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2020年10月30日16:50

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スパイの妻と溝口健二

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ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞した黒澤清監督賞の「スパイの妻」を観ました。

この作品は、2020年6月にNHKのテレビドラマとして放送されたもの。テレビドラマがメジャーな映画賞を受賞するのは珍しいと思います。

時代は1940年前後、満州国設立後の日中戦争が舞台です。

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神戸で貿易会社を経営する、高橋一生とその妻の蒼井優。蒼井優の幼なじみで神戸憲兵隊の隊長、東出昌大。激動の時代、三人の運命が動き出す。

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戦争犯罪を扱うシリアスなストーリーですが、「存在の耐えがたい軽さ」(蒼井優・高橋一生、二時間ドラマのノリ)を感じる映画です。
この軽いノリは、テレビドラマという制約もあったのでしょうが、それが銀獅子賞とはなんという皮肉でしょう。
それでも、憲兵役の東出昌大、高橋の甥役の板東龍太は存在感が有ります。


さて、劇中で溝口健二の映画の話題が出ます。戦前から、「瀧の白糸」「祇園の姉妹」などの作品で人気だったようです。
戦後は、1954年のヴェネツィア国際映画祭で黒澤明「七人の侍」と共に、「山椒大夫」で銀獅子賞を受賞しています。

最近、溝口をもう一度見直しています。
その中で、一番のお気に入りは、「西鶴一代女」(1952年)です。

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主演は、田中絹代で若き日の三船敏郎が田中を思慕する侍役で出演しています。

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「西鶴一代女」は井原西鶴の「好色一代女」(1686年)を原作に作られています。
御所に上がる公家の娘が、一途に生きていく中で、苦界に身を落として行く物語です。映画を観た時マルキ・ド・サドの「美徳の不幸」(1787年)との思想的相似に驚きました。今や、哲学者としも評価されているサドの「美徳に生きようとする主人公が次々と不幸に襲われる」というストーリーが、100年前の日本で一般庶民に愛読されていたのです。

「西鶴一代女」は、溝口のワンシーン・ワンカットの映像が素晴らしく、田中絹代のケレン味たっぷりの演技(演出による)が妖艶です。
冒頭、三船の告白に、拒絶していた田中が「く」の字になって崩れる場面はゾックっとします。

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花魁になったヒロイン

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尼になり仏に仕えようとするヒロイン


田中絹代というと、底意地の悪そうな印象がありますが、溝口作品ではなんともいえない色気があります。


高峰秀子が歴代ベスト女優と思っていましたが、田中絹代の凄味はすてがたいですね。



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絶景スポット鎌倉山のそば会席「らい亭」が、一時期、田中絹代の住居だったと最近知りました。


嵐山の大河内山荘ほどではありませんが、昔の映画スターはスケールが違いますね。







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