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2020年05月25日07:35

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『 手紙は覚えている 』


制収容所アウシュビッツで生き残ったユダヤ人ゼブ(クリストファー・プラマー)は夫婦で老人ホームで暮らしていた。一週間前に長年連れ添った愛妻ルースが亡くなり、ルースの死のショックで認知症が進んで、彼は妻が亡くなったことさえ忘れてしまうようになっていた。妻の喪が明けると、同じ入所者で車椅子生活を送るマックスから、「 君と約束したことを覚えているか? 奥さんが亡くなったら、計画を実行に移す約束だ。大丈夫か? 」と告げられる。マックスとゼブはアウシュビッツで生き延びた囚人仲間で、二人の家族はアウシュビッツで殺されていた。彼らはゼブの妻ルースが亡くなったら、自由に動けるゼブが老人ホームを抜け出し、二人の家族を殺した収容所ブロック責任者オットー・ヴァリッシュに復讐する計画を立てていたのだった。マックスはオットーが「 ルディー・コランダー 」という偽名で1940年代にアメリカに入国し、一般人として生活していることを突き止めてたが、同名の候補者は4人存在した。認知症のゼブに替わって、マックスは探索・殺害までの詳細なプランを手紙に書き、ゼブはその指示に従って、途中、何度も電話でマックスと連絡をとりながら、目的のオットーを捜し出す旅に出るのだったが・・・。 (Amazonプライムで配信視聴)


 この先、ネタバレ全開。 







 オットー・ヴァリッシュ本人の顔を知るのは、車椅子のマックスと認知症のゼブの二人しかいない。行動に制限のあるマックスが計画立案と支援に回り、認知症ではあっても自由に歩き回れるゼブが探索・殺害を担うのは合理的だ。マックスは認知症のゼブが何もかも忘れ、オットー探索・殺害計画が頓挫する危険性を考慮して、彼に渡す手紙の冒頭に事態を把握できる「 状況説明 」を明記している。そこには、愛妻ルースが一週間前に死んだこと、ルースが亡くなったあとにゼブが復讐計画を実行に移すと宣言していたことと共に、4人のルディー・コランダーの所在、列車・バス・タクシーなどの移動手段と宿泊場所など緻密な計画が順を追って、丁寧に書かれていた。ゼブは旅の途中で何度も混乱するため、自分の左手首に「 手紙を読め 」と注意を書き込み、それに気がつくたびにマックスの手紙を読み返し、記憶を蘇らせるのだった。

 この映画の怖さは、認知症のゼブがマックスの手紙だけを頼りに、オットー・ヴァリッシュ捜索の旅を続ける過程にある。マックスの手紙に指示に従って、ゼブが銃砲店で拳銃を購入してからは、その怖さが一段と高まっていく。無造作にポーチに入れて持ち運ぶ拳銃(グロック)を他人に見られてはならないのだが、ゼブは認知症である。マックスがゼブに持たせた手紙は探索と殺害のための手引書であっても、ゼブが常に手紙の内容を覚えているはずがなく、拳銃をポーチに入れているという認識も希薄だからだ。国境を超える時、ハラハラさせる演出が巧い。

 ゼブが絶大な信頼を寄せるマックスの手紙(指示書)だが、邦題『 手紙は覚えている 』は少々、映画の内容に寄り添い過ぎているきらいがある。勘の鋭い視聴者(観客)にとって、この邦題は完全なネタバレになりかねない。手紙は覚えているが、ゼブ本人が忘れている重要な過去の存在を邦題が暗示するからだ。私は予告編を見た瞬間から、「 実はゼブ本人が、捜し求めている親衛隊員オットー・ヴァリッシュではないか?」という疑惑をずっと抱いていた。もし、別の邦題がついていたら、この映画をもっとスリリングに観ることができただろう。残念である。

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