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2019年11月16日08:28

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三笠の懺悔(捷号作戦6)

25日8時・横須賀鎮守府地下司令部

「鳳翔さん、瑞鶴より通信、我敵機動部隊と接触せり、兼ねての計画通り北に引きつけると・・」

作戦室で海防艦娘達を仕切る神風が鳳翔に報告する。頷いた鳳翔は神風に尋ねる。

「おかしいですね・・・大和は先ほど敵機動部隊主力と交戦を開始せりとあります。交戦の最中に艦載機を敵に向けるのは不可能ですよ!」

昨日よりの報告から機動部隊主力は別の場所にいるのではないかという疑いは的中したと感じた鳳翔は神風に三笠大姉様に報告すると告げた。

「私たちから大和に知らせないの?」

「誇り高い彼女のことです。私達が強く言っても聞き入れませんよ!」

「そうね・・任せたわ!」

事は急を要すると思った鳳翔は三笠がいる長官室に入った。如何なさいましたか?と尋ねる三笠に鳳翔は瑞鶴達は敵の誘導に成功せりと答えて念のためにも大姉様の名前で大和達に戦闘を切り上げてレイテに直進しろと命じて欲しいと願った。

「大和達が接触した敵部隊は護衛空母部隊でしたか・・・こうなったからには皆に私の意思を伝えなければいけませんね。鳳翔さん案内しなさい!」

はいと頷いた鳳翔は三笠を作戦室に案内した

「三笠大姉様に敬礼!」

神風の音頭で作戦室にいた海防艦娘達は神様である三笠に敬礼する。一時を争う中でも悠々と敬礼を返す三笠に焦れた鳳翔は三笠を急かした

「大姉様、瑞鶴達から大和達に重ねて敵を誘導せりと伝えているものと思われますが過去の戦況から察するに上手く伝わってないかもしれません・・・ここは大姉様から大和にレイテに突撃しろと命ずるべきかと思います!」

「大姉様、我らからもお願いします!」

傍にいた神風達も三笠に頭を下げて大和に一言お願いしますと懇願した・・が三笠は答えた

「・・・皆の気持ちはわかりましたが・・・私から大和に申すことはありません。彼女を信じて全てを任せたいと思います!」

予想もしなかった回答に呆然として顔を見合わせる神風達の気持ちを読んだ鳳翔は抗議した。

「お言葉ですが、この戦いに敗れたら次はありません!大姉様の名前で戦を完遂せよとお伝えください。愛宕と武蔵の弔い合戦だと強調すれば大和も納得するはずにございます!」

「いえ・・・伝えません。力の強い私達が現実世界に干渉することは我らが掟を破ることになる。大和に全てを任せます!」

話に耳を傾けようとしない無責任な態度に怒った鳳翔は神風が止めるのも聞かず三笠に掴み掛かって懇願する

「出撃に先立ち『陛下のために命を捧げろ』と大和達に命じたのは大姉様、あなたじゃないですか・・・逃げないでください!」

「逃げた・・・私はあの戦いの時に露点艦橋で指揮した時の気持ちで常に過ごしてましたが、そのように取られるとは情けない!」

「ですがあの時は勝ちが完全に見えた時だからこそなされたことで・・・」

「鳳翔、大姉様をそれ以上責め立てるのはやめて!」

自分のしたことを否定された三笠の目つきが変わったのを見て、タダならないことになると察した神風が掴みかかって鳳翔を止めた。こいつ手討ちしてくれようと刀に手を掛けようとした三笠は気持ちを落ち着けてその場に控えた海防艦娘に告げる。

「この戦は大和達に任せます!我らが干渉することはなりません!これに背くものはこの場で全員成敗する!」

「は・・・はい!」

海防艦娘達は直立不動で三笠の命令に従うことを改めて誓い持ち場に戻った。神風に引き摺られて外に出された鳳翔を悲しい目で見送った三笠はその場を旗風に任せて自室に戻るなり

