展覧会への出品を止め、画壇から姿を消した省亭ですが、その後は富裕層からの注文で掛軸などを描いていたそうです。
渡辺省亭「花菖蒲に鯉魚図」
酒井抱一 「十二ヶ月花鳥図貼付屏風」
省亭は「西洋画は形態を写すを主として趣味がかけ、日本画は趣味のみを求めて形態を忘れている」と語っています。
日本画のリアリズムとは、現実をそのまま写すのではなく、ちょっと変えてしまう嘘と遊びがあります。
見る人によって想像を加える余地があります。
真実ではないが、人がみたいと思う理想を取り入れています。
若冲の「動植綵絵」は全ての生き物に仏性があるという理想が描かれています。
抱一の「十二ヶ月花鳥図」シリーズは各月のモチーフで遊ぶ趣味の絵ですね。
同時代の日本美術院派、京都画壇とは一線を画す省亭の目指すところは、
私淑する抱一であり若冲でした。
酒井抱一 「十二ヶ月花鳥図貼付屏風 六月」
渡辺省亭 「十二ヶ月花鳥図」1897〜1906
抱一の画題、構図を引用しながら、装飾性が高いつる種を消して、トンボを小鳥に変えています。
薄墨で雨を表現し、紫陽花の枝は色彩の明暗で立体性を表現しています。抱一のたらし込みによる葉っぱより写実的ですね。西洋絵画から取り入れた要素ですね。
全体に、シャープで清雅な印象です。
伊藤若冲 「動植綵絵 雪中鴛鴦図」
渡辺省亭 「雪中鴛鴦之図」1909年
若冲の画は、濃密な色彩、細密描写、ねっとりした雪の表現から幻想的でもある。
省亭は若冲へのオマージュを示しながら、七宝下絵のような柔らかな描写で、穏やかな明るい冬景色になっています。
若冲の鴛鴦(おしどり)が雌雄別に描いているのに対して、省亭は仲睦まじく描いています。
省亭は、ドガやマネとの交流から日本の伝統的絵画に自信と誇りを持ちながら、西洋絵画の特徴を、受容し、変容させ、超越していくという日本文化の歴史を踏襲しています。
抱一や若冲の南蘋派の影響と同じですね。
岡倉天心の民族主義的(本質はインターナショナルだが)な芸術運動に隠れて、永く忘れられていた渡辺省亭であるが、本年三月の芸大美術館の展覧会でブレークする事は間違いない。
お薦めします。
完
参考
国宝「紅白芙蓉図」李迪(りてき) 南宋
1197年 東京国立大博物館
芙蓉の変種「酔芙蓉」は一日のうちに、花の色が白からピンク、紅色に変わる。「酔った」様子に似ていることから酔芙蓉と云われる。
素晴らしい絵です!!
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