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2020年05月20日08:31

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『 ラスト・キャッスル 』


々にロバート・レッドフォード主演の映画を観た。2010年制作の『 ラスト・キャッスル 』という作品だが、Netflixの新作情報に出てきて初めてその存在に気がついた。劇場公開されたのかどうかもわからない。これほど面白い映画を知らずに過ごしていたことに驚きである。

 レッドフォード演じるユージン・R・アーウィン陸軍中将は輝かしい軍歴を誇る軍人であったが、ある軍事作戦の遂行中、命令不服従の罪で軍法会議にかけられていた。彼は裁判初日に自らの罪を全面的に認め、「キャッスル(城)」と呼ばれる軍刑務所に送致される。刑期は10年。所長のウィンター大佐(ジェームズ・ガンドルフィーニ)は柔らかな物腰の紳士に見えたが、理不尽に厳しい規則を施行して受刑兵達を縛る陰湿な人物だった。軍刑務所の秩序を守るためには自分の言いなりにならない者に「 軍規から逸脱した過酷な懲罰 」を加えたり、場合によっては事故に見せかけて殺害することも躊躇しない。彼は所長室のガラスケースに南北戦争当時の銃弾やサーベルなどミリタリーコレクションを集め、書棚を軍事関連書籍で埋め尽くしていたが、所長室で面談したアーウィンが自分の部下に「 実戦経験のない者はこういった骨董を集める。実際に戦場で戦った我々にとっては『 兵士を苦しめる金属 』でしかない 」と話しているのを聞いて、敵愾心を燃やすのだった。一方、受刑兵達はアーウィンのような高級軍人が軍刑務所で耐えられるはずはなく、いったいいつ自殺するか賭けの対象にしていた。彼らは所長によって敬礼を禁じられ、軍人としての自覚と誇りを奪われた「 荒くれた囚人 」と化していたのだ。

 所長から「 この城に何を期待しているか 」と問われ、「 自分はただ刑期をつとめ、ここから出て家族のもとに帰るだけだ 」と答えるアーウィンだったが、所長は「 陸軍士官学校の生きた伝説 」「 軍人の中の軍人 」であるアーウィンを過剰に意識する。そして彼の軍歴と資質に嫉妬し、その言動にことごとく対抗しはじめる。平穏に軍刑務所生活を送るつもりのアーウィンも所長の行き過ぎた運営手法は目に余り・・・。

 この先、少しだけネタバレ。









 この映画は一見すると刑務所映画だが、実は見事な軍隊映画になっている。「 軍隊において良い指揮官とは何か 」、指揮官の資質と責務についてこれほど単純明快に描いている映画は珍しい。ウィンター大佐は階級と刑務所長という立場を最大限に活用し、受刑兵達を意のままに操ろうとするが、彼らは所長の力にねじ伏せられて外面的に従うだけだ。一方、アーウィンは同じ受刑兵として当然ながら将軍という階級をかさに威張ることはなく、極めて普通に彼らと接しているのだが、アーウィンの言動によって受刑兵は自然に彼をリーダーとして認めていく。能力も人望もない指揮官は階級や立場をよりどころとし、能力と人望のある人物のもとには自然と人が慕い集まり、当たり前のように指揮官のポジションに押し上げられるのだ。

 物語は所長のウィンター大佐と受刑兵アーウィン中将のわかりやすい対立劇ではあるが、実に示唆に富んでいる。受刑兵を「 囚人=敵 」と呼び、軍人としての自覚と誇りを奪い、それによって軍刑務所の規律を保とうとした所長は規律の維持に失敗し、軍人の自覚と誇りを回復させたアーウィンはたちまち受刑兵達を「 規律ある部隊 」へと変貌させた。もし、所長が最初から収監された兵たちを軍人として扱っていたなら、軍刑務所の管理運営は全く別の形になっていただろう。大戦中の捕虜収容所では、実際に捕虜の階級を尊重し、軍組織を維持したまま捕虜の収容所内自治を容認するのが普通だったからだ。

 私がこの映画で注目したいのは、所長のウィンター大佐がなぜ、アーウィンと対決することを選び、自ら混乱を招いたのかという点である。単に、軍刑務所の秩序を保ち、平穏な運営を目的としていたならば、事件は起きなかっただろう。所長は一度も戦闘部隊を指揮したことがなかったはずだ。実戦経験のないことに強い劣等感を抱いていたために、アーウィンの輝かしい軍歴に嫉妬し、階級によらず天性のリーダー気質で受刑兵達を組織化したことが許せなかった(彼は「アーウィンは自分の刑務所を奪おうとしている」と危機感を抱いていた)。実戦経験のない所長は、アーウィンの作戦立案力と部隊運用力を想像することさえできず、自ら窮地に陥り、破滅する。野戦指揮官(アーウィン)とデスクワークの事務官(ウィンター)の力量の差は厳然としていた。

ラストキャッスル、ロバートレッドフォード
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