「この戦は負けだ。恐らくあの子達は全滅する!」

と確信した。

同じ頃のサマール沖、退避しつつも艦載機を緊急発進させて追いすがる第二艦隊に痛打を浴びせ続けるタフィー3の護衛空母群を先頭に立って追いかける矢矧の防空指揮所

「あれはまさか・・・上陸部隊の護衛部隊なのか?」

水上の見張りを任された池田中尉が矢矧に話しかける。またも中尉を押し退けて双眼鏡を覗き込んだ矢矧は巡洋艦と駆逐艦の姿を目にして驚いた。

「間違いない。敵の上陸部隊の外陣よ。中尉、司令部に敵上陸部隊を発見せりと伝えて私も大和に伝えるわ!」

分かったと頷いた池田中尉は雪風達には知らせないのか?と尋ねた。矢矧は答えた

「雪風はそのまま空母の追撃をさせる。バラバラに戦っていては勝てるものも勝てないわよ!」

「それもそうだな・・・大和のことは任せたぞ」

ええと頷いた矢矧は大和に敵上陸部隊を発見せり。攻撃を早期に切り上げて上陸部隊に攻撃を掛けるように具申したが、艦隊戦を仕切る大和はそれどころではなかった。

「敵空母機動部隊の反撃により熊野と鈴谷が落伍ですって?」

「はい・・利根が第7戦隊司令部を移動させるために現場に向かっております。どうしましょう?」

大和の補助のために側に控えることになった能代が大和に意見具申する

「矢矧から敵上陸部隊を発見せりとの報告が入りました、いかがいたしましょうか?」

「・・・・・」

大和は作戦の目的を考えたら即座に追撃を中止し再編成の上、上陸部隊に突入すべきだと思ったが、制空権を取られた状況で再編成を命じるのは困難かつ、第3戦隊と第5戦隊を呼び戻すのは士気維持上難しいとも思った。

『前線で戦って来た愛宕さんがいたら適切な措置を取れたのに・・・」

今更ながら愛宕がいないことの意味を知った大和の優柔不断な態度に焦れた能代が再度指示を求めた

「・・・大和長官、ご命令を!」

「わかりました・・・命令を伝えます。第3・5戦隊・10水雷戦隊は敵機動部隊を追撃排除しなさい。能代、あなたたち第2水雷戦隊は第7戦隊を収容しつつ機を見て攻撃に加わりなさい」

「わかりました。矢矧には何と?」

「敵機動部隊を撃退後、再編成終了次第、上陸部隊に攻撃を掛けると伝えなさい!」

「わかりました!」

大和の措置は現場指揮官としては適切なものだったかもしれないが結果としては追撃が中途半端なものに終わった上に、瑞鶴からの電報を見逃すこととなった。

同時刻、大和に囮としての任務が達した事が上手く伝わったものと信じる第3艦隊の
上空には180機の敵機が押し寄せていた。

マックとミッキーが率いる敵戦闘機隊に対空火器を制圧された千歳を目標に艦爆隊が爆弾を投下した

バシ・バシツ・バシぃ!

甲板を貫通した爆弾が内部で炸裂し通信系を派遣する。自分自身に爆撃を受けた艦娘千歳は三度甲板に叩きつけられた。何とか立ち上がろうとした千歳だったが左足があらぬ方向に曲がってるを見て進退が叶わなくったのを悟った。甲板でもがき苦しんでいる千歳を見兼ねた艦娘・五十鈴が助けようと近く

「千歳、しっかりして・・今助けてあげる!」

「駄目・・私はもう戦えない。乗組員の収容を頼む・・私に構わず早く!」

「わかった・・あなたの乗組員と収容はする。後千代田には引きずってでも北に連れていくわ!」

「頼んだわよ。後・・・私を搭乗員待機室に連れて行って」

五十鈴に肩を貸してもらった千歳は搭乗員待機室に入って、沈没の渦と魚雷の目標になるから早く離れてと言って五十鈴を戻らせた千歳が静かに最後を向かえようとした時だった。

千歳を仕留めたと思ったレキシントンの雷撃隊は別の目標の攻撃に向かった。

「あそこにいるナトリ型をやるぞ!」

雷撃機の一個小隊が千歳の側右側を進む多摩に向かって来た

「わぁ〜来ないでなのにゃ〜!」

対空火器を打ち返しながら回避行動を試みる多摩であったが魚雷の一発が艦尾に直撃して落伍してしまった。

「うぅ〜ヤラレタにゃ〜」

「多摩、今助けてあげるわ!」

どうしようかと躊躇っていた五十鈴を見た日向が五十鈴に行ってやれと目配せした。

五十鈴が多摩に肩を貸して引き上げようとした時、瑞鶴にも敵機が張り付いてきた。

「よくぞ生きていたぞ・・ズイカク、貴様にはあの時の借りを返してやる。エセックス。イントレピッド行くよ!」

開戦時の生き残りでこの戦いに唯一参加したエンタープライズが最初の一撃は私にやらせろと言わんばかりにエセックス達に告げる!

