径は以下の非常に簡単な式で与えられる(9)。
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 メスクリンの場合、r=1/2.4=0.417万マイル=約6720辧C狼紊糧招造約6370劼覆里如偶然だろうがかなり近い数値になっている。

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 単位1万マイル。青はメスクリンの断面で赤は曲率円。赤い円の大きさは地球とほぼ同じ。

 ここから面白い事実が分かる。「メスクリンの赤道上では、南北方向の曲率は地球とだいたい同じ」だということだ。したがって地平線の見え方も地球と同じになるだろう
 もちろん東西方向では事情が全く違う。メスクリンの赤道半径は地球の6倍もあるのだ。しかし今回はかえって好都合になる。メスクリンの表面は地球より平面に近いことになるから、地図にするため平面に展開しても歪みが少なくて済むことになる。
 エクセルで作図してみると、曲率円を地球とみなすと北緯45度くらいまではメスクリンの断面とほとんど接して見える。ということは、この辺の緯度までは円筒図法で展開しても問題ないということだろう。おなじみのメルカトル図法を見ても、この範囲ではあまり地形が歪んでいないように見える。(10)

 Wikipediaにはメルカトル図法で緯度によって距離がどのくらい歪むか示した図がある。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%AB%E3%82%AB%E3%83%88%E3%83%AB%E5%9B%B3%E6%B3%95#/media/File:Tissot_mercator.png

 赤い円はテイソーの指示楕円といい「地球上の同じ大きさの円をメルカトル図法で投影したもの」である。図上で測ってみたら、緯度30度の指示楕円は赤道上と比べて1.2倍程度しか拡大していなかった。60度での指示楕円は赤道での二倍ほどにもなるので、メルカトル法では面積がほどほどに正確に表されるのはせいぜい40度か45度あたりまでと考えていいだろう。この辺りまではメスクリンの曲率円が適用できる範囲に収まりそうだ。
 作中の描写を手がかりにする以上、方位を正確に表現できる図法でないと困るわけだから、赤道付近はメルカトル図法で表すのが適当だろう。

 といっても実際には球帯ではなく楕円帯を展開するわけだから、本当はメルカトル図法ともいえない。この条件に合わせた図法があるわけもないから、疑メルカトル図法とでもいうべきか(11)。どうせ描写の範囲では精密な地図を作りようもないのだから、今はそのくらいで妥協しておく。ともかく何らかの円筒図法が適切であることは間違いない。

 これで赤道地帯は円筒図法で表せると分かった。高緯度を表すには別な図が必要になる。平たい楕円体だから当然、南極を中心にした図法だろう。

Wikipedia「地図投影法の一覧」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%B0%E5%9B%B3%E6%8A%95%E5%BD%B1%E6%B3%95%E3%81%AE%E4%B8%80%E8%A6%A7
で検討したところ、平射方位図法が適切らしい。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AC%E3%82%AA%E6%8A%95%E5%BD%B1#.E5.9C.B0.E5.9B.B3.E5.AD.A6

 考えてみれば、低緯度を円筒図法で、両極を平射図法で描くのは、NASAなどの惑星地図で普通に採用されている方式である。「惑星」の地図なのだから、こういう結論になるのは当然至極だったなあ。

 Wikipediaによると平射図法はヒッパルコスが既に使っていたそうである。古代に使われていたくらいだから作図は大して難しくないわけだが、メスクリンの場合は楕円体の射影だから、球面の場合よりずっと大変になるだろうと思った。しかし実際やってみると、ごく簡単にできてしまった。
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 回転楕円体は自転軸に対して対称だから、一つの経度にそった楕円を考えればすむ。ここで考えているのは南半球なので、図の楕円は上を南半球とする。北極Nから楕円上の点Pに線をひき、PNとx軸の交点をP’とする。これで楕円上の点Pがx軸上の点P’に射影されたことになる。長さOP’で同心円を描けば平射図法による南半球の緯度が描ける。
 OP’の長さをXとすると、図から明らかに、
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となる。メスクリンの場合b=1だから、
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となる。Pは緯度θをパラメーターとして、
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で表されるから、xとyをパラメーター表示に置きかえれば、緯度θに対する射影は、
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となる。作図すると、

