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2015年03月25日05:02

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中性子星の表面はどう見えるか(発作的フェルミ推定)

(とあるメッセージに書こうとした話題だが、長くなりすぎたので日記に移籍)


 ちょっと前に、TVのハードディスク容量が残り5時間を切っているのに気づき、慌てて録画の消化を始めたのだが、その結果として、ずっと前から気になっていた「コズミックフロント」のあるシーンがまだ残っていたのが分かった。

「宇宙からの信号 パルサーの正体に迫る」昨年1月9日の放送だった。
 番組のほとんど最後のシーンが、中性子星の表面を想像した映像だったのだが、
「強力な重力により凸凹はならされ、表面は鏡のようにツルツル」で鏡像が映る、と描写されていた。これがずっと引っかかっている。果たしてこれは正しい描像なのだろうか。

 というのは何十年も前から、パルサーの周期が急に変化する現象は中性子星の表面が収縮して陥没するのが原因とされているからだ。そういう現象が起こるのだから、むしろ地表は多少なりとも凹凸があるはずで、鏡のように平らなのは変ではないだろうか。一年前からずっと考えていた訳でもないが、喉に刺さった小骨の一本には違いなかった。

 そこでせっかくの機会だからと少し調べてみたら、「中性子星の表面の凹凸は最大で5ミリ程度」という記事を発見した。

http://blog.livedoor.jp/drazuli/archives/7586885.html

 海外掲示板の書き込みらしい。しかし信用していいのだろうか。

 さらに蔵書をあてずっぽうに調べてみたら(後先だが、紙の本は検索ができないのでつい後回しになる)、サイモン・ミットン『現代天文百科』に、「中性子星の表面あたりでも重力場は非常に強いので、どんなに高い山でもせいぜい0.5僂旅發気靴ない」(110ページ)とあった。「5ミリ」のソースはたぶんこれだろう。
 もう一つ、林忠四郎編『星の進化』に(パルサーの)「周期の変化の大きさから推定すると表皮(中性子星の地殻)の落ち込みはせいぜい1〜0.01僂らいのわずかなものである」(160ページ)ともあった。
 これらの記述はだいたい合っているので、5ミリという数字にかなり信憑性が出てきた。


 中性子星の質量は太陽の3倍以内で半径は10卍度である。ということは半径が太陽の1万分の1程度だから表面重力はその二乗の逆数で太陽の1億倍から3億倍程度になるはずだ。太陽の表面重力を約30Gとすると、中性子星の表面重力は地球の30億倍〜100億倍になる。

 この重力でどの程度の凹凸が可能なのかを知りたいが、悲しいかな必要な知識がない。どんな知識が必要なのかも見当がつかない。

 仕方がないのでとりあえず、地球表面の凹凸から類推してみよう。地球の凹凸はプラスマイナス10卍度で、半径が約6400劼世ら、地球表面の凹凸は半径の300分の1程度にしかならない。
(これは相当平滑な面である。中谷宇吉郎『科学の方法』(岩波新書)には、「直径12センチメートルの円をコンパスで書くと、地球の凹凸はこの円を描いた鉛筆の線の幅に収まってしまう」と書いてある)

 中性子星の表面重力は地球の100億倍くらいだから、もし凹凸の高さが単純に重力に比例するとしたら、半径の1兆分の1程度ということになる。中性子星の半径が10劼覆蕁凹凸の高さは10^-11m、すなわち0.01ナノメ−トル程度。

 うーん……資料にある「5ミリ」と比べて桁違いに小さい……こんなにオーダーが違うのだから、単純比例という仮定はほぼ確実に間違っていそうだ。
 正しい答を出すには天体物理学の知識が必要と思うが、今の自分には全く無理。

 正解が分からなくても、せめてフェルミ推定できないだろうか。中性子星の表面から、重力に逆らって物体を持ち上げるのに必要なエネルギーなら見積もれそうな気がする。これが分かれば中性子星上で山の高さがどのくらいになるか、見当がつきそうだ。

 そこで位置エネルギーがどうなるかを調べてみよう。
 物体をある高さまで持ち上げるのに必要な位置エネルギーはGMm/rであり(気にはなるが符号はとりあえず無視)、一方、重力はGMm/r^2だから、
「位置エネルギーは表面重力の平方根に比例する」
ことがわかる。

 さらに具体的に考えてみる。
 太陽の半径は約60万劼巴狼緘招造里曚100倍。そして質量は33万倍。よって表面重力は
3.3×10^5/100/(10^2)^2≒約30Gになる。
 中性子星は太陽と質量がほぼ同じで半径が約10辧△海譴和斥枷招造10^-5倍程度だから、 太陽と同じ質量の中性子星では、表面重力は太陽の10^10倍で、表面から同じ高さの物体の持つ位置エネルギーは10^5倍になる。

 すなわち、中性子星の表面重力は地球の30×10^10倍=3×10^11倍だが、同じ高さまで物を持ち上げるエネルギーはその平方根で、”たった”55万倍にしかならない。