「はい、最初の一撃は姉様にお任せします!」

頷いたエンタープライズは艦爆妖精に突っ込めと命じた。直掩機の援護の下に急降下をかけてくる艦爆隊を発見した瑞鳳が瑞鶴に叫んだ

「瑞鶴、艦爆隊が接近してくる!」

「わかってる!」

弓を構えて低空から突っ込んでくる10機に艦攻隊に狙いを定める瑞鶴

「さて、どちらを優先して攻撃すべきかしら?通信装置か脚かどちらを犠牲にした方がいいかしら・・翔鶴姉?」

どうすべきか迷って俯いた瑞鶴だったが覚悟を決めた表情を浮かべて言う。

「腹決めて行くしかないよね…大淀、進路はそのまま損傷艦と沈没艦の救助は駆逐艦に巻かせる!」

「了解しました。進路そのまま!」

大淀が了解した時と前後して対空火器を突破したSB2Cが瑞鶴を射線に捉えて爆弾を投下した

「瑞鶴司令、被弾!噴煙が上がってます!」

千代田の救助に向かった樅が日向に報告する。日向はあの程度では大丈夫だと樅に伝えて貴様らは救助に専念しろと伝える。

「おい、千代田、何してる・・行くんだ!」

「う・・・うん!」

日向が千代田を押し出すように進ませたその時、瑞鶴の左舷から雷撃隊数機が接近を開始した。

「敵も中々やりますね・・・・」

搭乗員待機室に座ってる日高が高槻に尋ねる

「大丈夫だ。あの程度の攻撃で瑞鶴は沈まないよ・・日高、この期に及んで逃げ出しはなしだぜ。覚悟を決めるんだ」

貴様、艦橋に当たるのが怖いと怖気付いたのかと言いたげな高槻の冗談に首を振る日高は再度尋ねた。

「爆弾はともかく・・魚雷を食らったらどうなのでしょうか?」

「その時は瑞鶴ができる範囲で魚雷に耐えられるようにしたという言葉を信じるしかないな・・・」

真横から雷撃機が接近してきてるとの報告を受けた瑞鶴艦橋、

「よし、最大速度を出せ・・・前進全・・」

全力で雷撃をかわそうと矢野航海長が命令しようとした時、艦橋に控えていた天海航空参謀が叫んだ

「ダメです!我々の任務は敵を引き付けることです!速度はそのままに願います!」

「何を言う・・・うわあああ」

速度が上がらないまま雷撃機の攻撃を受けた瑞鶴

「瑞鶴大丈夫か!」

雷撃のショックで気を失った瑞鶴に貝塚艦長が声をかけたが瑞鶴は呆然とした表情で艦長の顔を見返していた。艦長は瑞鶴に気をつけさせようとビンタした

「瑞鶴しっかしするんだ!貴様がこのザマでは艦隊の指揮が取れないぞ」

「う・・・うん・・でも艦長の言ってることがよくわからないの!」

「ま・・・まさかお前!耳を」

驚いた艦長のところに伝令がやってきて被害状況を知らせる

「左舷の機関停止、艦の速度は24に低下!」

「応急指揮所破壊・・内務長戦死!」

「電探使用不能、通信機能著しく低下・・第一遊撃部隊との連絡は不可能!」

「そうか、通信と電探の復旧を急げ!艦の傾斜の復旧を急げ、艦内に火災は!」

「現在、3000トンの浸水がありますが艦内に火災はありません!」

「ご苦労・・・瑞鶴、俺たちも頑張るからお前も頑張ってくれ!」

「ええ・・・でも私は指揮をとれないと思う。早く大淀を呼び出して!後、高槻と日高のことを・・・」

わかったと頷いた貝塚艦長は控えていた伝令に指示を伝える。同時に機銃座の被害状況を報告してきた伝令に搭乗員待機室に行って高槻と日高に機銃座に行って指揮を代行するよう伝えた。