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 ……おかしい。「メスクリン創世記」の断面図と全然違う。
 これでは極地の緯度間隔が広すぎる。上の平射図法で描いた世界地図を見ると緯度の間隔は低緯度ほど拡大するようなので、拡大の傾向が逆ではないか。
 簡単だと思ったがやはり簡単ではなかったようだ。

 どこで間違えたのか考えてみた。さきほどの楕円はパラメーター表示を使って描いたものだが、これは円を南北にb/aの比率になるよう押しつぶした形になっている。ということは、緯度を与える中心角も平たくつぶれていることになるわけか。
 実際、上の図の楕円の方を見ると、45度の緯度があるべきところが80度辺りになってしまっている! これでは正しい値が出るわけがない。
 平面射影自体はこれで間違いないと思うが、問題は緯度にあったわけだ。正しく緯度を与えるには角度を等間隔にとらなければならない。つまり楕円に対して円の中心角で緯度を与えなければならないわけだ。これはちょっと大変そうだ。

 つまりこんな図になる。

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 この図を使って紙の上で楕円上に緯度を与えるなら定規と鉛筆一本あればできるが、計算でやると大変なことになりそうだ。どうやって計算したらいいだろうか。
 経緯線を引くだけならすべてを作図で済ませることもできなくはないが、それと作中のGの描写を合わせるには緯度に対する重力の値が必要になる。これは計算で求めるしか道がない。どうしても手を抜きたければ「メスクリン創世記」の図から補間する方法もあるが、Gの変化が極端に非線形なので正確な結果は期待できない。
 メスクリンの地図では各地の重力こそが重要なのだから、ここを誤魔化すことはできない。結局、きちんと計算しろということか。

 まあやってできないことはないだろう。まず極座標の方程式で楕円の焦点からの中心角を与え、それを外接円の中心角に引き戻す式を作る。ここは普通の三角関数で間に合うだろう。そうやって式が立ったら、その逆関数で楕円上の点の中心からの距離も出る。あとは適当に数値計算して楕円上の緯度を求める。緯度が出れば中心からの距離も求まるので、引力と遠心力の合力でGが求まる。だいたいこんなところか。
 面倒くさい式にはなるだろうが、計算は初等関数で済むだろう。

 続きは、計算ができてからということで。昨日と今日でかなり自信喪失したので、続きを書けるまではちょっと長引きそうである。

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注:
1 『重力の使命』,ハヤカワ文庫SF ,p306. この縦横の比率はメスクリン人の世界地図である「お椀」の形として1章p19で示されているが、惑星のサイズの数値そのものはp231になってようやく出てくる。
2 大川誠「空想科学シンポジウム7(SFフ科会報告)メスクリンは平たすぎる!」,SFマガジン1976年2号,p230。おそらくこの記事に刺激されて書かれたのが、小林泰三「時計の中のレンズ」である。そこに登場する惑星の形の計算は,前野 [いろもの物理学者] 昌弘氏HP http://homepage3.nifty.com/iromono/books/kobayashi.htmlに示されているが、結果は大川氏が求めたメスクリンの形と同じである。
3 実は、中心に質量が集中していると仮定せず、密度が均質な天体として計算すれば、やはりメスクリンのように回転楕円体となる。詳しくは荒木俊馬『天体力学』10,11章。
4 『重力の使命』, p23
5 http://mathtrain.jp/daennagasaによる。
6 Hal Clement, Mission of Gravity, Great Britain in 2014 by Gollancz.
7 どうしても計算が気になるような物好きは、(5)もしくはこの辺を見てほしい。
http://hooktail.sub.jp/mathInPhys/elliptical/
8 https://nippon.zaidan.info/seikabutsu/1996/00278/contents/011.htm
9 http://www004.upp.so-net.ne.jp/s_honma/circle/circle2.htm
10 http://www004.upp.so-net.ne.jp/s_honma/figure/mercator.htm
11  Wikipediaで図法を調べたら、地球を回転楕円体として扱った図法もあるそうだが、その場合でもごく球に近いものを考えているだろうから、メスクリンに使えるかどうか。

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