 そこで山の高さが重力でなく位置エネルギーに比例するとすれば(確かに、こちらの方がありそうな気がする)、中性子星の半径は地球のだいたい6万分の1なので、大雑把に地球の10^-5倍とすると、

1/(300×5×10^5)=1/(1.5×10^8)

となって、山の高さはだいたい、半径の1億分の1程度になる。
半径10辧10^4 mなら、10^-4 m=0.1ミリ程度となりそうだ。

「高さ5ミリ」とは、まだ一桁違うが、こんなに大雑把な見当で、このくらい数値が近ければ、たぶん根本的な間違いはないだろう。ここまで考えておけば、5ミリという数値も安心して使える。


 これで一応の評価は得られた。

「中性子星の表面は地球の表面より10^7倍滑らか」

ということになるが、これはどの程度の平滑さなのだろうか。「コズミックフロント」のとおり中性子星を鏡として使える程なのか。

 さらに調べてみたら、真球キログラム原器というものがあって、表面の凹凸は10^-4mm程度だそうだ。

http://hamarepo.com/story.php?story_id=2277

 この球のサイズは記事に書いてないが、シリコンの密度は2.33 g/cm^3なので、1圓世搬寮僂435^3、よって半径は4.7僂砲覆蝓凹凸は半径の10^−5倍程度、中性子星のサイズだと半径10劼紡个靴同凸は10センチメートル程度になる。

 つまり中性子星表面の凹凸が10僂離ーダーであれば、この真球のようになるはずだ。実際はそのさらに20分の1なのだから、完全に鏡のように滑らかと考えたくなるのは無理もない。


 これが結論だろうか? たぶん違う。普通の鏡の表面に5ミリ単位の凹凸があったら、顔がまともに映るだろうか。紙やすりの表面は0.1ミリの凹凸もないが、全く鏡にはならない。
 鏡像が映るには、表面の肌理が可視光線の波長より小さくなければならないはずだ。中性子星が鏡のように見えるのは、波長1儖幣紊療吐箸埜た場合だろう。

 正確なところは例によって知識がなくて分からない。たぶん一般相対論的効果も考える必要があるだろう。ブラックホールの見え方を相対論的にシミュレートした映像は珍しくないが、中性子星で同じことをやった(らしい)のはコズミックフロントのあの番組だけかもしれない。少なくとも他で見た記憶がない。

 あえて推測するなら、中性子星の表面重力では地形は非常に短い時間で生まれたり消えたりするかもしれない。超高密度物質でできているから、地震波の伝搬も超高速であり、だから地殻変動の速度も超ハイスピードな気がするのだ。そして風化で消える時間もごく短いだろう。中性子星には大気があると考えられているので、風化もあるはずだ。大気の厚さは5センチくらいしかないそうだが。なお大気の主成分は鉄の蒸気だそうで、最近BSで再放送された「地球大進化」の、小惑星衝突で生じる岩石蒸気に近い感じがする。

 とすると、中性子星の表面は固体の地殻というより、地形のサイズ及び生起のタイムスケールからいって、さざ波立つ海面のような感じではないだろうか、という想像ができる。地表の見え方も陸地より海に近いかもしれない。だとするとコズミックフロントの映像も分からなくはない。
 ただ、もし表面に火山があるとしたら、火山の高さは5ミリ以下でも、煙は高さ数センチにたなびくのだから、地表とははっきり区別できるだろう。煙の動きも非常に速くて、表面にハイスピードで模様が生起するように見えそうである。総合すると、陸地でも海でもない、どちらにも似ていない様相を呈する感じがする。

 最後はフェルミ推定を大幅に逸脱した感があるが、私の中性子星のイメージはほぼロバート・L・フォワードの『竜の卵』によって形成されたので、表面に火山があったり森があったりする映像がどうしてもまず浮かんでしまう。これとNHK番組の鏡のような球体とでは相当かけ離れている。真実は両者の中間にあるのだろう。

 中性子星について詳しく書いた本には、柴田晋平『宇宙の灯台―パルサー』がある。未見だが、たぶん「中性子星を間近で見たら、どんなふうに見えるか」については書いてないような気がする。

 経験からすると、こういう問題意識に応えてくれそうなのはごく一部のハードSFしかなさそうだ。
 一応思いつく本を上げると、
ロバート・L・フォワード 『竜の卵』 『スタークエイク』
スティーブン・バクスター 『フラックス』
アリステア・レナルズ 『啓示空間』
マイク・ブラザートン 『スパイダー・スター』

などがある。ラリイ・ニーヴンと石原藤夫にも短編があったが、中性子星の「表面」については全く描写していなかったので検討外。

 レナルズとブラザートンは読んでいないので暇な時にでも探してみようとは思う。といっても、自分としてはできれば、そういう内容の「科学書」が欲しい。

 あーあ、そういう研究か何か、道に落ちてないかしら…… (Ⓒ高橋留美子)
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