「日高仕事だ、行くぞ!」

「は、はい!」

傾斜してる船の通路を進みながら日高が瑞鶴は大丈夫なのかと尋ねる。高槻はまだこの程度なら大丈夫だと励ました。納得した日高だが高槻に尋ねた

「だけどどうして瑞鶴は最大速度で回避しなかったのでしょうか?」

「それはわからんな・・最大速度を出せるのなら魚雷をやり過ごすことはできたかもしれないがそのことを論じ合っても仕方ない・・ヤツを加賀さん達が守ってくれると信じるしかないな・・・」

「そうですね・・それは生き残ってから瑞鶴に聞いたらいいですよね」

そういうことだと答えた高槻達は機銃指揮官が負傷して指揮するものがいなくなった艦橋横の銃座にやってきた。

「ここの指揮官はどうなったんだ?」

「グラマンに銃撃されて・・・ああなりました!」

指揮官を失って不安に襲われた特年兵がべっとりと血糊が付いた壁を指差して答えた。そうかと頷いた高槻は残された兵を激励した。

「よし今から俺が指揮を執るが・・・貴様らも指揮官を失ってさぞかし心細いだろうて!今から俺が先頭に立って貴様たちを勇気付けてやる。日高、貴様も付き合え!」

「は・・はい、まさかアレをするので!?」

「そうだ、アレをするのだよ。指揮官が根性みせないとコイツら助けられんぞ!」

「は、はい」

服を脱いで褌一枚になった高槻と日高は機銃座の上に立ち上がった。

「いいか・・今から大洗名物のアンコウ踊りを見せてやる!よく見とけよ!おい、日高、音頭取れや!」

「は、はい、貴様達、高槻さんはこの踊りのお陰で上海から今まで生き残ってきた、かく言う俺もろ号とあ号も生き残ってきた。貴様らも生き残りたいのならこの踊りに参加しろ!」

