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2020年02月19日09:26

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『 1917 命をかけた伝令 』


告編を観た時からずっと気になっていた映画『 1917 命をかけた伝令 』をIMAXで観て来た。予想を超える面白さに大いに満足した。『 1917 』は第一次大戦の塹壕戦体感型映画といって良いだろう。劇場の大きなスクリーンと大音響があって初めてその真価を発揮する映画だという点では、『 ゼログラビティ 』や『 ダンケルク 』と同じカテゴリーにある。少しでもご興味のある方はぜひ劇場で、可能ならばIMAXで鑑賞されることを強くお勧めする。恐怖と緊張の連続する「 得難い戦場体験 」が堪能できるだろう。

 ワンカットで撮られた映画ということが前面に押し出されて、「そこ 」ばかりが取り上げられているが、この映画の面白さはそれだけではない。最初は主人公であるブレイク上等兵とスコフィールド上等兵から片時も離れない「 カメラの視点 」が気になって、どうやって撮影しているのだろうと考えながら映像を観てしまうが、そんなことはすぐに忘れる。塹壕戦のことを多少知る映画ファンであれば、白昼、塹壕から頭を出すことがどれほど危険なことかわかっているからだ。まして二人は味方の支援もないまま、塹壕を出て、ドイツ軍の塹壕陣地正面を突破するのである。敵味方の塹壕線にはさまれた無人地帯は障害物と有刺鉄線が張り巡らされ、銃砲弾で掘り返された泥沼には死んだ軍馬や戦死体が埋まり、腐敗臭に満ちた不気味なエリアだ。撤退したとはいえ、いつ敵が出現するかわからない恐怖を感じながら、主人公二人の体験を「 リアルタイムで共有する 」ことこそ、監督がワンカット撮影で意図したものだろう。

 英軍とドイツ軍の塹壕の作り方の違いはなかなか面白かった。ドイツ軍は塹壕の重要さに早くから気がついており、防衛するのに有利な高所を選んで塹壕線を構築した。ドイツ軍の塹壕は鋼材やコンクリートで強化され、深く広く、また、排水が考慮された快適な陣地になっている。ドイツ軍に対抗する形であとから塹壕線を構築した英軍は自然と土地の低い場所にあり、木材や竹で側壁が崩れないようにしてはいたものの雨水が塹壕内に流れ込んで溜まる不衛生な環境にあった。しかも高所のドイツ軍陣地からは撃ち下ろしとなるため射撃戦では最初から不利であった。さらに、ドイツ軍は開戦当初から狙撃兵の活用に積極的で、「 狙撃兵 」そのものに理解のない英軍は時折、頭部を撃たれて戦死する兵士は「 流れ弾 」に当たって死んだと思い込んでいた。膠着した戦線で一日に10人20人の兵士が頭部を撃たれて戦死するようになると英軍も塹壕から頭を出して外の様子をうかがうのがいかに危険かを察する。「 狙撃兵危険!」や「 頭を低くしろ!」という立て札が塹壕内に掲示されたり、頭を出さずに外を監視する砲隊鏡(潜望鏡)が配置されているのはそのためだ。映画の舞台となった1917年は開戦後3年を経過しており、英軍もドイツ軍狙撃兵の脅威を理解して対抗するようになっている時期である。この年の4月にアメリカがドイツに宣戦布告、米軍が欧州戦線に参加して欧州の戦いは一大転機を迎える。

 映画の中で英軍の塹壕描写はかなり正確だったと思う。土嚢の積み方や塹壕の高さがきれいに揃っており、英国人らしい几帳面さを感じた。しかし、ドイツ軍の狙撃兵からすればその几帳面さは実に有利に作用したのである。高さがきれいにそろえられた塹壕から頭を出せば恰好な標的となるからだ。対するドイツ軍塹壕の描写は、少々不満が残る。理由は三点。ひとつは重機関銃の銃座らしきものが見られなかったこと。もうひとつは、英軍の塹壕同様に高さがそろえられていたことだ。これは決定的におかしい。ドイツ軍からすれば塹壕の高さをそろえれば狙撃が容易になることを十二分に理解しており、記録によるとドイツ軍は塹壕線の前面にあえて瓦礫を積み上げ、どこまでが塹壕か判然としない工夫がしてあった。三つ目は狙撃兵の狙撃ポイントが作られていなかったこと。当初、ドイツ軍は鋼鉄製の防弾板を設置し、その銃眼から狙撃していた。英軍からの対抗狙撃によって銃眼に撃ち込まれるリスクが高まると囮(おとり)の防弾板をわざと設置し、瓦礫で巧妙に偽装された別の狙撃兵ポイントから狙撃するようになっている。主人公二人がドイツ軍の塹壕内に潜入した時、それら狙撃兵ポイントらしきものが確認できなかったのは残念だ。

 この映画で一番惜しいのは、英独両軍ともに「 塹壕戦の主役たる重機関銃」が登場しなかったことである。第一次大戦が戦線膠着したのは歩兵の突撃が重機関銃の掃射によって完全に無力化され、攻撃側が圧倒的に不利になったのが原因で、重機関銃が描かれていないのはなんとも不可思議だと言わざるをえない。ちなみに、同じ第一次大戦を舞台にした映画『 戦火の馬 』や『 ワンダーウーマン 』では重機関銃の恐ろしいまでの掃射シーンが登場している。
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