恥ずかしそうな顔をしながら万歳しながら腰を振り始めた。「・・恥ずかしいな」と表情を浮かべる日高を目で制止しながら高槻が兵を煽る。

「おい、貴様らも加われ!落ち込んでたら助かるものも助からんぞ!」

「は、はい・・・あ・・あ・・あん、ああ〜ん」

「もっと気合を入れて腰を振るんだ!こういう具合にな!」

俺の食い込んだ褌をよく見な!と言わんばかりに尻振りする高槻に載せられた兵達も必死に歌声を上げて腰を降る。別分隊の連中も羨ましそうな目付きで高槻分隊の連中を眺める

「あそこの分隊はこの修羅場でも楽しそうだな・・・」

「おい貴様らもお前達もここに来て踊れ!」

「は、はい!」

高槻分隊と煽られていた連中が踊りに浮かれていたその時、魚雷発射管に直撃弾を受けた秋月が最後の時を迎えようとしていた。

「ね、姉さん・・・・水だよ!」

爆風と大火災で大火傷を負って苦しむ姉に初月が真水を差し出した

「あ・・ありがとう、少し楽になった・・・初月、瑞鶴司令達のことは任せたよ」

「は、はい、私が体を張ってでも司令達を守ってあげるから姉さんは照月姉のところに逝ってちょうだい!」

「わ・・わかった・・天皇陛下万歳・・・」

安心した表情を浮かべながら秋月は消えていった。初月は傍にいた槇に姉さんから脱出した生存者の救出を頼むと傍にいた妹達に私が今から指揮を執ると言った

「私と若月は瑞鶴司令の護衛、霜月は救助作業を打ち切って千代田を護衛しつつ第五郡に加わって!」

「は、はい!千代田さん、行きましょう!」

第一次空襲で沈められた千歳の脱出者の救助を打ち切った霜月は千代田を促したが千代田は私はここに残ると言わんばかりに首を振った。

「千代田さん、これは命令です。参りましょう!」

「で、でも…何をするんですか!?日向さん!」

むずがる千代田に我慢ができなくなった日向が千代田に近づいてビンタした。驚いて見返した千代田を日向が一喝する

「後は私と伊勢姉でなんとかする。貴様は瑞鶴と一緒に行くんだ!」

「で、ですが…」

「上官として命令する!行け!」

「は、はい!」

霜月に連れていかれるように去っていく千代田を見送る伊勢・日向姉妹はお互いを見合って呟く

「大和達はどうしてるのかな?私達が敵を引きつけてることは伝わっているのかな?」

「わからん。連中に私達の意図が伝わったと信じるしかない。それより私達がやらないといけないことがある。溺れている連中の救助だ」

そうだなと頷いて救助活動を始めようとした時、第一次攻撃より遅れて発進した30機の攻撃部隊が瑞鶴達に合流しようとする千代田を捉えた。

「敵機数十機、3時の方向より接近!」

「た、対空戦闘用意!」

ここを先途と撃ち返す二隻だったが、直掩機がない現状では限界があった。

「あのテルツキ型は無視してチトセ型に全力投入する」

ジャワ沖でやられた時の倍返しだと言わんばかりに襲いかかる、ラングレイ二世が指揮する攻撃隊は千代田の上空を制圧した。

「千代田さん、3機が直線攻撃に入って来ました!注意してください」

「わかった、急速回避・・・って!え・・・」

全力で回避しようとした千代田であったが別方向から同時攻撃をして来たことには気づかなかったようだ。

「なかなかやるな。JAP、だがこれは避けることはできまい!爆弾投下!」

ヘルダイバーから投下された爆弾数発が飛行看板に命中し一発が内部の機関庫で爆発した。爆風に吹き飛ばされた千代田は上空を漂った後、自身の航空甲板に叩きつけられた。

「何のこの程度・・私を殺すのはまだまだよ・・・」

負傷しつつも本隊に合流しようとした千代田であったが自身の片足が用をなしてないことには気づいていなかった。

「千代田さん、今助けに行きます・・・!!!」

千代田の片足がなくなってることに気づいて絶句する霜月

「霜月、どうしたの?」

「千代田さん・・・足がぁ・・・」

「私の足がどうなったの・・・えっ!」

足首から先を失ったショックで錯乱する千代田を落ち着けようとした霜月だったがそれはできなかった。後陣の指揮を執る日向から通信が入る

「多摩は単独で沖縄へ退避、五十鈴は千代田の救助に迎え、霜月は後方に下がり千歳の生存者を収容せよ」

「わかりました。多摩、悪いけど貴女から離れないといけない。何としてでも沖縄まで頑張って!」

「わかったにゃ・・頑張るにゃ!」

「多摩・・死なないで!」

よろよろと沖縄に向かう多摩を見送った五十鈴は霜月に代わって千代田を助けようと試みる

「五十鈴さん・・・」

「千代田、行くよ!槇は護衛!」

千代田をおんぶした五十鈴は腰に力を入れて千代田を担ごうとするが足を取られて上手く担げなかった。

「・・年は取りたくないわね・・でも、この子を見捨てるわけにはいかない!」

五十鈴達が千代田を救出しようと四苦八苦していた時、漸くにして敵機の追撃を凌いだ大淀が瑞鶴の横に現れた。

「艦隊司令部より「ズイカク通信機能低下・旗艦変更する」との信号がありました。今から貴女に近づきますので措置を願います!」

「う・・・うん、大淀後は貴女に任せる。カッターを寄越して」

二人の会話を聞いてしまった高槻少尉は日高にここは貴様に任せると告げて二人のところにやってきて。大淀に迫ってどういうことなんだと問い詰める。

「私達は司令部の命令に従うのが任務、あなたが口を挟むことではありません!」

「何だと、そんな言い方はないだろ!」

ぴしゃりと撥ね付けられて怒った高槻は大淀を問い詰める。慌てた瑞鶴が大淀に罪はないわよと引き離そうとする

「高槻、止めてよ!大淀に罪はないわ。私達は司令部の判断、私達はそれに沿って動くしかできない!」

「・・そんなのわかってるさ!だがな・・今が戦の正念場だ。少し通信と電探をやられただけで旗艦を捨てることをどう思ってるのか、大淀に聞いてるんだ!」

「私だって臆病風に吹かれた司令部を受け入れるのは嫌です!でも大和さん達に情報が伝わってるかどうかが分からない現状、私が指揮を代行しないといけないといけません!」

大淀の反論をもっともだと思った高槻だったが、彼女を離して好きにしろと吐き捨てて持ち場に戻った。

「・・高槻達のことは私に任せて!大淀は早く司令部の収容を!」

「は・・・はい!迎えの短艇を出しますので機関の停止をお願いします!」

その頃、瑞鶴艦橋では・・・

「おい、通信兵、大淀からの信号はまだか!」

小沢長官に旗艦変更する由を提案した天海航空参謀が信号兵を急かす。臆病風に吹かれた司令部が何を言うかと呆れて投げやりになった信号兵は漸く大淀からの信号を捉えた

「航空参謀、大淀から信号入りました。『今から短艇を出しますので後部デッキで準備をお願いします』とのことです」

「ご苦労、直ぐに担当部署に命令しろ。長官・参謀長、大淀からカッターが参ります。直ぐに降りましょう!」

艦橋で一部始終を見ていた兵達の冷たい目線を浴びて居た堪れない小沢長官達を急かした天海参謀は彼らをせかすように飛行看板に降りて後部に急いだ。

「司令部が逃げていきますよ!」

艦尾に吊り下げられた縄を伝ってカッターに乗り込む司令部に呆れた日高が高槻に言う。

「しょうがないな・・全く!どうせあのションベン参謀が臆病風に吹かれてのことだろうさ!」

「でしょうね!」

高槻達、瑞鶴の乗組員の冷たい目線に送られたカッターは大淀に向かった。

「航空参謀、あそこで搭乗員が助けを求めています!あれも収容したいと思います」

先の攻撃で撃墜された乗機から何とか抜け出した搭乗員が何とかカッターに拾ってもらおうと必死になってるのに気づいた艇長が彼を拾おうと近づいたが天海参謀に止められた

「馬鹿者、司令部の移乗が先だ。あの者達は後で拾えばいい!」

「ですが・・・」

「いいから行くんだ!」

参謀に詰め寄られた艇長は必死になって泳ぐ搭乗員に申し訳ないと思いながら大淀へと向った。

11時過ぎ漸くにして司令部を収容した大淀は再び瑞鶴の横に現れてその由を伝えた。

「瑞鶴さん、エンジンを作動させてください!」

「わ・・わかった!何とか沖縄まで頑張るよ・・・」

第一次攻撃で片方の機関をやられて全力が出せない瑞鶴は力なく頷いて機関を作動させた。

「艦隊は24ノットで北に向かいます。よろしいですね?」

「うん、大淀、こうなっては仕方ないね。貴女に全て任せる」

「大淀、司令部は貴様に任せる。瑞鶴は俺に任せてくれ!」

わかりましたと貝塚艦長に敬礼した大淀は瑞鶴のことをお任せにしますと告げて自分自身に戻った。速度を上げて先頭に立った軽巡を見送った貝塚は瑞鶴を励ました

「瑞鶴、元気を出せ!まだ死ぬと決まったわけじゃない・・万が一の時は俺が貴様に付き合ってやるよ」

「そうだね・・・ここで勝負を捨てたら翔鶴姉達に嗤われるよね!」

元気を取り戻した瑞鶴は立ち上がり大淀の後に続いた。

千歳と秋月を失いつつも何とかして北に引きつけようと第三艦隊が苦戦していた時、第二艦隊では・・・・

「大和長官より通信、新たなる敵機動部隊を後方に発見、それに向って進撃せよとのことです!」

「バカな・・・レイテ湾に集結してる部隊はあそこにいるのよ!」

雪風より報告を受けた矢矧が反論する。側で口論を聞いていた池田中尉が間に入って仲裁した。

「ここで言い争っても仕方がない。大和の命令に従い「ヤキ一カ」に向かおう!」

「で・・でも・・中尉!」

「矢矧、貴様の言いたいことはわかる!だが皆がバラバラに戦っては勝てるものに勝てない。すぐそこにある獲物を逃すのは惜しいが目の前にいる敵を叩くのが先だ!」

わかったと頷いた矢矧は部下の雪風達を率いて大和達の後に続いたがこのミスは高くついた。追撃を打ち切った第二艦隊はなし崩し的に削られることになったのだ。

(続く)
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